「伊藤詩織さんはレイプの被害に遭った女性たちのために声を上げた」Pen international

TEXT by Clémence Leleu 2020.10.20

一人称で書かれた『Black Box』のなかで、ジャーナリストである彼女は、日本での性暴力被害者たちの扱いを問い質している。

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©Philippe Picquier

物語は明快で正確なもので、ほとんど外科的といってもいいほどだ。ここに書かれているのは、忘れてしまわないため、そして特に他の人たちが自分と同じ目にあわないために、 著作の中で思い出され、一つにつなぎ合わされ、記録されたいくつもの事実である。

2015年4月3日、ジャーナリストの伊藤詩織さんはホテルの一室で意識を取り戻す。日本のテレビ局TBSの局長、山口敬之から暴行を加えられている最中だった。彼女はその数時間前に、安倍晋三首相の伝記作家でもある山口氏と、ニューヨークでの仕事のポストの取得の方法について話し合うために、レストランで落ち合ったのだった。

2年後、当時28歳の伊藤詩織さんは、著書『Black Box』を出版する。この著作はPicquier社より、フランス語訳が刊行されている。この話は3ヶ月で書き上げられ、この本を書くことは、著者の伊藤詩織さんにとってカタルシス(同種療法)となるもので、著作の中では状況がてきぱきと示された後、レイプ被害に至るまでの一連の出来事が語られている。そしてこの話は、日本での性暴力被害者たちの扱われ方についての、総合的な熟考を示している。

ほかの女性たちのための道を開くこと

伊藤詩織さんは、著書の冒頭で予めこう告げている。
「起こってしまったことは、この本の主題ではない。私が話したいのは未来について、これ以上ほかの被害者が出ないよう取るべき措置について、そして、性暴力の被害者たちが助けを得ることができるように取るべき方法についてだ。私が過去について話すとしたら、それは単に未来について考えるためにすぎない」
というのも伊藤詩織さんは、レイプの被害に遭ったあと、無関心や、さらに支援センター、警察、病院、そしてメディアからの不誠実な対応に直面することになるからだ…。そしてその各所で出会った誰もから、告訴をすれば彼女のキャリアが台無しになると何度も繰り返し言われた。このようなことが彼女を、一人きりで事件の証拠収集に身を投じる状況へと追いやった。
「密室で起こった出来事は第三者には知りようがないと繰り返し聞かされた。検察官はこの状況をブラックボックスと形容した」

変化の兆し

数ヶ月にわたる猛烈な仕事の末、伊藤詩織さんは山口敬之に対する逮捕状を得る。山口氏は滞在中のニューヨークから日本に帰国した際に逮捕されることになっていた。しかし、上層部からの指示で、逮捕は中断されてしまう。
逮捕状が取り消されたあと、この事件は刑事事件では不起訴となったが、伊藤詩織さんは民事での訴訟を起こした。そして2019年12月、東京地裁は山口敬之に対して、330万円の賠償金の支払いを命じる判決を下した。現在ロンドンに住み、その地でドキュメンタリー制作会社を設立した伊藤詩織さんは、レイプの被害に遭った日本の女性たちの、社会でのよりよい受け入れのために闘いを続けている。イギリスのBBC放送は、彼女の話をもとにしたドキュメンタリー番組『暴かれた日本の恥部』を制作し、この番組は2018年に放送された。

伊藤詩織さんの『Black Box』フランス語版(2019年)は、Picquier社より出版されている。(了)

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