「中国のフェミニスム運動の力強さ」Slateフランス版  東アジアの#MeToo特集その1

TEXT by Salomé Grouard 2020.7.22

「Fenminist Voices」が Lü Pinさんの指導の下に動き始めた2009年ごろ、フェミニスムは(中国では)国民的な議論の一部とはなっていなかった。

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北京の女性。2015年7月21日撮影 ©Fred Dufour / AFP

良きにつけ悪しきにつけ、近代中国は毛沢東主義時代の(ときには耐えがたいほど重苦しい)影の中に生きている。現政権はこの歴史を自分たちの利益に変えることを躊躇わないが、彼らは同様に、その社会的遺産とともに生きることを余儀なくされている。文化大革命とその反響により、ひとつの民族全体が、男女平等が国によって支持される社会で生きることが可能となった。しかし、それから約40年後の現在、数字は全く異なる現実を指し示している。

後退

2019年、世界経済フォーラムジェンダーギャップ指数で、中国は153か国中、106位に位置している。つまり、20世紀の下半期のあいだ推奨されていた平等の価値観を、ここに見ることはできない。しかもそれは、改善に向かっていない。中国は、2017年から6つも順位を落としているからだ。
Ye Fanさんは、この変化に驚いていない。なぜなら彼女はその変化を正面から経験し、そこから逃れるために、あらゆることをしたからだ。現在、アメリカ版「ヴォーグ」誌のカメラマンとして活躍する彼女は、上海で生まれ育った。しかし、彼女は上海にすぐに戻るつもりはないという。
「私は33歳で、ニューヨークで暮らしています。独身で子供もいませんが、自分の夢を追いかけています。もし上海にとどまっていたら、すべては大きく異なっていることでしょう」
2016年、Ye Fanさんは中国から離れ、両親とも別れた。両親の理解は得られないままだった。両親は彼女に30歳になる前に結婚することを望んでおり、娘の夢を理解することが難しかったのだ。
「中国では、社会からの、そして家族からの圧力が実に強く、女性が祖国から離れることなく非伝統的な夢を追いかけるのは難しいのです」
資本主義による競争
この社会的圧力は、1970年代の価値体系を思い出させるものではない。しかしそれは、中国でとられた政治的転回点の一つの証である。ポスト社会主義の時代は、国内でのいくつかの資本主義の側面を発展させた。そして同時に、この時代は、家父長制的な価値観と、競争の概念のよみがえりをもたらすものであった。
この二つの結合が、女性たちが若くして家庭を築かざるを得ないシステムを生み出した。そしてそれを確保するために、恥の文化を作らなければならなかった。たとえば、「Leftover Women」としても知られる、「剩女」といった呼び名である。つまりこれは、女性には賞味期限があり、30歳を過ぎると結婚するのによい相手ではなくなることを意味する概念だ。
「何年もの間、両親は私の私生活に干渉してきました。二人は、私の知らない男性たちとのお見合いをセッティングすることに専心していました」と、Ye Fanさんは説明する。
彼女はそのことを自分でも認める。つまり、「(加齢による肉体的変化による)体内時計」のせいで、男子たちよりも、女子たちに対する圧力は強いのである。最近Ye fanさんは、この有名な「体内時計」をコントロールすることを決めた。彼女はニューヨークで卵細胞を凍結保存したのだ。これは中国では未婚の女性にとって、違法な手段である。
「私たちの国は、「未婚の母」という考えを推奨しようとはしません。中国政府は、社会の中での女性の役割に関する彼らのヴィジョンを、私たちがすぐに自分自身に課すよう、私たちに強制しているのです」

儒教のよみがえり

このヴィジョンを課すために、中国共産党は、伝統的価値観を彼らの利点として使おうと試みている。教授でジャーナリストであり、そして中国のフェミニスムに関する二冊の著作のある、Leta Hong Fincher博士は、次のように説明する。
「男女平等は憲法に記載されています。しかし、政府はこれらの道徳的規範を、自分のものと認めていません。儒教的価値体系が、国内のプロパガンダの中でよみがえりを見せています。そしてその儒教的価値観が、女性たちに母として、そして専業主婦としての非常に伝統的な役割に立ち戻るよう、仕向ける政策を生じさせているのです」
これは「孝」の概念で、「親に対する子の忠誠」とも呼ばれるものだ。この概念は、女性たちの従順さ、忠誠、そして母性本能によって、女性たちが家庭がうまく機能するために必要な存在であることを、言外に匂わせている。
「女性たちは、この家族の調和に欠かせない存在なのでしょう。そして、この家族の調和は、民族の安定を保つための基本的なものなのでしょう」と、Leta Hong Fincher博士は説明する。つまり、多くの人たちにとって、これらの価値観が女性たちの解放とは両立しえないものなのは、当然のことなのである。
中国でフェミニスム運動は大きく広がり、これらの運動(の参加者たち)は、この伝統的価値感のよみがえりを非難したいと思っている。Xiong Jingさんは、フェミニスム活動家で、長い間、「Feminist Voices」のエディターを務めていた。この「Feminist Voices」は、2009年から2018年にかけて、国内での男女平等を推進していたNGO団体である。彼女は次のように説明する。
「これらの伝統的価値観が私と同世代の女性たちに訴えかけてくるものは、何もありません。私たちは、文化の変化と一人っ子政策とともに大きくなりました。一人っ子の女性たちは、両親の関心と資力、そして期待と熱望の恩恵に与っています。そのことにこそ価値があることを私たちは知っており、政策などどうでもいいことなのです」

生き延びるフェミニスム

Lü Pinさんの指導の下に「Feminist Voices」が活動を始めた2009年頃、フェニニスムは国民的議論の一部とはなっていなかった。というのも、中国では、東アジアの(また、世界中のほかの地域の)大多数の国々でのように、フェミニストたちは、ヒステリックであるか、過激主義者であるか、あるいはその両方であるとみなされているからである。中国では一般に、「女权主义(フェミニスム)」という軽蔑的な用語が使われており、その訳語の意味は、「女性の権利」と「女性の特権」とのあいだをさ迷っている。しかし、「Feminist Voices」の仕事は、その成果をもたらした。Xiong Jingさんはこう説明する。
「私たちの目的は、議論を万人のものにするために、活動家たちの輪に風穴を開けることでした」
そして、ネット上の検閲の裏をかき、開かれた闘いに寄り添ったかたちで乗り出し、公開のキャンペーンを開始し、中国共産党を直接は批判せず、メディアの注目を引くことで、運動はWeiboで18万人の、そしてWeChatで7万人のフォロワーを獲得することを達成した。
これらの数字は、彼女たちの文脈の中に置き直されるべきである。なぜなら中国では、たくさんの人たちが一つの社会運動をフォローするのは、例外的なことだからである。Hong Fincher博士は説明する。
「このことは、中国政府の暴力的な弾圧でさえ、フェミニスム運動の躍動を止めるには十分でないということです。これは信じられないことです。なぜなら、世界で最も強力な独裁体制の中でさえ、フェミニスム社会運動のための場所が存在するからです。そしてそのことは、希望を与えてくれます」
しかし、たとえそこに希望があろうとも、政府からの返事は暴力的なままだ。

困難は残る

2015年、中国政府は、国際女性デーの折にセクハラを告発するステッカーとフライヤーを配る準備をしていた5人のフェミニスム活動家たちを逮捕し、投獄した。彼女たちは37日間に及ぶ拘留の末、釈放された。
「残念なことに、このフェミニスムは主に漢民族の女性たちにかかわるものです。これまで受けてきた弾圧のせいで、彼女たちは政治的なことを話すことも、自分たちをその中に含むことも、自分に許すことができないのです」Hong Fincher博士は結論付ける。
「中国で稀な社会運動の一つである、このフェミニスム運動。その存続は彼女たちの双肩にかかっているのです。(中国政府が)チベットや香港を自国の領域に含み始めていることや、あるいはウィグル自治区で起こっていることは、運動の死刑宣告に署名をすることとなるでしょう」(了)

www.slate.fr

「性差別的で、女性たちにとって危険な日本の採用面接」 Les Inrockuptible

 

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撮影 Johann Fleuri

TEXT by Johann Fleuri 2019.12.19

日本では50%近くの学生が、就職活動中にハラスメントや性的暴行の被害にあう、いわゆる「就活セクハラ」の被害にあっているという。

12月18日水曜日、ジャーナリストの伊藤詩織さんが、ある男性に対する民事訴訟に勝訴した。伊藤さんは、仕事の話で男性と会った際に、この男性からレイプされたとして告発していた。これは、被害者たちの社会的認知のための、一つの転回点である。
その夜、伊藤詩織さんは、職業上の会合に行くつもりであった。事件が起こったとされる当時、ジャーナリスト志望の25歳(現在30歳)の伊藤詩織さんは、TBSのワシントン支局長で、安倍晋三首相の伝記作者でもある山口敬之と会う予定だった。そこで山口氏は、インターンの申し込みに関する書類にサインするため、東京のすし屋で再会しようと彼女に提案した。
彼女は彼と一緒に酒を飲み、意識を失う。
「私が覚えているのは、レストランの化粧室で意識を失ったことと、それから激しい痛みで目を覚ましたことだけです」
痛みと恐れの中、彼女は自分がホテルの一室にいることに気づく。そして山口氏が彼女の上に乗り、彼女をレイプしている最中だったという。伊藤さんは、夕食中に彼から知らない間に飲み物に薬をまぜられたのだと確信している。並外れた勇気に駆られた彼女は、司法に訴え、公然と償いを要求した。性暴力の被害者たちが沈黙するこの国で、性暴力を告発することが重大な結果をもたらすにもかかわらず、告発の結果、彼女は罵りと侮辱とを浴び、国外に逃れなければならなかった。彼女は現在ロンドンで生活し、そこから闘いを続けている。そして彼女は、日本でのレイプの被害者たちに対する支援が大きく欠けている事実を告発し続け、自身に起こった出来事が氷山の一角でしかないことを、大きく、そしてつよく叫び続けている。彼女は、自身に起こった出来事について書いた、『Black Box』と題した本を出版した。
日本で性暴力の割合が低いのは、「勇気を出して告訴するレイプ被害者の割合が、5%未満」だからだ。そして、勇敢にも告訴をした被害者たちにとって、それは文字通り、闘いの道のりとなる。
「被害を通報したとき、警察が最初に私に言ったのは、「これはよくあること。この種の事件を捜査することは出来ない」ということでした」
12月18日水曜日、彼女は五年に及ぶ激しい闘いの後、加害者とされる男性に対する民事訴訟に勝訴した。裁判所はこの男性に対し、330万円(27,000ユーロ)の賠償金の支払いを命じる判決を下した。裁判官は、「伊藤さんは意識を失った状態で、望まない性行為を強要された」と明言している(それにもかかわらず、加害者とされる男性には刑事事件で嫌疑がかけられなかった。伊藤さんによると、それは、この男性と首相との間の繋がりが理由だという。それゆえ、彼女は民事訴訟を起こすにとどまらなければならなかった)。これは、このような事件に対する、力強い行為である。
「判決に驚きました。聞き入れてもらえてうれしいです」
非常に感動した様子で、伊藤詩織さんはそう解説した。

これは日本人女性たちにとっての、ひどく慎重な革命への道なのだろうか?

暴力や性的暴行は、日本では未だタブーである。この国では、被害者たちは沈黙し、被害を被る習慣がついてしまっている。被害について話すことは、本人や周囲に人たちの名声を傷つけ、汚名を着せることになる。そしてまた、被害について話すことで、企業や仕事の専門分野への入り口は閉ざされてしまう。「ビジネスインサイダー」が今年実施した調査によると、50%以上の学生(大部分が女性)が、就職活動中にハラスメントや性的暴行の被害にあっているという。
伊藤詩織さんと同様に、彼女たちが仕事の話をするための会合に出かけるつもりのとき、彼女たちは、悪意ある採用担当者の仕掛けた罠にはまることになる。日本では企業がキャンパスに赴き、面接に参加するよう、学生たちに直接働きかけている光景をよく目にする。これが大学の外で行われるのが、いわゆる「就活」である。そして、このような公式の活動の範囲内でさえ、彼女たちは保護されていない。
伊藤詩織さんは、日本人女性たちのための消極的な革命の道を開いたのだろうか?

土曜の夜の渋谷駅前。オーロラビジョンの光が目をくらまし、スピーカーからは大音量のポップミュージックが流れている。東京の有名な交差点では、多くの人たちが行きかっている。夕食に出かける人、踊りに行く人、お酒を飲みに行く人たちだ。その渋谷で、およそ30名のプラカードとメガフォンを持った女子学生たちが、声をからして叫び、「就活セクハラ」の終わりを強く求めている。参加者の中には、サングラスをつけ、ニット帽を目深にかぶった女子学生たちもいる。深刻な不安が残るからだ。
「ほかの人たちに自分の事を気づかれてしまったときの、自分の将来に及ぶ重大な結果を、私は恐れています」
そのうちの一人の女性は、そう説明する。
東京大学大学院教授で、SAY(Safe Campus Youth Network)の共同創設者の林香里教授はこのような恐れに理解を示す。
「彼女たちが公衆の面前で勇敢にも話すことによって、彼女たちの国内での就職の機会が危うくなることは、否定できません」

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渋谷で開かれた、「就活セクハラ」に反対する学生たちのデモ 撮影 Johann Fleuri

「Voice Up Japan」の活動に精力を注ぐ加藤わかなさんは、今はもう学生ではないが、支援のためにデモに参加したいと思っている。彼女はこう語る。
「伊藤詩織さんの事件は、「就活セクハラ」が最悪の形をとったものです。誰も彼女が味わったのと同じ被害を受けてはならないでしょう。こんなことは終わりにしなければなりません。それが、私たちが政府に学生たちのためのよりよい防止措置を要求する理由です」
加藤さんによると、日本では、職業上の会談の中での性差別的な発言は日常茶飯事のことのように思えるという。
「「これらの職務は女性には向いていない」と言う男性もいれば、また、「女子学生たちの服装が欲望をそそる」と言う人たちもいます。仕事のポストを提案され、見返りに性行為を求められたと打ち明けてくれた女子学生たちもいます。問題はきわめて深刻で、被害者たちに対するいかなる法的な防止措置も存在せず、被害者たちは、政府からも企業からも支援されていないのです」

最も優秀な女子学生たちが、その性別を理由に制限されている

デモグループは、自分たちの活動が防止策となることを願っている。そして、政府に提出されるであろう、現状を示す報告書を作成することを可能にするために、自分たちの活動によって、被害者たちが公の場で声を上げる気になってくれることを望んでいる。集められた証言の中に、SAYのメンバーで、Voice Up Japanのメンバーでもある山下チサトさん(20歳)の、次のようなものがある。
「私は、採用担当者の自宅に招待されました。というのも、その男性が、自宅に忘れて来たというノートを、私に見せたいと言っていたからです。私は彼にお酒を飲まされ、意識を失い始めました。そして、彼は私の体を撫でようとし、私の体を採点するような発言をしました。そのことで、私の尊厳は傷つけられました…。現在私は、就職活動を諦めています」
もう一人の女性は、この一年間の就職活動中のことを、次のように説明してくれた。
「80%の面接官が、私に恋人がいるかどうか訊いてきたのです。つまり、真剣な交際相手のいる若い女性は、就職のチャンスが少なくなってしまうと言うことです。なぜなら、そのような女性は、結婚して家庭を築くために仕事を辞めるだろうと予想されるからです」
上智大学教授で、SAYの共同創設者の三浦まり教授は、次のように語る。
「面接官たちにとって、そのような質問をするのは、ただ場を和ますためであって、彼らはそれを悪いことだとは思っていませんし、自分たちの振る舞いの何がまったく不適切なのかを、彼らは理解していません。これは深刻な問題です!」
ほかの参加者、19歳の遠藤理愛さんはこう付け加える。
「最も優秀な女子学生たちが、その性別を理由に制限されています。欝や自殺の衝動に苦しんでいると打ち明けてくれた子達もいます。これは人権侵害です」

山下チサトさんは、就職マッチングアプリの功罪を指摘する。これらのアプリは、日本で人気があるもので、東京の地下鉄のいたるところに広告が貼られている。アプリをダウンロードしてみると…
「これらのアプリのインターフェイスは、出会い系アプリのものと取り違えるほどそっくりで、区別できないほど曖昧です。さらに、採用担当者たちは、彼らの本名も写真も提示しなくていいようになっています。これらのアプリの中には、女性志願者専用のものもあります…」

2019年、大企業の採用担当者が、このようなアプリを介して知り合った女子学生をレイプした疑いで逮捕され、メディアで大きく報じられた。
「私が活動家になったのは、日本で働くつもりは全くないからです。私は、沈黙の中に追いやられている友人たちのために話しているのです」
山下チサトさんは辛辣な口調で、そう認める。
「友人の一人が暴行を受けました。しかし、彼女は告訴するのを恐れていました。私は自分の通う大学に相談しました。しかし大学からは、被害者を守るシステムは存在しないという答えが返ってきました。私は憤激しました」

世界経済フォーラムは、最新の「ジェンダーギャップ指数」を発表したばかりだ。それによると、日本は2018年には153か国中110位に位置し(原文ママ)、そして2019年には121位に転落している。(了)

www.lesinrocks.com

レイプ 日本での#MeToo  ジャーナリストの伊藤詩織さん 著名な男性記者に対する訴訟に勝訴 クーリエ・アンテルナショナル誌

TEXT by ASAHI SHIMBUN-TOKYO 2019.12.18

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PHOTO / Kyodo/via REUTERS

12月18日水曜日、日本でのレイプ事件を、公の場で証言した女性たちのうちの一人、伊藤詩織さんが裁判に勝訴した。

ジャーナリストの伊藤詩織さんが,著名なテレビ記者に対する訴訟に勝訴したと「朝日新聞」が報じた。彼女はこの男性記者から、2015年に飲み物に薬を混ぜられ、意識を失っている間にレイプをされたとして、男性記者を告発していた。東京地裁は、彼女の証言の信頼性を認め、テレビ局TBSの元ワシントン支局長であるこの男性に対し、330万円(27,000ユーロ)の賠償金の支払いを命じる判決を下した。
彼女の告発があったにも関わらず、山口敬之には、証拠不十分との理由で嫌疑がかけられていなかった。その結果として、山口敬之は彼女に対して名誉棄損で反訴をしたが、不首尾に終わった。伊藤詩織さんは、レイプの被害の結果生じたストレスに対する賠償のための、民事裁判の手続きを始めていた。「朝日新聞」によると、日本での#MeTooの旗手となった伊藤詩織さんは、判決に満足したという。
「(刑事)事件が不起訴となり、刑事事件の証拠として提出された物のすべてを知ることはできないでいました。それが今回の民事裁判で公になったことに、満足しています」
12月18日水曜日に下された判決の後、彼女はメディアに対してそう表明した。

2017年、伊藤詩織さんは、日本では全く異例な行動を取っていた。彼女は、安倍晋三首相に近い人物といわれる山口敬之に対して行っていたいくつかの告発を報告するために、メディアの前にその姿を現したのだった。(了)

www.courrierinternational.com

東京で開かれたレイプ事件の裁判 #MeToo の顔的存在の日本人女性が賠償を得る Le Parisien

東京地裁は、ジャーナリスト伊藤詩織さんの損害賠償請求を認める判決を下した。伊藤さんは、2015年に民営テレビ局の責任者の男性からレイプの被害にあったとして、この男性に対し、損害賠償を求めていた。

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12月18日、判決を受け、東京地裁の前で「勝訴」と書かれた幟を掲げる伊藤詩織さん。

TEXT by Ph.L. + AFP
彼女は、数年前に民営テレビ局の責任者の男性からレイプの被害にあったとして、提訴をした。水曜日、東京地裁は、ジャーナリスト伊藤詩織さんの損害賠償請求を認める判決を下した。裁判官は加害者の男性に対し、伊藤さんの請求額のおよそ三分の一にあたる、330万円(27,500ユーロ)の支払いを命じた。その一部は、弁護士費用を賄うのに充てられる。
事件は、アメリカで#MeToo ムーブメントが起き始めていた2015年(原文ママ)にさかのぼる。伊藤さんは、当時TBSのワシントン支局長で、彼女にアメリカでの仕事のポストをちらつかせていた山口敬之から、レイプの被害にあったとして、この男性を告発した。山口氏と一緒にレストランで食事をした際、彼から飲み物に薬を混ぜられ、ホテルの一室で弄ばれたと彼女は主張した。
捜査は行われたが、不起訴となった。そこでやむなく、伊藤詩織さんは民事訴訟を起こした。
「私たちは勝訴しました。相手方の反訴は棄却されました。これは一つの重要な節目です」水曜日、裁判所の出口で支援者たちに囲まれた中、彼女はそう主張した。
加害者とされる男性はレイプを否認
「私たちはいくつかの証言を提出することができ、それらの証言は民事法廷で聞き入れられました」
水曜日、彼女はそう喜び、「勝訴」と書かれた幟をかざした。
「正直なところ、まだ実感が湧きません」
今回の裁判所の決定が、現在の社会的、法的環境が「時代遅れ」と評価される日本で、レイプの被害にあった女性たちの置かれた状況を変化させるのに貢献しうることを願って、彼女はそう付け加えた。

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山口敬之(左)、記者会見の席で ©AFP

一方、山口敬之は、再びすべての非難に対して反駁し、すぐに控訴すると発表した。
「国内外のメディアが専ら伊藤詩織さんの主張のみを報道したことが、裁判に影響を及ぼした可能性がある」
と彼もまた表明した。
判決の中で、伊藤詩織さんが「意識をまったく失って無防備な状態で、性的関係をもつことを強制された」ことは明確にされている。それにもかかわらず、加害者とされる男性は、刑事上訴追されていない。

一時的な亡命を強いられる

現在30歳で、日本の人たちから「詩織さん」と呼ばれる彼女は、メディアの前や、『Black Box』と題された著書の中で語ることで、自身に起こった出来事を公にした。しかし、彼女の奔走は、レイプの被害者たちが沈黙する日本でほとんど孤立したもので、彼女は少なくとも一時的に、国外に逃れることを強いられた。というのも、彼女は一つのタブーを打ち破ったからだ。
伊藤さんによると、刑事裁判を起こすための彼女の奔走には、加害者とされる男性(の逮捕のため)の不審尋問の直前でストップがかかったといい、それは山口氏が(政治の)上層部とのつながりを持っているからで、特に、彼が安倍晋三首相の伝記作家であることが理由なのだという。
山口敬之は、すべての非難に対し反論し,名誉を棄損されたとして、伊藤さんを反訴した。しかし、彼は敗訴した。彼の説明によると、伊藤さんは夕食の後、完全に酔っぱらっており、一人で移動できる状態ではなかったため、ホテルに連れて帰り、そこで彼女の求めに応じたのだという。彼は性的関係を持ったことについては認めているが、彼女が性行為に同意していたと断言している。両者は、水曜日と木曜日、それぞれ別々に開かれる複数の記者会見で、自身の考えを述べる予定だ。(了)

www.leparisien.fr

「日本の#MeTooの中心的人物、伊藤詩織さん、民事訴訟に勝訴」Le Monde紙

裁判官は、加害者とされる男性に対し、彼女の請求額のおよそ3分の1にあたる、330万円の支払いを命じた。

TEXT by Le Monde+AFP 2019.12.18

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CHARLY TRIBALLEAU / AFP

12月18日、東京地裁は、ジャーナリスト伊藤詩織さんの損害賠償請求を認める判決を下した。伊藤さんによると、彼女は数年前に日本の民営テレビ局の支局長の男性からレイプの被害にあったといい、彼女はこの件で賠償を請求していた。
「私たちは勝訴しました。相手方の訴えは棄却されました。判決の詳細については私たちは知りませんが、これは一つの重要な節目です」
彼女は、裁判所の出口で待ち構える報道陣の前で、こう表明した。
「私たちはいくつかの証言を提出することができ、それらの証言は民事法廷で聞き入れられました」彼女はそう喜んだ。
裁判官は、加害者とされる男性に対し、彼女の請求額のおよそ3分の1にあたる、330万円(25,000ユーロ)の支払いを命じた。

#MeTooが世界中で起こり始めたころ、伊藤詩織さんは、2015年に、自身の働くアメリカでの仕事のポストをちらつかせていた、民営テレビ局の高い地位にある男性から、ホテルの一室でレイプの被害にあったことを主張し、日本社会に衝撃を与えた。

日本で、ほとんど孤立した奔走

伊藤さんによると、加害者とされる山口敬之が、二人で一緒に食事をした際に、その後で彼女と「楽しむ」ために、おそらく彼女の飲み物にドラッグを混ぜたという。現在30歳の詩織さんは、メディアの前や、「Black Box」と題された著書のなかで被害について語ることで、自身に起こった出来事を公にした。しかし彼女の奔走は、レイプの被害者たちが沈黙を守る日本でほとんど孤立したもので、彼女は少なくともしばらくの間、国外に逃れることを強いられた。
刑事裁判を起こすための彼女の働きかけは拒絶された。それは彼女の主張によると、山口氏と、彼が伝記を書いている安倍首相とのつながりが理由だという。そして、彼女は民事裁判を起こすにとどまらなければならなかった。
刑事事件で不起訴となった山口氏は、レイプの非難に反論し、また、名誉を毀損されたとして、反訴をした。しかし、彼は敗訴した。
彼の説明によると、伊藤さんは完全に酔っ払っており、食事の後どこにも一人で行くことの出来ない状態で、そこで、自身の滞在していたホテルに彼女を連れて帰ったという。そして彼女の求めに応じたのだと、彼は繰り返す。

二人は水曜日と木曜日に開かれる、それぞれ別の会見で自身の考えを述べる予定だ。

#MeTooムーヴメントは、100年以上前に制定され、最近やっと修正されたに過ぎないレイプに関する法律を持つ日本で、大きな広がりを持っていなかった。伊藤詩織さんはこのようにして、レイプの被害にあった女性たちの受け入れに関する病院や警察での対応といった組織や機構のあり方が、どれほど不適応なものであるかを強調したのである。(了)

www.lemonde.fr

「日本の#MeTooの象徴、ジャーナリストの伊藤詩織さん、加害者に対する訴訟に勝訴」『マリ・クレール』誌

TEXT by Thilda Riou, Morgane Giuliani 2019.12.18

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彼女は、2015年にテレビ局の支局長からレイプの被害にあったことを(2017年に)打ち明けた。12月18日、東京地裁は、ジャーナリスト伊藤詩織さんの損害賠償請求を認める判決を下した。彼女は著書『Black Box』の中で、日本の性暴力にまつわる沈黙の掟を告発している。

「私たちは勝訴しました」
今週18日水曜日、民事裁判の開かれた裁判所の出口で、伊藤詩織さんはこう表明した。日本の#MeTooムーヴメントの象徴である彼女は、2015年に、当時、アメリカのテレビ局(原文ママ)TBSのワシントン支局長だった男性から、レイプの被害にあったとして、賠償を請求していた。
ル・モンド」紙によると、東京地裁は、加害者とされる男性に対し、彼女の請求額のおよそ3分の1にあたる、330万円(25,000ユーロ)の支払いを命じた。

民事訴訟

「20 minutes」紙によると、伊藤詩織さんは、加害者とされる山口敬之と、彼が伝記を書いている安倍晋三首相との間につながりがあることを主張していたが、刑事事件では不起訴となり、彼女は、民事訴訟を起こすにとどまらなければならなかったという。しかし、このように奔走したために、伊藤詩織さんは、日本を離れてロンドンに移住することを強いられた。#MeTooムーヴメントの影響をほとんど受けておらず、性暴力に関して沈黙が支配する日本で、性被害についてオープンに語った彼女は、侮辱と脅迫、そして攻撃のメッセージの波にのまれた。
「私が身の危険を味わったのは、アジアで最も安全と名高い国の一つ、私の生まれた国、ここ、日本でした」
彼女は「リベラシオン」紙のインタヴューで、そう説明している。

12月18日水曜日、彼女は裁判所の出口で、少なくとも部分的にではあるが、民事裁判に勝訴した(ことを発表した)。
「相手方の訴えは棄却されました。判決の詳細については私たちは知りませんが、これは一つの重要な節目です。私たちはいくつかの証言を提出することができ、それらの証言は民事法廷で聞き入れられました」と、彼女は評価する。

日本の#MeTooの中心的人物

伊藤詩織さんは、自身に起こった出来事を、著書『Black Box』の中で語った。2015年4月3日に、前夜いっしょに酒を飲んだ男性から、ホテルの一室でレイプされたと彼女は主張している。当時、TBSのワシントン支局長だった山口敬之は、性行為は同意の上だったと断言し、現在まで事件を否認している。
「20 minutes」紙の記事の中で伊藤詩織さんが主張するところによると、二人で一緒にレストランに行った際に、加害者とされる男性が、おそらく、彼女の飲み物にドラッグを混ぜたのだろうという。そして、ホテルの一室で目を覚ますと、レイプをされている最中で、その後、逃げ出すことができたという。
リベラシオン」紙によると、警察に被害を打ち明けた時、伊藤詩織さんは、警察官に取り囲まれたなか、床に寝そべり、等身大の人形を体の上にのせられた状態で、事件の再現をさせられたといい、彼女の体験したことは、まるでセカンドレイプだという。同紙のインタヴューで、彼女はこう説明している。
「「密室で起こったことは、第三者には知りえない」と繰り返し言われました。検察官は、この状況を「ブラックボックス」と形容しました」
この民事裁判に続いて、二人は(12月)18日と19日に開かれる、それぞれ別の記者会見で、自分の考えを述べる予定だ。

レイプに関する時代錯誤的な法律

日本ではレイプの被害者は、加害者に対して力の限り抵抗したことを法廷で「証明」しなければならない。被害者の抵抗を著しく困難にするほどの明確な暴行、または脅迫の存在、あるいは被害者が完全に抗拒不能な状態であったことが証明されない限り、レイプは確証されない。たとえ証言や、レイプがあったことを証明する医学検査や、心理分析の結果が出た場合でさえ、さらに、(被害者が)心理的支配下に置かれている場合でさえである。
このように、レイプが蔓延する状況を長引かせている、時代錯誤的な法律が存在することから、この法律に反対して闘う女性活動家や、人権保護運動家の数が、日本国内で次第に増えていっている。今年、日本では、性暴力に関する数多くのデモが開かれた。
自分の娘を13歳のころから19歳のころまで繰り返しレイプしていた父親が、「娘が著しく抵抗できない状況であったとは認められない」という理由で、無罪となった事件が(2019年3月に)あった。事件は現在控訴中であるが、スキャンダルになっていた。そして今年9月、この事件がきっかけとなって、法改正を求める署名運動が生まれた。AFP通信によると、すぐに47,000筆以上の署名が集まったという。
次のことを思い出そう。レイプの被害者の大部分が、被害にあった際に身が固まってしまうことが、心理学で証明されている。これは、死の恐怖から生じる、第一の反射的行動なのである。(了)

www.marieclaire.fr

日本でレイプについて話すことの難しさ Le Monde紙

TEXT by Philippe Mesmer 2019.4.25

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書評―そのことについて話すか話すまいか。長いためらいと家族との話し合いの末、日本人ジャーナリストの伊藤詩織さんは、自身のレイプ被害について話すことを選んだ。彼女は『Black Box』と題した著書の中で話すことをした。彼女はそうすることを、「状況を前進させる唯一の手段」だと考えていた。なぜなら、「沈黙は平穏をもたらさない」からだ。
彼女は著書の中で、2015年4月3日に経験した、その「破壊の一瞬」について詳しく語った。元TBSの記者で、安部信三首相に近い人物でもあり、安倍の伝記も書いている山口敬之が、彼女に「デイト・レイプ・ドラッグ」を飲ませ、シェラトン都ホテルの一室で弄んだという。
告訴を望む伊藤詩織さんは、彼女に告訴を思いとどまらせようとする警察のためらいにぶつかることになる。捜査員からは、「このような話はよくあることで、捜査をするのは難しい」と言われた」
司法がもっぱら加害者の自白に頼る国で、性暴力犯罪を裁くのは特に難しい。
「密室で起こった出来事は第三者には知りえないと繰り返し聞かされた。検察官はこの状況を「ブラック・ボックス」と形容した。
そして、伊藤詩織さんは2014年の統計を引き合いに出して、日本で「警察に事件を報告する被害者はわづか4.3%である」ことと、また、半数以上の訴えが不起訴となっていることを指摘している。

屈辱的な質問

訴訟手続きそれ自体が、精神的につらいものである。彼女は繰り返される聴取の中で受けた、たとえば彼女が処女であったかを問うような屈辱的な質問に傷つき、そしてさらに傷つく体験だったのが、警察署の最上階で、「男性ばかり」のの捜査員たちの前で事件の「再現」をさせられたことであった。
しかし、その苦しみや、加害者が著名な人物で、彼の逮捕が警視庁の幹部で安倍政権に近い人物でもある中村格の介入によって妨げられるという出来事にもかかわらず、伊藤詩織さんは捜査を辛抱強く進めた。
彼女はスエーデンを手始めとして、「被害者たちが告訴をするためにいかなる困難にも出合わないよう、あらゆることがなされている」諸外国と日本の状況とを比較し、1907年に制定された性暴力に関する法律が2017年に一部修正されたにせよ、日本での性暴力の扱いが相変わらず時代遅れなものであることを残念に思っている。そして彼女は、日本の裁判で問われるのが、「被害者が心の中で同意していたか否かではなく、拒否の意思が明確に表現され、加害者にはっきりと伝わったかどうか」である点を指摘している。被害者の70%が身が固まってしまい、「擬死(immobilité tonique)」と呼ばれる遊離状態に陥ってしまうにもかかわらず、そのような状況が長く続いている。

感動的な、そして詳細で正確な証言である本書『Black Box』は、「レイプについてオープンに話すことをタブー視する人たちがいる」日本でもう働けなくなるかもしれないことを知りながらも、最後まで戦い抜こうとする伊藤詩織さんの意志を物語る著作である。(了)

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