「日本での#MeToo レイプの被害に遭ったと主張する女性ジャーナリストが、著書『Black Box』の中で、自身の闘いを語った」20Minutes

TEXT by Mathias Cena 2019.4.4

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伊藤詩織さん。2018年6月26日、ロンドンにて Geoff Pugh/Shutterstock/SIPA

今日、フランスで著書が出版されたその女性は、顔を出して証言をした。これは、被害者がまれにしか事件を告訴しない日本で、例外的な出来事である。

・ジャーナリストの伊藤詩織さんは、2015年に日本のテレビ局の局長からレイプの被害に遭ったと主張している。

・彼女の告発する男性は、日本の首相に近い人物であり、この男性の逮捕は、警察の「上層部からの」電話により、直前に取りやめになる。
・顔を出して証言をしてから、彼女は脅迫の的となり、そのことが日本を離れることを余儀なくされる状況へと彼女を追いやった。
・彼女は、今日フランスで出版された著書『Black Box』の中で、自身の声を聞き入れてもらうために、その闘いを語っている。

「あの日、私は一度殺された」
2015年4月3日、当時26歳の伊藤詩織さんは、テレビ局TBSの局長、山口敬之と会う約束をしていた。山口氏は日本のテレビ局のワシントン支局を指揮しており、伊藤さんがアメリカの局で働くための就労ビザについて話し合うために、彼女を夕食に招待した。その夜、彼女の人生は大きく変わってしまう。レストランの化粧室で意識を失った彼女は、ホテルの一室で目覚める。男と一緒だった。彼女は山口氏がドラッグを使い、レイプしたと告発している。しかし、山口氏は否認している。
トラウマを乗り越え、彼女は顔を出して証言をすることにした。これは、被害者がめったに事件を告訴しない日本で、例外的な行動だった。そして彼女はいくつもの嘲りと死の脅迫を受け、そのせいで日本を離れ、ロンドンに移り住むことになった。彼女は現在、ロンドンで生活し、働いている。今日、フランス語版が出版された著書『Black Box』の中では、日本の#MeTooムーヴメントの代表的人物の一人となった彼女の声を聞いてもらうための、そして日本人のメンタリティを変えるための闘いが語られている。

「被害者なら被害者らしくしてくれないと」

先週私たちは、東京に滞在中の伊藤詩織さんに会うことができた。彼女はこう語ってくれた。「はじめの頃、この本を書くことは、私にとって身を守り、トラウマとうまく付き合っていくための方法でした。またそれは、なぜ私が闘っているのか、その理由を一般の人たちに知ってもらうためでもありました。本を書くのは、加害者を非難するためではなく、私が直面しなければならなかった日本のシステムを再検討するためなのです。大勢のレイプのサバイバーたちが、非常につらい試練を味わっています。司法がどのように機能し、警察がどのように捜査するかを知ることもなく」彼女はそう説明する。彼女は著書の中で、被害者たちを待ち受ける、屈辱とフラストレーションに満ちた道のりを、克明に描写している。たとえば、被害の翌日にモーニングアフターピルを処方した女性婦人科医の冷たい対応や、また、電話口で、血液検査とDNA検査を受けに行くための情報を彼女に提供することを拒んだ、性暴力被害者支援団体の対応などである。
「このようなことはよくあること。捜査をするのは難しい」彼女が告訴をしに行くことを決意したとき、捜査員が彼女にそう言い放った。他の警察官は彼女にこう説教した。「もっと泣いてくれないと、あなたの言いたいことが伝わってきませんよ」また、警察は彼女にこう忠告した。彼女が告発するのは「著名で高い地位にある人だ。こんな人を訴えたら、おそらくあなたのキャリアは台無しになってしまいます」それから地面に横たわり、等身大の人形を載せられた状態で警察官に囲まれて写真を撮られる、事件の再現の屈辱がやってくる。これは日本での一般的なやり方で、被害者たちにとって「セカンドレイプ」であると非難されている。

レイプの被害者たちが告訴する割合は、わずか4%

このような障壁や、レイプにまつわるタブーのせいで、ほとんどの被害者が告訴をしない。2014年に行われた日本政府の調査によると、女性の15人に1人が、過去にレイプの被害に遭ったと答えている。これに対して、被害を報告した人の割合はわづか4.3%である。2017年には1,109件のレイプ事件が警察に報告された。これは人口10万人に対して0.8人の割合である。同じ年にフランスでは、16,400件のレイプ事件が警察に報告されている。これは人口10万人に対して24人の割合である。
20世紀初頭に制定されたレイプに関する日本の法律は、2017年に改正された。女性器への男性器の挿入しかレイプとみなされなかったこの法律の定義は、男性に対するレイプや口腔性交、そして肛門性交もレイプとみなされるよう拡大された。また最低量刑も在来の3年から5年に延長された。しかし、法律では性的同意については言及されておらず、加害者が知り合いだったり、レイプが閉ざされた場所で起こった場合に、同意がなかったことを証明するのは非常に難しい。伊藤詩織さんはこのような数々のブラックボックスが存在することに気づき、著書のタイトルを『Black Box』とした。
山口敬之は性的関係を持ったことは認めているが、伊藤さんが性行為に同意しており、当然意識もはっきりしていたと断言している。彼の説明によると、彼女はその夜の会食のあいだ飲みすぎており、そのせいで記憶を失ったのだという。彼はニューヨーク・タイムズ紙の取材に対して、彼女を自身の滞在するホテルの部屋に連れて行ったのは、彼女が一人では自宅にたどり着けない恐れがあったからだと主張している。
警察は、二人をホテルまで乗せたタクシー運転手の証言などを証拠として集めた。運転手によると、彼女は駅で降ろして欲しいと何度も繰り返し頼んでいたという。ホテルの防犯カメラの映像も、彼女がよろめいて、一人では歩けない状態であったことを示している。またさらに、彼女のブラジャーからは、山口氏のDNAが検出されている。しかし、捜査員たちが山口敬之を空港で逮捕するはずだったその当日に、ある指令が下り、逮捕は取りやめになってしまう。日本のメディアは、彼女の告発する男性が安倍晋三首相に近い人物で、首相の伝記作家でもあり、そのような関係によって彼は守られたのだろうかと強調している。当時の警視庁刑事部長で、菅官房長官の秘書官を務めていた経験もある中村格は、自分が逮捕取りやめの指示を出したことを後に認めた。しかし、詳しい説明はなされていない。

「日本人だったら、こんな風に証言などしなかっただろう」

事件が不起訴となった伊藤詩織さんは、2017年5月、顔と名前を出して記者団の前で証言することを決意した。そしてすぐに彼女はインターネットを通して、大量の侮蔑の言葉や死の脅迫を受け取った。彼女は事件を人為的に仕組んだと非難された。また彼女は、「左翼」だとか「在日朝鮮人」だといった非難を浴びた。なぜなら日本人の女性なら、性暴力に関するタブーを打ち破って、被害について話しはしなかっただろうからという理由で。伊藤詩織さんはこう指摘する。
「それはとても皮肉なことです。なぜならその反面、セックスや、女性を性の対象化することがいたるところで見られるからです。またこれは古い考え方ですが、女性がレイプされたとき、その女性は家族や親戚にとって傷痕であり、恥であるのです。しかし、被害者たちを非難する文化は、日本だけでなく、いたるところに見られます」

アドレスや家族の写真がネット上に曝され、身の安全を恐れた彼女は、ロンドンでジャーナリストとドキュメンタリー映像作家としての仕事を続けることにした。
「今でも、嘲りや脅迫のメッセージを常に受け取っています。でも私は、あまり見ないようにしています。メッセージを選り分けてくれる友人たちの助けがあるからです。以前はこれらのメイルにすべて目を通し、検討しなければならないと思っていました。そしてその度に、手と体とが凍りついたようになりました」しかし、ネットを離れた現実の世界では、反応はまったく異なるという。
「当初は、外出するときには変装をしていました。しかし私はそんなことをするのはやめて、身を隠さなければならないのは自分ではないことを心に決めました。すると、道を行く人たちが「応援してるよ」といって声をかけてくれるようになりました。またある日、カフェで一人の女性が私のところに来て、自分の受けた被害を語りながら泣き始めました」彼女はいつの日か日本に戻ることが出来る日がやってくるのを望んでいる。なぜなら、「メディア業界を変えるためにやらなければならないことが山ほどある」からだ。
「もう日本で働くことはできないだろうと言われました。しかし、状況は徐々に変化しています。たとえまだ、私とつながるのを恐れている人たちがいるにしても」

2017年9月、検察審査会は事件を刑事事件として不起訴相当とした。彼女は著書の最後で未解決のままとなっている一つの問題に対する答えを得るために、民事訴訟を起こした。その問題とはこうだ。「なぜ中村格は逮捕取りやめの指示を出したのか?専門記者たちによると、このような指示は異例のことだ」

伊藤詩織さんはこう残念がる。「私は彼に手紙を書き、電話をし、近づいて直接話しかけようともしました。しかし、彼は一度も答えてくれませんでした。もし彼がこのようなことができるのであれば、彼や体制側はもっとひどいことができるということです。これは恐ろしいことです」(了)

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