「ドラッグ、あるいはデイト・レイプ・ドラッグを使ったレイプ犯罪:薬物の影響下での服従状態、あまり知られることのない災禍」TV5MONDE

 

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©️Lydia Menez


TEXT by Terriennes, Lydia Menez 2019.12.31(2021.12.24再掲)

GHB(ガンマヒドロキシ酪酸)、精神安定剤睡眠薬…。これらの物質は、被害者の気づかないうちにグラスに混ぜられ、記憶の取り違えや欠落を引き起こす。これらの物質は、飲み会のあいだに容器からグラスに移され、加害者たちが被害者たちを性的に暴行することを可能にし、他方、被害者たちにはいかなる記憶も残らない。これは、社会からその存在を知られながらも、被害の規模を数量化して表すことのできない災禍である。以下は、この犯罪に関する証言である。
「それは、わたしの通う学校で週末に開かれる新入生歓迎会のときのことでした。この集まりは、新入生同士の親睦を深めるために定期的に開催されていました。最初の飲み会が土曜の夜に開かれました。わたしは、お酒を一、二杯飲んだことを覚えていますが、そこから翌朝までの記憶が完全に欠落しています。真夜中以降、何が起こったのか、まったく覚えていません。当時、わたしは19歳でした」
エマさん(仮名)は、この話を誰にもしなかった。精神科医にも、親しい人たちにもである。だが、ラヴァル大学の女子学生たちが最近証言してくれたように、似たような体験をした女性は大勢いる。エマさんはこう続ける。
「わたしは森の中で半裸でいるところをクラスメイトたちに発見されました。彼らは救急車を呼びました。わたしは病院で目覚めました。そして検査を受けた結果、性暴力の被害にあったこと、それもおそらく、ドラッグを飲まされていたことが分かったのです」
パリのフェルナン・ヴィダル病院薬物依存症評価・情報センターを指揮するSamira Djezzr医師は、エマさんの受けた被害を、「薬物の影響下での服従状態(soumission chimique)」で起ったレイプだと説明する。それは、「被害者の気づかないうちに犯罪目的で薬物を投与する」ことである。薬や麻薬を誰かのグラスにそっと混ぜて暴行する行為を指すもので、イヴェントの場などで多く犯行が行われる。
「薬の効果はお酒やドラッグのせいで倍加し、加害者は容易に被害者を暴行することができます」と、Samira Djezzr医師は説明する。

GHB神話
このような手口は、メディアや一般文化のなかで、一般に「デイト・レイプ・ドラッグ」と呼ばれる、GHBと結びつけて語られる。このGHBはもともと、外科手術の麻酔薬として使われていたが、2000年からは違法麻薬に分類されている。
法医学中毒分析研究所主任のMarc Deveaux医師は、次のように指摘する。
「GHBはとくにアメリカで広まったものです。アメリカのテレビドラマでは、GHBを使ったレイプ犯罪を描いた場面がしばしば登場します。そしてフランスの刑事ドラマでもこの題材が意味もなく繰り返し使われ、結果的にフランスのテレビプロデューサーたちは、GHBによる犯行手口を国内に伝播しているのです。アメリカとフランスが、異なる社会であるのにも関わらず」

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「フランスで、薬物を使って誰かを服従状態にさせたければ、薬品棚を開いて精神安定剤を手に取りさえすればいいのです」パリ、フェルナン・ヴィダル病院薬物依存病院・情報センター長、Samira Djezzr医師



2017年、医薬品・保健製品安全庁(ANSM)は、フランス国内で462件の同様の犯行を記録している。そしてこのうち、GHBによる被害はわづか3件のみだ。
「フランスで、薬物を使って誰かを服従状態にさせたければ、薬品棚を開いて精神安定剤を手に取りさえすればいいのです」と、Samira Djezzr医師は説明する。簡単に処方箋の手に入る同様の薬物として、たとえば、アルプロゾラム(商品名「ザナックス」)、ブロマゼパル(商品名「レキソミル」)、ジアゼパムバリウム)、ゾルピデム(商品名「スティルノクス」)などが挙げられ、これらの薬物は、被害者にGHBと同様の症状をもたらす。
「これらの薬物には、抗不安性の、そして催眠性の効果があり、なかには記憶障害を引き起こすものもあります」と、Marc Deveaux医師は語る。医薬品・保健製品安全庁によると、2017年に起った薬物による同様の犯罪事件のうち、前述のアルプロゾラムなどの薬物が使われた事件の割合は、41%にのぼるという。

検出されにくい物質
エマさんは、自分が薬を盛られたと疑っているが、証拠がまったくない。病院で受けた検査では、何も検出されなかった。
精神安定剤は尿の中に10日間は残留しますが、GHBは10時間か12時間で体外に排出されてしまいます」と、Marc Deveaux医師は指摘する。その時限が過ぎてしまった場合には、別の検査方法が用いられる。つまり、毛髪の逐次解析だ。薬物の摂取から6〜8週間後に髪の毛を二、三本採取し、検査するのである。だが、Marc Deveaux医師は次のように警告する。
「注意してください。この種の非常に特別な検査に適していない研究所で実施された検査の結果は、絶対に除外してください」

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「周囲の人たちからは、告訴しないように勧められた。性行為に同意していなかった証拠がなく、告訴をすれば、何年も続くうまくいく保証のない闘いに身を投じることになるからというのだ」エマ



これらの薬物検査に適した法医学研究所施設にアクセスするためには、やはり告訴をしなければならない。だが、誰もエマさんをそのように導いてくれなかった。
「周囲の人たちからは、告訴しないように勧められました。性行為に同意していなかった証拠がなく、告訴をすれば、何年も続くうまくいくかどうか保証のない闘いに身を投じることになるからというのです。わたしはこの体験を隠し、忘れようとしました。わたしは強い孤独感と罪悪感を持ちました」

重くのしかかる罪悪感
精神科医でロレーヌ大学教授のEvelyne Josse教授は、性暴力被害者たちはつねに罪悪感を抱えており、この罪悪感は「薬物による被害の場合には倍加します。なぜなら被害者たちは自分が薬物を飲んだり摂取したことを知っており、それを自分の過ちだと思ってしまうからです。被害当時の記憶がないため、自分が同意の意思を示したかどうかの確証を持つことができないのです。被害者たちは自分が薬を盛られたと疑っています。しかし、証拠がありません。この記憶喪失のせいで、被害者たちは大きな罪悪感を抱えています。記憶喪失が、苦しみを増大させているのです」と説明する。

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「その学年の終わりまで、わたしは飲み過ぎて行儀の悪い売春婦扱いされ、わたしのせいで新入生歓迎会が廃止になったと後ろ指をさされた」エマ



エマさんは、この自責の念を味わった。「実のところ、自分がこんな目に遭うのは当然で、自分がきっと男の子たちに色目を使ったに違いないと思っていました。自分のことが許せませんでした」自分のことが許せるようになったのは、罪悪感を持つのは自分の方ではないことに気づいてからだ。
「その学年の終わりまで、わたしは飲み過ぎて行儀の悪い売春婦扱いされ、わたしのせいで新入生歓迎会が廃止になったと後ろ指をさされました。校長の女性は、わたしを支えるふりをしていました。わたしが学校側を訴えることのないようにです」エマさんは、自分の受けた被害を「レイプ」と形容できるまで何年もかかったことを説明してくれた。被害の状況が、混沌としているためだ。

不足する防止措置
医薬品・保健製品安全庁の調査の結果、2016年から2017年にかけて、薬物を使った同種の犯罪は36%増加していることが示されている。
「この問題に関する防止措置が大きく不足し、知識も不足しています」と、Evelyne Josse教授は残念そうに語る。Marc Deveaux 医師も同じ意見だ。
「救急医療関係者も、一般医も、婦人科医も、薬剤師も、この問題に関してほとんど知識がありません。これは医学・薬学分野での教育の問題です」
政府による防止キャンペーンが行われることもまれである。

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伊藤詩織さんは著書『Black Box』のなかでデイト・レイプ・ドラッグによる自身のレイプ被害を語り、日本で#MeTooムーヴメントを起した。©️AP Photo/Mari Yamaguchi



エマさんの話を聴いて、われわれは伊藤詩織さんの話を想起せずにはいられない。日本人ジャーナリストである彼女は、自身が2015年に日本のテレビ局の局長から受けたレイプ被害を著書のなかで語った。ある夜、その局長の男性は就職話を口実に伊藤さんを夕食に誘い、彼女のグラスにドラッグをそっと混ぜる。数時間後、彼女が目を覚ますと、そこはホテルの一室で、男も一緒だった。彼女の証言がきっかけとなり、被害者がまれにしか事件を報告しない日本でも、#MeTooが出現した。そして事件から4年たった2019年12月18日のこの日、東京地裁は、27,500ユーロにあたる彼女の損害賠償請求を認める判決を下した。これは、伊藤詩織さん自身がそう形容するように、日本人女性にとって告訴することが「社会的自殺」である日本で、初めての勝利である。
フランスでは、2019年夏に起こったエルファスト音楽祭での事件が大きく報じられた。若い女性が薬を盛られ、レイプされたのだ。彼女の証言は、SNSで瞬く間に拡散された。
「わたしは二杯目のビールに口をつけたところまで覚えており、意識もはっきりしていました。(中略)しかし、すぐに気分が悪くなり、動悸がし、吐き気がして冷や汗が吹き出しました。実際、汗が滴るようでした」と、彼女はフェイスブックのメッセージのなかで書いている。それから彼女は、フェスティバル参加者の男性にをテントの中に連れて行かれ、暴行されたと語っている。彼女は加害者の人相書をフェイスブックに投稿し、加害者を特定するための証言の呼びかけをしている。フェスティバルの主催者側は、この現象と闘うための措置をとると返答した。だが、加害者の足跡はつかめないままだ。

身を守るための道具
飲み物への薬の混入を防ぐために、二人のニューヨーカーの女性が、「My Cup Condom」を発明した。これはラテックス製のフィルムで、グラスの飲み口を完全に覆ってしまうものだ。

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このほかに、「undercover Colors 」というマニキュアがある。このマニキュアは四人の女子学生によって発明されたもので、グラスに浸すと、薬物に反応して色が変わる。

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©️Undercover Colors



専門家たちの助言はシンプルだが、救いになるものだ。飲み会などのイヴェントではグループで行動し、一人にはならないこと。グループのなかで、お酒を飲まず、車を運転し、メンバーを家まで送ってくれる人間を一人決めておくこと。アルコールと大麻を混ぜるのは避けること。グラスから目を離さないこと。知らない人からのお酒は断ること。そして最も大切なこと、それは、この問題についてオープンに話すことのできる環境をつくるために、被害について話すことだ。(了)

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