「性差別的で、女性たちにとって危険な日本の採用面接」 Les Inrockuptible

 

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撮影 Johann Fleuri

TEXT by Johann Fleuri 2019.12.19

日本では50%近くの学生が、就職活動中にハラスメントや性的暴行の被害にあう、いわゆる「就活セクハラ」の被害にあっているという。

12月18日水曜日、ジャーナリストの伊藤詩織さんが、ある男性に対する民事訴訟に勝訴した。伊藤さんは、仕事の話で男性と会った際に、この男性からレイプされたとして告発していた。これは、被害者たちの社会的認知のための、一つの転回点である。
その夜、伊藤詩織さんは、職業上の会合に行くつもりであった。事件が起こったとされる当時、ジャーナリスト志望の25歳(現在30歳)の伊藤詩織さんは、TBSのワシントン支局長で、安倍晋三首相の伝記作者でもある山口敬之と会う予定だった。そこで山口氏は、インターンの申し込みに関する書類にサインするため、東京のすし屋で再会しようと彼女に提案した。
彼女は彼と一緒に酒を飲み、意識を失う。
「私が覚えているのは、レストランの化粧室で意識を失ったことと、それから激しい痛みで目を覚ましたことだけです」
痛みと恐れの中、彼女は自分がホテルの一室にいることに気づく。そして山口氏が彼女の上に乗り、彼女をレイプしている最中だったという。伊藤さんは、夕食中に彼から知らない間に飲み物に薬をまぜられたのだと確信している。並外れた勇気に駆られた彼女は、司法に訴え、公然と償いを要求した。性暴力の被害者たちが沈黙するこの国で、性暴力を告発することが重大な結果をもたらすにもかかわらず、告発の結果、彼女は罵りと侮辱とを浴び、国外に逃れなければならなかった。彼女は現在ロンドンで生活し、そこから闘いを続けている。そして彼女は、日本でのレイプの被害者たちに対する支援が大きく欠けている事実を告発し続け、自身に起こった出来事が氷山の一角でしかないことを、大きく、そしてつよく叫び続けている。彼女は、自身に起こった出来事について書いた、『Black Box』と題した本を出版した。
日本で性暴力の割合が低いのは、「勇気を出して告訴するレイプ被害者の割合が、5%未満」だからだ。そして、勇敢にも告訴をした被害者たちにとって、それは文字通り、闘いの道のりとなる。
「被害を通報したとき、警察が最初に私に言ったのは、「これはよくあること。この種の事件を捜査することは出来ない」ということでした」
12月18日水曜日、彼女は五年に及ぶ激しい闘いの後、加害者とされる男性に対する民事訴訟に勝訴した。裁判所はこの男性に対し、330万円(27,000ユーロ)の賠償金の支払いを命じる判決を下した。裁判官は、「伊藤さんは意識を失った状態で、望まない性行為を強要された」と明言している(それにもかかわらず、加害者とされる男性には刑事事件で嫌疑がかけられなかった。伊藤さんによると、それは、この男性と首相との間の繋がりが理由だという。それゆえ、彼女は民事訴訟を起こすにとどまらなければならなかった)。これは、このような事件に対する、力強い行為である。
「判決に驚きました。聞き入れてもらえてうれしいです」
非常に感動した様子で、伊藤詩織さんはそう解説した。

これは日本人女性たちにとっての、ひどく慎重な革命への道なのだろうか?

暴力や性的暴行は、日本では未だタブーである。この国では、被害者たちは沈黙し、被害を被る習慣がついてしまっている。被害について話すことは、本人や周囲に人たちの名声を傷つけ、汚名を着せることになる。そしてまた、被害について話すことで、企業や仕事の専門分野への入り口は閉ざされてしまう。「ビジネスインサイダー」が今年実施した調査によると、50%以上の学生(大部分が女性)が、就職活動中にハラスメントや性的暴行の被害にあっているという。
伊藤詩織さんと同様に、彼女たちが仕事の話をするための会合に出かけるつもりのとき、彼女たちは、悪意ある採用担当者の仕掛けた罠にはまることになる。日本では企業がキャンパスに赴き、面接に参加するよう、学生たちに直接働きかけている光景をよく目にする。これが大学の外で行われるのが、いわゆる「就活」である。そして、このような公式の活動の範囲内でさえ、彼女たちは保護されていない。
伊藤詩織さんは、日本人女性たちのための消極的な革命の道を開いたのだろうか?

土曜の夜の渋谷駅前。オーロラビジョンの光が目をくらまし、スピーカーからは大音量のポップミュージックが流れている。東京の有名な交差点では、多くの人たちが行きかっている。夕食に出かける人、踊りに行く人、お酒を飲みに行く人たちだ。その渋谷で、およそ30名のプラカードとメガフォンを持った女子学生たちが、声をからして叫び、「就活セクハラ」の終わりを強く求めている。参加者の中には、サングラスをつけ、ニット帽を目深にかぶった女子学生たちもいる。深刻な不安が残るからだ。
「ほかの人たちに自分の事を気づかれてしまったときの、自分の将来に及ぶ重大な結果を、私は恐れています」
そのうちの一人の女性は、そう説明する。
東京大学大学院教授で、SAY(Safe Campus Youth Network)の共同創設者の林香里教授はこのような恐れに理解を示す。
「彼女たちが公衆の面前で勇敢にも話すことによって、彼女たちの国内での就職の機会が危うくなることは、否定できません」

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渋谷で開かれた、「就活セクハラ」に反対する学生たちのデモ 撮影 Johann Fleuri

「Voice Up Japan」の活動に精力を注ぐ加藤わかなさんは、今はもう学生ではないが、支援のためにデモに参加したいと思っている。彼女はこう語る。
「伊藤詩織さんの事件は、「就活セクハラ」が最悪の形をとったものです。誰も彼女が味わったのと同じ被害を受けてはならないでしょう。こんなことは終わりにしなければなりません。それが、私たちが政府に学生たちのためのよりよい防止措置を要求する理由です」
加藤さんによると、日本では、職業上の会談の中での性差別的な発言は日常茶飯事のことのように思えるという。
「「これらの職務は女性には向いていない」と言う男性もいれば、また、「女子学生たちの服装が欲望をそそる」と言う人たちもいます。仕事のポストを提案され、見返りに性行為を求められたと打ち明けてくれた女子学生たちもいます。問題はきわめて深刻で、被害者たちに対するいかなる法的な防止措置も存在せず、被害者たちは、政府からも企業からも支援されていないのです」

最も優秀な女子学生たちが、その性別を理由に制限されている

デモグループは、自分たちの活動が防止策となることを願っている。そして、政府に提出されるであろう、現状を示す報告書を作成することを可能にするために、自分たちの活動によって、被害者たちが公の場で声を上げる気になってくれることを望んでいる。集められた証言の中に、SAYのメンバーで、Voice Up Japanのメンバーでもある山下チサトさん(20歳)の、次のようなものがある。
「私は、採用担当者の自宅に招待されました。というのも、その男性が、自宅に忘れて来たというノートを、私に見せたいと言っていたからです。私は彼にお酒を飲まされ、意識を失い始めました。そして、彼は私の体を撫でようとし、私の体を採点するような発言をしました。そのことで、私の尊厳は傷つけられました…。現在私は、就職活動を諦めています」
もう一人の女性は、この一年間の就職活動中のことを、次のように説明してくれた。
「80%の面接官が、私に恋人がいるかどうか訊いてきたのです。つまり、真剣な交際相手のいる若い女性は、就職のチャンスが少なくなってしまうと言うことです。なぜなら、そのような女性は、結婚して家庭を築くために仕事を辞めるだろうと予想されるからです」
上智大学教授で、SAYの共同創設者の三浦まり教授は、次のように語る。
「面接官たちにとって、そのような質問をするのは、ただ場を和ますためであって、彼らはそれを悪いことだとは思っていませんし、自分たちの振る舞いの何がまったく不適切なのかを、彼らは理解していません。これは深刻な問題です!」
ほかの参加者、19歳の遠藤理愛さんはこう付け加える。
「最も優秀な女子学生たちが、その性別を理由に制限されています。欝や自殺の衝動に苦しんでいると打ち明けてくれた子達もいます。これは人権侵害です」

山下チサトさんは、就職マッチングアプリの功罪を指摘する。これらのアプリは、日本で人気があるもので、東京の地下鉄のいたるところに広告が貼られている。アプリをダウンロードしてみると…
「これらのアプリのインターフェイスは、出会い系アプリのものと取り違えるほどそっくりで、区別できないほど曖昧です。さらに、採用担当者たちは、彼らの本名も写真も提示しなくていいようになっています。これらのアプリの中には、女性志願者専用のものもあります…」

2019年、大企業の採用担当者が、このようなアプリを介して知り合った女子学生をレイプした疑いで逮捕され、メディアで大きく報じられた。
「私が活動家になったのは、日本で働くつもりは全くないからです。私は、沈黙の中に追いやられている友人たちのために話しているのです」
山下チサトさんは辛辣な口調で、そう認める。
「友人の一人が暴行を受けました。しかし、彼女は告訴するのを恐れていました。私は自分の通う大学に相談しました。しかし大学からは、被害者を守るシステムは存在しないという答えが返ってきました。私は憤激しました」

世界経済フォーラムは、最新の「ジェンダーギャップ指数」を発表したばかりだ。それによると、日本は2018年には153か国中110位に位置し(原文ママ)、そして2019年には121位に転落している。(了)

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