レイプ:「完璧な被害者という幻想を打ち破らなければならない」 伊藤詩織さんの叫び 20 minutes

TEXT by Caroline Vié 2025.3.11
インタビュー:胸を突き刺すような悲痛なドキュメンタリー映画「Black Box Diaries」のなかで伊藤詩織さんは自身の受けた性被害と、その被害を白日のもとに晒すための断固たる闘いを語っている。

伊藤詩織さん(映画「Black Box Diaries」より)-Art House
記事の要点
・伊藤詩織さんは本作において、自分自身の視点から事件を語る手法をとった。
・このドキュメンタリー映画は厳しいものであると同時にわれわれを夢中にさせるものである。
アカデミー賞の候補にも選ばれた彼女は、映画監督としての仕事を続けるつもりでいる。
 
彼女の名は伊藤詩織。賞賛に値する女性だ。というのも、2015年当時まだジャーナリズムを学ぶ学生だった彼女は(原文ママ)、テレビ局の支局長という権力者の男性からレイプの被害に遭い、その被害を社会に知らしめるために闘ったからだ。彼女は自身の苦難の道のりと、その後の勝利とを本年度のアカデミー賞にノミネートされた必見の、そして力強いドキュメンタリー映画「Black Box Diaries」のなかで語っている。
 
メンタルの強さを褒めると、彼女はこう笑い飛ばした。
「それはみなさんが、わたしが落ち込んだときのことを知らないからです。今でもそうした状態に陥ることがあります。でも以前ほど頻繁にではなくなりました」
現在35歳で、2020年には米タイム誌の世界で最も影響力ある人物に選ばれた伊藤詩織さんは、平穏な生活を見出したように思われる。その彼女が、われわれの質問に答えてくれた。
 
事件から10年が経ちますが、現在の心境を聞かせていただけますか?
 
以前ほど恐怖を感じることは少なくなりました。苦痛が和らぎ、より楽観的になりました。どこか休息できる場所、住みたい街を見つけられたらと思っています。日本ではまだわたしの映画は上映されていませんが、その日本に戻ることは、まだできません。いまでもときおり、絶望の波に襲われることがあります。しかし、その発作も次第にまれになり、以前より深刻ではなくなりました。
 
今でも日本では危険を感じますか?
 
確かに感じます。日本で安全だと感じることはないでしょう。告訴を決めたとき、たくさんの圧力とバッシングを受けたのですから。しかし、いつかそうでなくなる日が来て欲しいと思っています。自分の国に帰りたいとは思うからです。この映画は、日本へのラブレターだと思っています。
 
映画の予算を組むことは大変でしたか?
 
ドキュメンタリーを制作することを決める前に、わたしはまず著書を執筆しました。わたしは自分自身が前面に出過ぎることを恐れていました。ジャーナリズムを専攻していたので、作品が客観性を欠くと非難されることが怖かったのです。同時に、わたしは加害者にインタビューをしようと目論んでいました。しかし、この映画のプロデューサーのハナに止められました。今は彼女の判断が正しかったと思っています。
 
映画の制作にはどのように取り掛かったのですか?
 
事件が起きてから最初の2年間は、自分の身を守るために証拠資料を集めていました。友人たちがロンドンに住まわせてくれ、落ち着いた環境で仕事ができました。段取りを考えるために手一杯の状態でしたが、それはかえって自分のためになることでした。わたし自身の視点、つまりサバイバーとしての視点から経験を語らなければならないと気づくことができたからです。
またわたしは、今年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされた5作品のうち4作品が監督自身の体験を語ったものであることに気づきました。このことは、さまざまな問題に対して一人称で声を上げる必要性が実際あることを、示しているように見えます。
 
伊藤さんがこの映画を通して示したいことはなんですか?
 
「完璧な被害者」という幻想を打ち破らなければなりません。被害について証言する際に、服装が本当の被害者らしくないだとか、あまり泣かないだとか散々言われましたから!世間の人たちはそのようなことを口実に、わたしのことを信じようとしませんでした。もうそんなことはウンザリです!今こそ日本も変わらなければいけません。日本では問題が隠されてしまうことがあまりにも多いように思えます。わたしはこのことから著書のタイトルを『Black Box』としました。そして今こそ変化が必要なのは、女性の置かれた状況があまり改善されていっていない、ほかの国々についても言えることです。性暴力が権力や腐敗と結びついている場合、それは恐ろしいことです。そのような場合、とくに当事者は無力感をもつからです。
 
この数年間の闘いから学んだことはなんですか?
 
わたしに共感してくれる人たちから連帯のメッセージを受け取りました。今わたしは性別に関係なく自分に連帯してくれる人たちがいることを確信しています。わたしはヒューマニティーを信じています。また、自分の経験を語る技法・藝術、つまりドキュメンタリー映画の価値を信じることを学びました。この創造的な力こそが、わたし自身を前に進ませてくれたのです。各々が自分自身に適した生き延びる方法を見つけなければならないのだと思います。
 
これからも映画を撮り続けるのですか?
 
もちろんそのつもりです!フィクションもドキュメンタリーもです!被害に遭って、一生消えることのないトラウマを負ったことは確かです。しかし、わたしの人生は「性被害に遭った女性」という枠で括られるものではありません。友人たちと出かけるのも好きですし、猫たちと遊ぶのも好きです。ときには大笑いすることだってあります。映画を撮影することも、自分の撮った映画が多くの方々に観ていただけることも、回復の助けとなっています。顔出し実名で被害を公表することに反対していた妹も、わたしがタイム誌に選ばれたことをすごいことだと思ってくれています。家族はわたしのことを本当によく支えてくれていますが、当時この事件は家族として取り組むことが非常に難しい問題だったのです。
 
他の性被害当事者たちになにかアドバイスはありますか?
 
被害について話してください!何も恥じることはありません!コミュニケーションをとり、共有し、自分を支えてくれる人を見つけようとしてください。それから、もしできたら、自分のトラウマを何か藝術で表現してみてください。そうすることで怯えや苦痛が和らぐはずです。そしてとくに、自分の未来を信じる気持ちを失わないでください。それこそが、わたしが日々の生活のなかで自分に言い聞かせていることなのですから。(了)

 

日本の性被害当事者、伊藤詩織さんは語る:「これは、わたしのサバイバーとしての視点で語られた映画」Paris Match誌

Shiori Ito lors d'un shooting photo à Londres, le 26 juin 2018.
2018年6月26日、ロンドンにて撮影© Geoff Pugh/Shutterstock/SIPA
 
TEXT by Jeanne Le Borgne 2025.3.11
伊藤詩織さん監督のドキュメンタリー映画「Black Box Diaries」が、3月12日にフランスで封切りとなる。この映画は、日本の#Me Tooムーヴメントの象徴的人物である彼女の性被害を公に告発するための、そして加害者を有罪とするための闘いが記録されているものであり、彼女はその闘いに立ち戻ることとなった。われわれは今回、その彼女にインタビューする機会を得た。
 
彼女の闘いの道のりは、称賛を否応なく抱かせるものであると同時に、怒りを掻き立てるものでもある。2017年、伊藤詩織さんは、自身の受けたレイプ被害を公然と告発した最初の女性のひとりとなった。ジャーナリストである彼女は、2015年、まだ25歳のとき、著名な政治記者安倍晋三元首相の伝記作家でもある山口敬之から、就職の話をするため食事をした際に薬を盛られ、ホテルの一室で暴行され、レイプされたと告発している。
警察に告訴状を受け取ってもらうための長い闘いが続き(原註:警察は告訴状を受け取ったが、その数ヶ月後に事件は不起訴となった。最終的に山口は民事で敗訴した)、その当時、彼女は世間の人々とメディアからの支援を必要としていたが、結局、彼女のもとに押し寄せたのは、大量のヘイトと脅迫であった。
この悲痛な物語については伊藤さんの著書『Black Box』のなかで語られているが、さらに今回、米アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされ、3月12日にフランスで封切りとなる映画「Black Box Diaries」のなかで再び語られている。
                  *
パリマッチ誌:2017年の『Black Box』出版から8年後、伊藤さんは、自身の闘いの道のりと、加害者に対する民事訴訟申し立てについて記録したドキュメンタリー映画「Black Box Diaries」の監督として、パリに戻ってこられました。伊藤さんにとって、映画で自身の経験を語ることが、なぜそんなに重要だったのでしょうか?
 
伊藤さん:『Black Box』を、わたしはサバイバーとしてではなく、捜査のように感情を込めず、ジャーナリストの筆致で執筆しました。一方、この映画を通しては、サバイバーとしての視点で自分の経験を語りたいという気持ちが本当に強かったのです。そして、自分にとって結果的に幸運だったのは、当初の2年間、たくさんの日常の場面を録音し、撮影していたことです。それは第一に自分の身を守るためで、なぜなら警察が本気で捜査をしてくれるのか疑いを持っていたからです。そして数年後、そのように撮りためた映像をつなぎ合わせ、一本の映画作品となったわけです。
 
「きっと、自分のことが許せなかったでしょう」
 
パリマッチ誌:この作品のなかで、妹さんが、あなたが被害を公表する際に、実名顔出しで記者会見を開くことはやめてほしいと懇願する場面が出てきます。家族や周囲の人たちの反対を押し切ってまで告発をした、あなたのその力はどこから来るのでしょうか?
 
伊藤さん:妹はZ世代に属しており、SNSの怖さもよく知っています。ですから妹はわたしを守るために反対をしたのであり、実際、彼女の言うことは正しかったと思います。というのも、実際にネットでたくさんの脅迫を受けたのですから。被害後、最初に会ったのも妹で、わたしはその日、彼女に被害について話すことができませんでした。妹はわたしとは歳が離れていて、当時まだ高校生でした。その日、妹の顔を見たとき、もし彼女の身に同じことが起きたら、自分が被害について話さなかったことを許せなかっただろうと思ったのです。そして、もうひとつ理由があります。それは、ジャーナリストとして自分の真実に向き合えないのであれば、自分はその仕事にふさわしくないと思ったのです。
 
パリマッチ誌:被害を公表してからどのような反発がありましたか?
 
伊藤さん:たくさんの否定的な反応と、死の脅迫に晒されました。忘れてならないのは、わたしの最初の告発は世界中で#MeTooの波の起こる半年前になされ、その告発がなされたのは性被害について話すことがタブー視される日本においてだったということです。ですから当時は、わたしがなぜ被害を公表したのかまったく理解できない人もいたと思います。
公表後すぐ、日本で暮らすことが難しくなりました。しかし幸運なことに友人Hanna Aqvillin(原註:映画「Black Box Diaries」のディレクター)がロンドンに呼び寄せてくれ、日本から逃げることができました。当時は身の危険から逃れるために、そうせざるを得なかったのです。
 
今では不可能となってしまった日本での生活
 
パリマッチ誌:作中では迷いなく進んでいくあなたの様子が映されています。しかし、ときには被害について公表したことを後悔されることもあったのではないでしょうか?
 
伊藤さん:被害後、さまざまな問題や再検討しなければならないときがありました。しかし、自分のしたことにまったく後悔はありません。被害当時わたしは25歳で、被害から10年が経ったことになります。ときおり自分が性被害を受けていなかったらどうであっただろうと考える瞬間があります。おそらく、まったく別の人生を歩んでいたとおもいます。それでも、まったく後悔はありません。
 
パリマッチ誌:そのせいで日本を離れなければならなかったとしてもですか?
 
伊藤さん:日本を離れなければならなかったことは、人生でもっとも悲しい出来事です。親戚も友人たちも日本にいます。日本はわたしのホーム、ただひとつのホームです…
しかし、もう日本に戻ることはできません。この映画が公開された今となってはなおさらです。身の危険を感じ、安心して暮らすことはできません。本当に難しいことです。
 
パリマッチ誌:映画のなかで、加害者が意識のない状態のあなたをタクシーから引きずり出す瞬間など、とても深刻な場面を映した映像が使われています。これは大きな決断ですね…
 
伊藤さん:この映画のなかで、わたしは自分の受けた性被害について語ろうとはしませんでした。この映画で語られているのは、性被害に遭ったあとの出来事についてです。事件に対する社会の反応、司法の反応、メディアの、そして世間の人たちの反応についてです。またそれだけでなく、この映画はわたしが被害をどう生き延び、その被害が自分にどのような悪影響を与えたかを語ったものでもあります。そして、このホテルの防犯カメラの映像は、その夜起きたことを証明するためにわたしの有していた唯一の証拠なのです。その夜じっさいに何が起きたか、そのことを明示するためのわたしにとっての唯一の方法なのです。わたしにはその時の記憶がないので、タクシーから降ろされたときの状況を説明することはできません。しかし、防犯カメラの映像によって、その夜起こったことを外部からの視点ではっきりと示すことができたのです。
 
システムの再検討
パリマッチ誌:あなたは自身の受けたレイプ被害を公然と語った最初の女性のひとりであり、日本の#MeTooムーヴメントの先駆者となりました。そして当時、日本でレイプ被害を報告する人の割合がわずか4%であることを指摘しています。それ以来、日本の社会はこの点に関して変化したのでしょうか?
 
伊藤さん:世界中で起こった#MeTooムーヴメントと、信じられないほど勇気ある当事者の方々のおかげで、現在、性暴力サバイバーに向けられるまなざしは変わりました。とくに日本では、レイプ被害について語られることはありませんでした。そのような被害が存在することは知っていても、誰も被害について公に語ることはしなかったのです。しかし、そのように状況が変化したにもかかわらず、いまだに性暴力が権力の腐敗と結びついている場合、被害について話すのは難しいのだと思います。またそれは、日本においてだけではないと思います。わたしがこの映画を制作したのは、そのことを告発するためでもありました。ここまで日本の社会についてさまざまな問題点を指摘しましたが、それでも日本が変化したことを認めないわけにはいきません。2017年にわたしが被害を公表したあと、日本の性暴力に関する法律が110年ぶりに改正され、男性のレイプ被害も認められるようになりました。そして、2023年には性同意年齢がそれまでの13歳から16歳へと引き上げられました。つまり、いくつかの変化があったのです。しかし、レイプの定義や同意の定義については曖昧なままで、このことは問題だと思います。レイプ被害や脅迫被害を受けたことを証明しなければならないのは、性被害当事者の方なのです!
 
日本を離れての新しい生活
 
パリマッチ誌:あなたのドキュメンタリー映画は日本ではまだ公開されていません。そのことをどう思われますか?
 
伊藤さん:その質問には答えたくありません。その質問はわたしにあまりの多くの感情を呼び起こします。わたしは文字通りの大きな批判にさらされているのです。
 
パリマッチ誌:あなたの現在地は?
伊藤さん:この一年、映画のプロモーションのために、スーツケースひとつで世界中をまわる生活をしています。でもそのあとは?どこに向かっているのか、自分でもわかりません。今は新しいホームを探しています。コロナ禍のあいだは日本に住んでおり、そのときにこの映画の制作を始めました。しかし、日本国内でこの映画に対して批判があり、放映すらされていないことなどから、日本に戻ることはできないと考えています。フランスの友人たちが、パリのことをよく話してくれます。ですから、ここパリに住むことも真剣に検討しています。
 
パリマッチ誌:ご友人に恵まれているのですね?
伊藤さん:友人たちはわたしのことを本当に支えてくれています。この映画を作ることができたのも、友人たちのおかげです。みんなでこの映画を作り、みんなでアカデミー賞受賞式の会場まで行ったのです。まさに祝福の瞬間でした!家族も支えとなってくれています。まだ映画は観てくれていませんが、家族には『Black Box』をプレゼントしてあり、おたがいの近況についてもよく話をします。
 
パリマッチ誌:その後、加害者はどのようなキャリアを歩んでいるのですか?
伊藤さん:彼は今もジャーナリストとして働いています。
パリマッチ誌:そのことをどう思われますか?
伊藤さん:それは正義に敵ったことだとは思いません。警察がきちんと捜査をし、彼を逮捕してくれていたらと思います。わたしは、彼がわたしに対してしたことを白日のもとに曝すため、できる限りのことはしました。それから、もしかしたらわたし自身、自分の身を守るためにこのように考えるのかもしれませんが、彼がどのような人生を歩もうと一切関心がないと言わなければなりません。いまわたしにとって大切なたったひとつのこと、それは、この社会がこの事件についてどのように語っているか、どのように理解しているかということです。というのも、2017年、日本の法律はこの事件について、加害者の行いを犯罪ではないと断じたのですから。しかし、日本の社会はこのことをどう捉えているのでしょうか?
 
パリマッチ誌:どのような将来を計画していますか?
伊藤さん:ドキュメンタリー映画の製作に専念するために、ジャーナリストとしての仕事はセーブするつもりです。ひとつひとつのテーマを、時間をかけて深く掘り下げて伝えていきたいです。ニュースを扱う場合には、いつもそのように時間をかけてひとつの問題を掘り下げることはできませんから。映画やドキュメンタリーを通じてであれば、ひとつの物語の親密さの中にもう少し深く分け入っていくことができるのです。それはわたしにとってなによりもまず興味深いことであり、すでに頭のなかにたくさんのプランがあります。(了)
 
 

「G7の自国開催を前に、LGBTコミュニティの権利軽視を指弾される日本」レ・ゼコー紙

TEXT by Yann Rousseau 2023.2.17

G7で諸外国のリーダーたちをまさに受け入れようとしているこのとき、日本の保守的政府の岸田文雄首相は、同性愛者に対する反差別法の採択に反対し、同性婚合法化についての議論を拒むその姿勢を非難されている。

岸田文雄首相は同性愛者に対する差別発言をした秘書官を更迭した©SAUL LOEB/AFP

 

それは余計な言葉だった。
「同性愛カップルの隣には住みたくない。…見るのもイヤ。…同性婚を認めたら国を捨てる人もたくさん出てくる」
このように長々と語ったのは、岸田首相の側近の一人、荒井勝喜だ。今月初め、記者たちの取材にオフレコで応じたときのことだった。首相秘書官でスピーチライターでもある荒井のこのような発言は、保守的な行政部のLGBTコミュニティに対する姿勢を如実に表しているように思われる。
荒井の発言の後に巻き起こった論争に驚いた岸田首相は、ためらった末に彼を更迭することを決断した。だが、この処罰によっても、同性愛者の権利に関する議論を開始することを拒む与党の姿勢を非難する声が日増しに高まっている日本で、議論を沈静化することはできなかった。
「多くの国際組織やLGBTコミュニティ擁護団体が、日本の状況を非常に不安視しています。LGBT当事者を守る法律が日本には存在しないからです」とヒューマン・ライツ・ウォッチ東京ディレクターの土井香苗さんは説明する。
国際機構の抱く不安
「西洋の普遍的な価値観を共有する」と、国際会議のたびに繰り返すことの好きな日本政府だが、彼らは同性婚に反対し、同性愛者に対する差別を禁止する法律の採択をも拒んでいる。 
OECD(経済協力開発機構)諸国のうち、LGBTに関する法的整備の状況を比較すると、日本は35ヵ国中34位に位置しています」と前出の土井さんは語る。
OECDは、他の80カ国以上の国々が性的指向に基づく差別を禁止する措置をすでに取っているにもかかわらず、日本がいまだにこの種の措置をとっていないことを指摘している。
5月中頃の広島でのG7開催を控えるなか、この問題の出現によって窮地に立たされた岸田首相は、ここ数日、火消しに追われた。2月17日、岸田首相はLGBTなど性的マイノリティーの人たちを支援する団体の代表者たちと面会し、森まさこ内閣総理大臣補佐官LGBT理解増進担当に任命したことを発表した。しかし首相はいつものように具体的な約束を拒んだ。また、「同性婚は家族観や価値観、社会が変わってしまう課題」だと、超保守的な与党の方向を変える意志のない首相は釈明した。

LGBT理解増進法
行政部は、LGBT理解増進法というあいまいな内容の法案の準備を約束したが、この法案はLGBT当事者に対する差別を明確に禁止するものではない。
公益社団法人Marriage For All Japan 」共同代表の寺原真希子さんは、「この法案は、当局がこの法律を作ることによって、差別禁止法など本当に必要な法律に着手せず、「政府はこの問題に取り組んだ」というアリバイ作りに利用されるのではないか」と懸念する。
「この法案は、国内でのLGBT当事者たちの置かれた状況を少しも改善するものではなく、差別に関する国際的指標にひとつも該当しないものです。また日本には今も、同性愛者への転向治療を勧める政治家たちが存在するのです」とLGBT法連合会の神谷悠一事務局長はいらだちを顕にする。
代表者たちは、彼らのいう、この問題について輿論を二分する溝について、数年後には政界の人たちが自覚してくれることを信じたいと思っている。
輿論は変わりました。わたしたちはそのことを多くの企業のなかで目の当たりにしています」とプライドハウス東京代表の松中権さんは断言する。日本にはLGBT当事者である従業員に異性婚家庭と同額の家族手当を支給する会社が数多く存在するのだ。
総じて日本人はこの議論に関して無関心ではある。だが、共同通信が今週実施した電話調査によると、回答者の64%が同性婚は認められるべきだと答えている。(了)

 

(フランス語記事)

Avant son G7, le Japon montré du doigt pour son mépris des droits de la communauté LGBT | Les Echos

 

ツボミカフェ 東京の売春街を縦横に走るピンクのバスカフェ Le petit journal.com

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TEXT by Julien Loock 2018.10.30

10月半ば、東京の繁華街に近接する場所に、ひと目で見分けられる鮮烈なカラーリングのバスが現れた。
ピンク色の車体に花柄のペインティングが施されたこのバスは、東京の「売春街」をさまよう未成年の少女たちの避難所の役割を果たし、少女たちを守ること、とくに新宿や渋谷といった繁華街を支配する性的搾取から彼女たちを守ることを目的としたものだ。
この「ツボミカフェ」と名付けられたバスでは、両親から顧みられない少女たちに食事や飲み物が無料で提供され、彼女たちが会話のできる場所も提供される。彼女たちは虐待にあっていたり、経済的に不安定な状況にあったりする。
このバスが初めて登場したのは(2018年)10月7日のこと、新宿の有名な「売春」街、歌舞伎町のど真ん中だった。そのバスカフェで、一般社団法人Colaboのメンバーたちは、困窮状態にある少女たちを受け入れ、彼女たちの声に注意深く耳を傾けた。
「わたしたちは単に援助をするというよりも、むしろ、このような少女たちと関係性を築き上げたいと思っています」とColabo 代表の仁藤夢乃さんは、共同通信の取材に対して語った。現在28歳の彼女もまた、問題のある家庭で思春期を過ごし、東京の繁華街をさまよい歩いた経験をもつ。
「このバスカフェが、少女たちが休息し、くつろぐことができ、居心地のよさを感じられる場所であって欲しいと思っています」
仁藤さんが夜間に開催されるこのバスカフェの着想を得たのは、韓国のソウルに滞在したときのことだった。彼女はそこで、困難を抱える少女たちがバスカフェで受け入れられ、食事をしたり落ち着いて会話のできることを知る。
そうして彼女は、このバスカフェのコンセプトを東京に持ち込むことを決意する。このプロジェクトは、中央政府と東京都から、若年被害女性等支援モデル事業として選定された。Colabo のバスカフェは渋谷と新宿で週に一度、交互に開催されている。
新宿区男女共同参画課のキタザワセイコさんは共同通信の取材に対し、貧困や虐待が原因で家が安全とは思えず、そのせいで新宿に流れてくる少女たちを目にしてきたと打ち明ける。キタザワさんは、少女たちと同年代の人たちからの支援も重要だと強調する。
「もしわれわれが区の職員として支援に現れたとしたらどうでしょう、少女たちのうちのだれもわれわれの支援を受け入れてくれないに決まっています。少女たちと同年代の人たちが彼女たちに近づき、支援をもたらそうとしなければならないのです」
仁藤さんはキタザワさんの話に頷き、次のように説明する。
「多くの少女たちが公的支援を受けることに拒否感をもっており、その上、大人に不信感を抱いています。そんな彼女たちに近づこうとし、話そうとすることができるのは、わたしたちのような、彼女たちに近い世代の女性たちなのです」
非行青年の社会復帰を支援する地方団体の責任者サカモトユキコさんは、Colabo のバスカフェプロジェクトに当初から加わっている。
「確信を持って言えることですが、このような少女たちは好きこのんで夜の街をうろついているのではありません。彼女たちにはなにか家に帰ることのできない理由があるのです。彼女たちのうちには、父親や異母(父)兄弟から性暴力の被害にあった子もいますし、母親の連れ合いの男性から家を追い出されている子もいるのです」(了)

Le bus rose Tsubomi Cafe sillonne les quartiers chauds de Tokyo | lepetitjournal.com

「日本の女性たちは経口中絶薬の処方にパートナーの同意が必要となりそうだ」Slateフランス版

TEXT by Nina Isen 2022.5.31

多くの団体がこのやり方に抗議している。経口中絶薬は、望まない妊娠に終止符を打つ手段として真っ先に挙げられるものだからだ。

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薬物による中絶の費用の高さ(約730ユーロ)も、多くの女性人権団体にとって気がかりの種となっている。©Jezael Melgoza

フランスでは1982年に合法化された経口中絶薬だが、「ガーディアン」紙が報じるところによると、日本でも今年末までに解禁される予定だという。だがこの前進の陰には、悲しい現実が隠されている。女性たちが経口妊娠中絶薬を手に入れるためには、パートナー男性の同意が必要となりそうなのだ。

「ガーディアン」紙が強調するように、日本はWHOが是正を勧告しているにも関わらず、女性が妊娠中絶手術を受けるのに第三者の同意を必要とする国の一つで、このように第三者の同意を必要とする国は、世界中で11カ国のみである。

1948年の優生保護法によってまとめ上げられたこの方策は、多くの活動家たちから、女性の生殖の権利を無視するものだと指摘されている。諸団体は、日本の政府と保健当局に対して、自由意思による妊娠中絶(interruption volontaire de grossesse)にアクセスするためにパートナーの同意を必要とするという条件を取り除くよう呼びかけている。

「「パートナー男性の同意」という条件は、男性から同意が得られなかったり、女性が意思に反して出産を強要された場合、問題となります。望まない妊娠状態を強いられるというのは、暴力であり、一種の拷問です」とAction for Safe Abortion Japan創設メンバーの塚原久美さんは語る。

この措置は、過去に悲劇的な事件を生んでいる。「ガーディアン」紙によると、昨年(2021年)、21歳の女性が公園に新生児を遺棄したとして逮捕され、懲役1年の判決を受けた。女性は裁判官に対し、パートナー男性からの同意を受けることができず、中絶をすることができなかったと打ち明けた。

野党社民党福島みずほ議員は、こう力説する。

「女性は男性の所有物ではありません。女性の権利は守られなければなりません。なぜ中絶をするのにパートナーの同意が必要なのですか?自分の身体の問題なのに」

二重に受け入れがたい条件

パートナーの同意が必要という条件に加えて問題なのが、薬物による妊娠中絶が健康保険の適用外となりそうなことだ。そのため、その費用は10万円(約730ユーロ)となる見込みだと「ガーディアン」紙は報じている。人権保護諸団体にとってはっきりしていることは、多くの若い女性たちが薬代を払えず、そのため望まない妊娠に至るだろうことである。

「経済的な理由で中絶することができない女性たちもいます。避妊、妊娠、出産、これらすべてが国費によって賄われるべきです」と静岡大学人文社会科学部社会学科の白井千晶教授は語る。

また「ガーディアン」紙が指摘するように、日本では経口避妊薬が認可されるのに40年かかっている。バイアグラの認可には半年しか必要とされなかったにも関わらず。活動家たちによると、これは、「大部分が男性たちによって占められている国会と医師会が、女性の健康に対してほとんど関心をもっていない事実」が反映された結果だという。(了)

Au Japon, les femmes ne pourront recourir à la pilule abortive qu'avec l'accord de leur partenaire | Slate.fr

「自衛隊が女性隊員に対する性暴力を認める」Le Figaro 紙

TEXT by Le Figaro+AFP 2022.9.29


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陸上自衛隊トップの吉田圭秀陸上幕僚長(写真左)。2022年9月8日、陸上自衛隊奄美駐屯地で。©TIM KELLY/REUTERS

9月29日、自衛隊は、元隊員の女性が、当時の上官や同僚たちから性暴力(agressions sexuelles)を受けていたことを認めた。彼女の受けた被害は、調査によって事実であることが確認された。

被害当事者で23歳の五ノ井里奈さんは、今年8月に防衛相に対して署名を提出していた。この署名は自身の性暴力被害に対する第三者委員会による調査を求めるもので、10万筆以上を集めていた。

陸上自衛隊トップの吉田圭秀陸上幕僚長は、調査の結果、五ノ井さんが訓練の際に部隊のなかで日常的に暴行やセクハラの被害にあっていたことが明らかになったと述べた。

陸上自衛隊を代表して、長きに渡り苦しんできた五ノ井さんに対し、心からお詫び申し上げます」と吉田陸上幕僚長は、記者会見の席で謝罪した。

調査は現在も継続中で、個々の隊員に対する処罰は調査の終了後に下されるだろうと、自衛隊のスポークスマンはAFPの取材に対して語った。

今回自衛隊がとくに認めたのが、五ノ井さんが2021年の訓練中に同僚の男性隊員たちから身体を触られ、執拗にハラスメントを受けた件だ。このとき五ノ井さんは、陸上自衛官としてのキャリアを歩み始めてから、まだ1年しかたっていなかった。

この事件は例外ではない

「あまりにも遅すぎます」と、五ノ井里奈さんは涙を浮かべながら記者団に対して語った。彼女は、最初の司法捜査が検察から証拠不十分とされ打ち切りとなったのち、健康上の理由で自衛隊を辞めなければならなかった。「このようなことがもう二度と起きないよう、(隊員たちに)自分たちの慣行を見直してほしいです」と彼女は付け加えた。

事件が不起訴となったのち、彼女は、「公正な調査と処罰、そして謝罪」を求める署名活動をネット上で開始していた。8月に防衛相に対して提出されたこの署名には、10万6千筆以上が集められた。同月、五ノ井さんは、「だれも立ち上がらず、だれも行動しなければ、なにも変わらないと思いました」と語り、「隊の元同僚の女性たちを含め、ほかのたくさんの人たちも執拗な性的いやがらせ(harcèlement sexuel)を受けています」と重ねて語っていた。

彼女の行動がきっかけとなり、自衛隊内でのおよそ100件のセクハラやいじめの被害が、女性隊員からだけでなく、男性隊員たちからも申告され、これらの声は五ノ井さんの署名と時を同じくして、防衛相のもとに届けられた。

たとえもし、社会運動#MeTooが日本でわずかながら状況を変えたのだとしても、性暴力の告発がこの国で公の位置を占めることはまれであり、そのような中で敢えてレイプ被害を報告する被害者はほとんどいない。日本政府の統計によると、警察に被害を届け出る性暴力被害者の割合は、わずか4%であるという。(了)

https://www.google.com/amp/s/amp.lefigaro.fr/flash-actu/l-armee-japonaise-reconnait-des-agressions-sexuelles-contre-une-soldate-20220929

 

「遅まきながら、日本の映画界にも#MeTooが上陸した」MADMOIZELLE.COM

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TEXT by Marie Chéreau 2022.5.9
数週間来、これまで性暴力やセクハラに口をつぐんできた日本の映画界に、告発の波が押し寄せた。
2018年にアメリカで勃発したワインスタイン事件が引き金となり、映画業界での身体的暴力と性暴力に対する告発が、世界中で相次いで起こった。
この問題に関して非常に口の堅い日本は、これまで沈黙を保ってきた。しかし、#MeTooが起こってから5年後の今、いくつかの騒動を経て、日本映画界もようやく「#MeToo」と言ったように思われる。

何名もの日本人男性映画監督たちが、自作に出演した女性俳優たちから、性暴力被害を告発された
すべては、2021年3月(原文ママ)に、「週刊文春」が、俳優で映画監督の榊英雄が4人の女性俳優たちに性的関係を強要していたことを暴いたことから始まった。
彼の配偶者で歌手の榊いずみが、公式声明を通じて、4人の被害女性たちに謝罪し、彼と離婚することを表明したが、榊英雄は、4人の女性俳優たちとの性的関係は、同意のもとで持たれたものであったと断言した。その直後、彼の最新作「蜜月」は公開中止となった。この作品は、義父から性暴力被害にあった一人の若い女性がトラウマに苦しむ内容を描いたものだ。
その後、問題は雪玉式にふくれ上がるのだが、この事件はその始まりにすぎなかった…。
それから程なくして、榊の側近で俳優の木下ほうかが、3人の女性俳優からレイプ行為を告発され、「無期限」の活動休止を発表した。
(2022年)4月4日、今度は「愛のむきだし」や「冷たい熱帯魚」(2010年)で知られる人気映画監督の園子温が、複数の女性俳優に、映画の出演と引き換えに性的関係を持つことを要求していたとして告発された。このことは、「週刊女性」が報じた。

日本の映画界も#MeTooを免れない
4月中頃には、日本で最も人気のある女性俳優の一人で、特に「ノルウェーの森」や、5月31日にフランスでも封切られる「あのこは貴族」で知られる水原希子が、「週刊文春」のインタヴューに対してこう語った。
「わたしは男性監督たちから数え切れないほどのセクハラ的な言葉を浴びせられてきました。映画の撮影時にも、いくつもの不愉快な体験をしました」
5月4日、日本の中部地方に位置する愛知県の日刊紙「中日新聞」が、調査の結果を公表し、日本の映画業界に関するセンセーショナルな事実が明らかとなった。
同紙の取材に対して匿名で証言した一人の日本人男性映画監督がそう認めるように、暴力は日本の映画業界のいたるところに存在し、そしてそれは驚くべきことではない。
「ある日、有名な映画監督から、彼の作品についての意見を求められました。わたしは自分の意見を述べました。すると、わたしの答えに激怒した彼は、「お前はなにもわかっていない!」と言って、わたしの顔を殴ったのです」

日本映画界にはびこる沈黙の掟
日本では、映画業界で働く人たちのほとんどが、フリーランスとして働いている。つまり、このことが、優越的な地位にある映画監督たちにとって、思いがけない僥倖となっており、構造的な暴力を助長していると、「映画業界で働く女性を守る会」の代表者である沙織さんは、中日新聞の取材に対して語った。
「問題は監督だけにとどまりません。照明監督や小道具の責任者が、自分たちの部下に対してパワハラや性暴力を犯すことは珍しくありません」
沈黙の掟がひび割れを生ぜしめているこのとき、「万引き家族」でカンヌ国際映画祭最高賞を受賞した是枝裕和を含む6名の映画監督が、公式声明を通じて、業界文化の急進的変化のための主張をした。
「わたしたちは、これまで自分たちが目をつむってきた悪しき慣習を根絶し、すべての俳優、スタッフたちが安全に働くことのできる環境をつくる責任があります。わたしたちは、この目標に達するために必要な行動を考えていきます!」

インディマシー・コーディネーターの導入を義務化すること
俳優の水原希子にとって、打ち出すべき最初の変化で、同時に最も急を要すること、それは、撮影時にインティマシー・コーディネーターを導入することであろう。インティマシー・コーディネーターの仕事は、恋愛シーンの撮影や、またさらにベッドシーンの撮影の際に、俳優たちが安心して演技できる環境が整えられるよう、撮影現場で気を配ることだ。
#MeTooムーヴメント以後、ヨーロッパや北アメリカの映画の撮影現場で、インティマシー・コーディネーターの存在は、次第に増えてきている。しかし日本では、水原希子が「週刊文春」のインタヴューでそう語っているように、インティマシー・コーディネーターは、まだ珍しい存在である。
「今こそ、わたしたちの業界の現実を理解し、必要な変化をもたらすべきときです」
日本で最初のインティマシー・コーディネーターで、アメリカでトレーニングを受けた西村もも子さんと浅田友穂さんは、自分たちの存在がスタジオのなかで「ありふれたもの」となるよう、「毎日新聞」の記事のなかで呼びかけた。
コロナ禍の後、世界中の映画業界が回復の兆しを見せたかに思われる今、前述の暴力事件と性暴力事件は、日本の映画界を一変させた。
「今こそ膿を出し切るべきときです」と、ミニシアター副支配人である坪井篤史さんは、「中日新聞」のインタヴューのなかで語った。
変化への道はきっと長く、困難なものであろう…。世界経済フォーラムが2022年2月に発表した「男女格差指数」で、日本は153カ国中、120位に位置している。
日本での状況は、理想とはほど遠く、勇気を出して被害について語る被害者の数は、それほど多くない。2021年に「日経新聞」が実施した調査によると、質問を受けた女性の42.5%が職場でセクハラに遭っており、そのうち65%が、復讐を恐れて被害を誰にも知らせなかったという。(了)

Au Japon, #MeToo débarque dans l'industrie du cinéma avec du retard - Madmoizelle