「韓国でのポスト#MeTooのフェミニスムの闘い」Slateフランス版 東アジアの#MeToo特集その3

TEXT by Salomé Grouard 2020.7.28

耐え難いものとなった政治的停滞に対するフェミニストたちのデモが、ここ5年間で数多く見られるようになった。そのうちのひとつのデモは、7万人の女性たちを集めた。

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© Jung Yeon-je / AFP


2018年夏、韓国は、史上最大規模の女性たちの集会が開かれる事態に見舞われた。何万人もの女性たちが、隠しカメラの設置者たちに対する処罰が不十分である事を告発するため、4ヶ月に渡って集結した。この、「モルカ(モレ・カメラ(韓国語で「隠しカメラ」)の略語)」は、極小の隠しカメラで、公衆便所やホテル、そして試着室や更衣室、あるいは個人のアパートメントにも設置されていた。これは完全な違法行為であることに加え、撮影された内容は、有料(あるいは無料)のコミュニティーサイトで閲覧できるよう、ネットに流されていた。(2018年)8月、7万人近い女性たちが、「あたしの生活はあんたのポルノじゃない」のスローガンの下に集結した。

市民社会はこれまでも韓国において重要な位置を占めており、この隠しカメラ反対運動は、セクシャルハラスメントに関する最初の試みというわけではない。耐え難いものとなった社会的停滞に対するフェミニスムのデモが、ここ5年間で数多く見られるようになった。韓国女性国体連合(KWAU)の活動家、 Kyungjin Ohさんは、このようなデモは国のDNAの一部をなしていると説明する。
「韓国は日本による統治以来、社会運動の常連となっています。自分たちの基本的権利を得るために、指導者たちと戦わなければならないことを、私たちは知っているのです。フェミニスムとて例外ではありません」

2019年、韓国は世界経済フォーラムジェンダーギャップ指数において、153か国中108位に位置している。韓国はこのリストの最優等生というわけではまったくないが、それでも、2017年から10ほど順位を上げた。そして、これはおそらく、これらのフェミニスム運動の有効性の証なのである。韓国では「モルカ」に反対するデモに倣って、多くのデモが起こっている。しかし、ネット上でこのような運動が見出されることは、これらの女性たちにとってより衝撃的で、安心感を与えられることのようだ。若いフェミニストたちは、どのようにネット上で「性差別をひっくり返すか」を正確に知っていると、Kyungjin Ohさんは説明する。
その好例のひとつに、「Megalian.com」があげられる。このネットコミュニティーは、2015年に、男性同士の集団討議で発せられた、女性蔑視の侮蔑的な言葉にうんざりした女性たちの一団によって作られた。その目的は、自分たちの発した言葉がどれだけ暴力的なものなのかということを男性たちに示すために、彼らにそれと同じ類の性差別的な言葉を課すことである。全く驚くことではないが、「Megalian.com」はすぐに「急進的」とみなされ、コミュニティーのサイトは、13万筆以上を集めた署名運動が原因となって、2017年に閉鎖された。

次第に大きくなっていく運動

しかしそのことは、元「メガリアン」たちがネット上で活動を続けることの妨げとはならなかった。彼女たちはすぐに結果を得た。ソウル在住の25歳の女性、Eunseo Songさんはこう証言する。
「フェミニスムの問題は、Seo Ji-hyun(ソ・ジヒョン)さんが自身の性暴力被害を公然と告発した際の、公の議論の中に、全く立ち戻るのだということに気づきました」
MeTooムーヴメントが世界中で広がっていたころ、Seo Ji-hyun検事は、性暴力サバイバーたちの証言に、自身の証言をつけ加えた。彼女は、元法務大臣原文ママ 正しくは「元検事長」)のAhn Tae-geun(アン・テグン)を告発している。韓国では多くの女性たちが、彼女に一体化した。韓国では、性暴力被害を報告する女性の割合は22%で、その少なさにもかかわらず、国内で報告される性暴力事件の件数は、一時間当たり3.4件にのぼる。Seo Ji-hyunさんの勇気にもかかわらず、Ahn Tae-geun(アン・テグン)は職権乱用で有罪となっただけで、性的暴行では罪に問われていない。彼は1年間服役しただけで、保釈金を払い、釈放された。そして現在、訴訟を起こそうとしている。Seo Ji-hyunさんにとって闘いは続くが、彼女のおかげで沢山の法的、社会的変化が起こった。そして、彼女の行動がきっかけとなって生まれた諸法律により、多くの女性たちが、体制側を恐れることなく声を上げることが可能となった。

解放は進む

2019年には、数多くのフェミニスム運動が、その規模を広げた。「4B」と命名された、メガリアンたちの妹分のコミュニティーの場合がそうだ。このコミュニティーには、「Four No's」というコミュニティーも含まれている。この「Four No's」は、デートもセックスもしない、そして結婚せず、男性との間に子供も持たないという女性たちの集まりだ。このコミュニティーの賛同者の一人が、彼女のフラストレーションを説明してくれた。
「今日、女性にとって最も重要視されるのは、夫と嫁ぎ先の家族の世話をする能力のように思われます。私たちの経験、そして仕事や生活は重要視されないのです」
彼女はそうはっきり述べ、次のように付け加えた。
「結婚をするのに、女性である場合、より多くの不利があるのだといつも感じていました」
ハッシュタグ #escapethecorset (あるいは #탈코르셋)もまた、韓国を揺るがした。その目的は、韓国の美の基準から女性たちが解放される手助けをすることだ。SNS上でたくさんの女性たちが、デモのしるしとして、髪を短く切った写真や、破壊した化粧品の写真を投稿した。
この国では、容姿が重要性を持っている。その証拠として、韓国は人口一人当たりの形成外科の数が、世界で最も多い国に数えられる。そして、年間100万件以上の美容整形手術が行われており、19歳から29歳までの女性の3人に1人が整形手術を受けている。2020年には、国内では初となるフェミニスム政党ができるなど、これらの前進によって、多くの女性たちが苦痛から解放されているが、沢山の者たちがこれらの新しい躍動にたいして、強く反発している。

男女間戦争の恐れ

Eunseo Songさんは、韓国社会は、一部の人たちから急進的だとみなされている、「Megalian.com」や「4B」のような運動との釣り合いを見つけることが、なかなかできないでいると言う。
「もし私がフェミニストであることを告げたら、親友たちの反応は喜ばしいものではないでしょう…。韓国のフェミニスムは、「他の」国々の同種の運動よりも急進的とみなされます。そしてそれは、男女間の分裂を生み出す傾向があるのです」
近年、反フェミニスムの運動や党が発展した。「フェミニスムはテロリスムと同等に有害だ」とわめいて。そして、フェミニスムは男女平等の問題ではなく、男性たちに対する憎悪に満ちた暴力的な差別の一形態だとわめいて。リアルメーターの調査によると、20代の韓国人男性の76%、そして30代の韓国人男性の66%が、フェミニスムに反対しているという。
Kyungjin Ohさんは、男性たちがなぜこのような際立った反応を示すのかを知っていると考えている。それはつまり、この国の競争力と、増大する若者の失業率に関連している。
「高校生の70%が大学に進学します。一方では、優秀であることで差別を受け、うんざりしている女性たちがいて、他方では、女性たちを真剣なライヴァルとして見たことが一度もなく、今では女性たちを、就職市場で「自分たちの場所」を奪う存在としてみる男性たちがいます」
それでも彼女は自信を失っていない。目標に到達するには時間がかかるだろうが、彼女は知っているのだ、物事が正しい方向に進んでいることを。(了)

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