「G7の自国開催を前に、LGBTコミュニティの権利軽視を指弾される日本」レ・ゼコー紙

TEXT by Yann Rousseau 2023.2.17

G7で諸外国のリーダーたちをまさに受け入れようとしているこのとき、日本の保守的政府の岸田文雄首相は、同性愛者に対する反差別法の採択に反対し、同性婚合法化についての議論を拒むその姿勢を非難されている。

岸田文雄首相は同性愛者に対する差別発言をした秘書官を更迭した©SAUL LOEB/AFP

 

それは余計な言葉だった。
「同性愛カップルの隣には住みたくない。…見るのもイヤ。…同性婚を認めたら国を捨てる人もたくさん出てくる」
このように長々と語ったのは、岸田首相の側近の一人、荒井勝喜だ。今月初め、記者たちの取材にオフレコで応じたときのことだった。首相秘書官でスピーチライターでもある荒井のこのような発言は、保守的な行政部のLGBTコミュニティに対する姿勢を如実に表しているように思われる。
荒井の発言の後に巻き起こった論争に驚いた岸田首相は、ためらった末に彼を更迭することを決断した。だが、この処罰によっても、同性愛者の権利に関する議論を開始することを拒む与党の姿勢を非難する声が日増しに高まっている日本で、議論を沈静化することはできなかった。
「多くの国際組織やLGBTコミュニティ擁護団体が、日本の状況を非常に不安視しています。LGBT当事者を守る法律が日本には存在しないからです」とヒューマン・ライツ・ウォッチ東京ディレクターの土井香苗さんは説明する。
国際機構の抱く不安
「西洋の普遍的な価値観を共有する」と、国際会議のたびに繰り返すことの好きな日本政府だが、彼らは同性婚に反対し、同性愛者に対する差別を禁止する法律の採択をも拒んでいる。 
OECD(経済協力開発機構)諸国のうち、LGBTに関する法的整備の状況を比較すると、日本は35ヵ国中34位に位置しています」と前出の土井さんは語る。
OECDは、他の80カ国以上の国々が性的指向に基づく差別を禁止する措置をすでに取っているにもかかわらず、日本がいまだにこの種の措置をとっていないことを指摘している。
5月中頃の広島でのG7開催を控えるなか、この問題の出現によって窮地に立たされた岸田首相は、ここ数日、火消しに追われた。2月17日、岸田首相はLGBTなど性的マイノリティーの人たちを支援する団体の代表者たちと面会し、森まさこ内閣総理大臣補佐官LGBT理解増進担当に任命したことを発表した。しかし首相はいつものように具体的な約束を拒んだ。また、「同性婚は家族観や価値観、社会が変わってしまう課題」だと、超保守的な与党の方向を変える意志のない首相は釈明した。

LGBT理解増進法
行政部は、LGBT理解増進法というあいまいな内容の法案の準備を約束したが、この法案はLGBT当事者に対する差別を明確に禁止するものではない。
公益社団法人Marriage For All Japan 」共同代表の寺原真希子さんは、「この法案は、当局がこの法律を作ることによって、差別禁止法など本当に必要な法律に着手せず、「政府はこの問題に取り組んだ」というアリバイ作りに利用されるのではないか」と懸念する。
「この法案は、国内でのLGBT当事者たちの置かれた状況を少しも改善するものではなく、差別に関する国際的指標にひとつも該当しないものです。また日本には今も、同性愛者への転向治療を勧める政治家たちが存在するのです」とLGBT法連合会の神谷悠一事務局長はいらだちを顕にする。
代表者たちは、彼らのいう、この問題について輿論を二分する溝について、数年後には政界の人たちが自覚してくれることを信じたいと思っている。
輿論は変わりました。わたしたちはそのことを多くの企業のなかで目の当たりにしています」とプライドハウス東京代表の松中権さんは断言する。日本にはLGBT当事者である従業員に異性婚家庭と同額の家族手当を支給する会社が数多く存在するのだ。
総じて日本人はこの議論に関して無関心ではある。だが、共同通信が今週実施した電話調査によると、回答者の64%が同性婚は認められるべきだと答えている。(了)

 

(フランス語記事)

Avant son G7, le Japon montré du doigt pour son mépris des droits de la communauté LGBT | Les Echos

 

ツボミカフェ 東京の売春街を縦横に走るピンクのバスカフェ Le petit journal.com

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TEXT by Julien Loock 2018.10.30

10月半ば、東京の繁華街に近接する場所に、ひと目で見分けられる鮮烈なカラーリングのバスが現れた。
ピンク色の車体に花柄のペインティングが施されたこのバスは、東京の「売春街」をさまよう未成年の少女たちの避難所の役割を果たし、少女たちを守ること、とくに新宿や渋谷といった繁華街を支配する性的搾取から彼女たちを守ることを目的としたものだ。
この「ツボミカフェ」と名付けられたバスでは、両親から顧みられない少女たちに食事や飲み物が無料で提供され、彼女たちが会話のできる場所も提供される。彼女たちは虐待にあっていたり、経済的に不安定な状況にあったりする。
このバスが初めて登場したのは(2018年)10月7日のこと、新宿の有名な「売春」街、歌舞伎町のど真ん中だった。そのバスカフェで、一般社団法人Colaboのメンバーたちは、困窮状態にある少女たちを受け入れ、彼女たちの声に注意深く耳を傾けた。
「わたしたちは単に援助をするというよりも、むしろ、このような少女たちと関係性を築き上げたいと思っています」とColabo 代表の仁藤夢乃さんは、共同通信の取材に対して語った。現在28歳の彼女もまた、問題のある家庭で思春期を過ごし、東京の繁華街をさまよい歩いた経験をもつ。
「このバスカフェが、少女たちが休息し、くつろぐことができ、居心地のよさを感じられる場所であって欲しいと思っています」
仁藤さんが夜間に開催されるこのバスカフェの着想を得たのは、韓国のソウルに滞在したときのことだった。彼女はそこで、困難を抱える少女たちがバスカフェで受け入れられ、食事をしたり落ち着いて会話のできることを知る。
そうして彼女は、このバスカフェのコンセプトを東京に持ち込むことを決意する。このプロジェクトは、中央政府と東京都から、若年被害女性等支援モデル事業として選定された。Colabo のバスカフェは渋谷と新宿で週に一度、交互に開催されている。
新宿区男女共同参画課のキタザワセイコさんは共同通信の取材に対し、貧困や虐待が原因で家が安全とは思えず、そのせいで新宿に流れてくる少女たちを目にしてきたと打ち明ける。キタザワさんは、少女たちと同年代の人たちからの支援も重要だと強調する。
「もしわれわれが区の職員として支援に現れたとしたらどうでしょう、少女たちのうちのだれもわれわれの支援を受け入れてくれないに決まっています。少女たちと同年代の人たちが彼女たちに近づき、支援をもたらそうとしなければならないのです」
仁藤さんはキタザワさんの話に頷き、次のように説明する。
「多くの少女たちが公的支援を受けることに拒否感をもっており、その上、大人に不信感を抱いています。そんな彼女たちに近づこうとし、話そうとすることができるのは、わたしたちのような、彼女たちに近い世代の女性たちなのです」
非行青年の社会復帰を支援する地方団体の責任者サカモトユキコさんは、Colabo のバスカフェプロジェクトに当初から加わっている。
「確信を持って言えることですが、このような少女たちは好きこのんで夜の街をうろついているのではありません。彼女たちにはなにか家に帰ることのできない理由があるのです。彼女たちのうちには、父親や異母(父)兄弟から性暴力の被害にあった子もいますし、母親の連れ合いの男性から家を追い出されている子もいるのです」(了)

Le bus rose Tsubomi Cafe sillonne les quartiers chauds de Tokyo | lepetitjournal.com

「日本の女性たちは経口中絶薬の処方にパートナーの同意が必要となりそうだ」Slateフランス版

TEXT by Nina Isen 2022.5.31

多くの団体がこのやり方に抗議している。経口中絶薬は、望まない妊娠に終止符を打つ手段として真っ先に挙げられるものだからだ。

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薬物による中絶の費用の高さ(約730ユーロ)も、多くの女性人権団体にとって気がかりの種となっている。©Jezael Melgoza

フランスでは1982年に合法化された経口中絶薬だが、「ガーディアン」紙が報じるところによると、日本でも今年末までに解禁される予定だという。だがこの前進の陰には、悲しい現実が隠されている。女性たちが経口妊娠中絶薬を手に入れるためには、パートナー男性の同意が必要となりそうなのだ。

「ガーディアン」紙が強調するように、日本はWHOが是正を勧告しているにも関わらず、女性が妊娠中絶手術を受けるのに第三者の同意を必要とする国の一つで、このように第三者の同意を必要とする国は、世界中で11カ国のみである。

1948年の優生保護法によってまとめ上げられたこの方策は、多くの活動家たちから、女性の生殖の権利を無視するものだと指摘されている。諸団体は、日本の政府と保健当局に対して、自由意思による妊娠中絶(interruption volontaire de grossesse)にアクセスするためにパートナーの同意を必要とするという条件を取り除くよう呼びかけている。

「「パートナー男性の同意」という条件は、男性から同意が得られなかったり、女性が意思に反して出産を強要された場合、問題となります。望まない妊娠状態を強いられるというのは、暴力であり、一種の拷問です」とAction for Safe Abortion Japan創設メンバーの塚原久美さんは語る。

この措置は、過去に悲劇的な事件を生んでいる。「ガーディアン」紙によると、昨年(2021年)、21歳の女性が公園に新生児を遺棄したとして逮捕され、懲役1年の判決を受けた。女性は裁判官に対し、パートナー男性からの同意を受けることができず、中絶をすることができなかったと打ち明けた。

野党社民党福島みずほ議員は、こう力説する。

「女性は男性の所有物ではありません。女性の権利は守られなければなりません。なぜ中絶をするのにパートナーの同意が必要なのですか?自分の身体の問題なのに」

二重に受け入れがたい条件

パートナーの同意が必要という条件に加えて問題なのが、薬物による妊娠中絶が健康保険の適用外となりそうなことだ。そのため、その費用は10万円(約730ユーロ)となる見込みだと「ガーディアン」紙は報じている。人権保護諸団体にとってはっきりしていることは、多くの若い女性たちが薬代を払えず、そのため望まない妊娠に至るだろうことである。

「経済的な理由で中絶することができない女性たちもいます。避妊、妊娠、出産、これらすべてが国費によって賄われるべきです」と静岡大学人文社会科学部社会学科の白井千晶教授は語る。

また「ガーディアン」紙が指摘するように、日本では経口避妊薬が認可されるのに40年かかっている。バイアグラの認可には半年しか必要とされなかったにも関わらず。活動家たちによると、これは、「大部分が男性たちによって占められている国会と医師会が、女性の健康に対してほとんど関心をもっていない事実」が反映された結果だという。(了)

Au Japon, les femmes ne pourront recourir à la pilule abortive qu'avec l'accord de leur partenaire | Slate.fr

「自衛隊が女性隊員に対する性暴力を認める」Le Figaro 紙

TEXT by Le Figaro+AFP 2022.9.29


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陸上自衛隊トップの吉田圭秀陸上幕僚長(写真左)。2022年9月8日、陸上自衛隊奄美駐屯地で。©TIM KELLY/REUTERS

9月29日、自衛隊は、元隊員の女性が、当時の上官や同僚たちから性暴力(agressions sexuelles)を受けていたことを認めた。彼女の受けた被害は、調査によって事実であることが確認された。

被害当事者で23歳の五ノ井里奈さんは、今年8月に防衛相に対して署名を提出していた。この署名は自身の性暴力被害に対する第三者委員会による調査を求めるもので、10万筆以上を集めていた。

陸上自衛隊トップの吉田圭秀陸上幕僚長は、調査の結果、五ノ井さんが訓練の際に部隊のなかで日常的に暴行やセクハラの被害にあっていたことが明らかになったと述べた。

陸上自衛隊を代表して、長きに渡り苦しんできた五ノ井さんに対し、心からお詫び申し上げます」と吉田陸上幕僚長は、記者会見の席で謝罪した。

調査は現在も継続中で、個々の隊員に対する処罰は調査の終了後に下されるだろうと、自衛隊のスポークスマンはAFPの取材に対して語った。

今回自衛隊がとくに認めたのが、五ノ井さんが2021年の訓練中に同僚の男性隊員たちから身体を触られ、執拗にハラスメントを受けた件だ。このとき五ノ井さんは、陸上自衛官としてのキャリアを歩み始めてから、まだ1年しかたっていなかった。

この事件は例外ではない

「あまりにも遅すぎます」と、五ノ井里奈さんは涙を浮かべながら記者団に対して語った。彼女は、最初の司法捜査が検察から証拠不十分とされ打ち切りとなったのち、健康上の理由で自衛隊を辞めなければならなかった。「このようなことがもう二度と起きないよう、(隊員たちに)自分たちの慣行を見直してほしいです」と彼女は付け加えた。

事件が不起訴となったのち、彼女は、「公正な調査と処罰、そして謝罪」を求める署名活動をネット上で開始していた。8月に防衛相に対して提出されたこの署名には、10万6千筆以上が集められた。同月、五ノ井さんは、「だれも立ち上がらず、だれも行動しなければ、なにも変わらないと思いました」と語り、「隊の元同僚の女性たちを含め、ほかのたくさんの人たちも執拗な性的いやがらせ(harcèlement sexuel)を受けています」と重ねて語っていた。

彼女の行動がきっかけとなり、自衛隊内でのおよそ100件のセクハラやいじめの被害が、女性隊員からだけでなく、男性隊員たちからも申告され、これらの声は五ノ井さんの署名と時を同じくして、防衛相のもとに届けられた。

たとえもし、社会運動#MeTooが日本でわずかながら状況を変えたのだとしても、性暴力の告発がこの国で公の位置を占めることはまれであり、そのような中で敢えてレイプ被害を報告する被害者はほとんどいない。日本政府の統計によると、警察に被害を届け出る性暴力被害者の割合は、わずか4%であるという。(了)

https://www.google.com/amp/s/amp.lefigaro.fr/flash-actu/l-armee-japonaise-reconnait-des-agressions-sexuelles-contre-une-soldate-20220929

 

「遅まきながら、日本の映画界にも#MeTooが上陸した」MADMOIZELLE.COM

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TEXT by Marie Chéreau 2022.5.9
数週間来、これまで性暴力やセクハラに口をつぐんできた日本の映画界に、告発の波が押し寄せた。
2018年にアメリカで勃発したワインスタイン事件が引き金となり、映画業界での身体的暴力と性暴力に対する告発が、世界中で相次いで起こった。
この問題に関して非常に口の堅い日本は、これまで沈黙を保ってきた。しかし、#MeTooが起こってから5年後の今、いくつかの騒動を経て、日本映画界もようやく「#MeToo」と言ったように思われる。

何名もの日本人男性映画監督たちが、自作に出演した女性俳優たちから、性暴力被害を告発された
すべては、2021年3月(原文ママ)に、「週刊文春」が、俳優で映画監督の榊英雄が4人の女性俳優たちに性的関係を強要していたことを暴いたことから始まった。
彼の配偶者で歌手の榊いずみが、公式声明を通じて、4人の被害女性たちに謝罪し、彼と離婚することを表明したが、榊英雄は、4人の女性俳優たちとの性的関係は、同意のもとで持たれたものであったと断言した。その直後、彼の最新作「蜜月」は公開中止となった。この作品は、義父から性暴力被害にあった一人の若い女性がトラウマに苦しむ内容を描いたものだ。
その後、問題は雪玉式にふくれ上がるのだが、この事件はその始まりにすぎなかった…。
それから程なくして、榊の側近で俳優の木下ほうかが、3人の女性俳優からレイプ行為を告発され、「無期限」の活動休止を発表した。
(2022年)4月4日、今度は「愛のむきだし」や「冷たい熱帯魚」(2010年)で知られる人気映画監督の園子温が、複数の女性俳優に、映画の出演と引き換えに性的関係を持つことを要求していたとして告発された。このことは、「週刊女性」が報じた。

日本の映画界も#MeTooを免れない
4月中頃には、日本で最も人気のある女性俳優の一人で、特に「ノルウェーの森」や、5月31日にフランスでも封切られる「あのこは貴族」で知られる水原希子が、「週刊文春」のインタヴューに対してこう語った。
「わたしは男性監督たちから数え切れないほどのセクハラ的な言葉を浴びせられてきました。映画の撮影時にも、いくつもの不愉快な体験をしました」
5月4日、日本の中部地方に位置する愛知県の日刊紙「中日新聞」が、調査の結果を公表し、日本の映画業界に関するセンセーショナルな事実が明らかとなった。
同紙の取材に対して匿名で証言した一人の日本人男性映画監督がそう認めるように、暴力は日本の映画業界のいたるところに存在し、そしてそれは驚くべきことではない。
「ある日、有名な映画監督から、彼の作品についての意見を求められました。わたしは自分の意見を述べました。すると、わたしの答えに激怒した彼は、「お前はなにもわかっていない!」と言って、わたしの顔を殴ったのです」

日本映画界にはびこる沈黙の掟
日本では、映画業界で働く人たちのほとんどが、フリーランスとして働いている。つまり、このことが、優越的な地位にある映画監督たちにとって、思いがけない僥倖となっており、構造的な暴力を助長していると、「映画業界で働く女性を守る会」の代表者である沙織さんは、中日新聞の取材に対して語った。
「問題は監督だけにとどまりません。照明監督や小道具の責任者が、自分たちの部下に対してパワハラや性暴力を犯すことは珍しくありません」
沈黙の掟がひび割れを生ぜしめているこのとき、「万引き家族」でカンヌ国際映画祭最高賞を受賞した是枝裕和を含む6名の映画監督が、公式声明を通じて、業界文化の急進的変化のための主張をした。
「わたしたちは、これまで自分たちが目をつむってきた悪しき慣習を根絶し、すべての俳優、スタッフたちが安全に働くことのできる環境をつくる責任があります。わたしたちは、この目標に達するために必要な行動を考えていきます!」

インディマシー・コーディネーターの導入を義務化すること
俳優の水原希子にとって、打ち出すべき最初の変化で、同時に最も急を要すること、それは、撮影時にインティマシー・コーディネーターを導入することであろう。インティマシー・コーディネーターの仕事は、恋愛シーンの撮影や、またさらにベッドシーンの撮影の際に、俳優たちが安心して演技できる環境が整えられるよう、撮影現場で気を配ることだ。
#MeTooムーヴメント以後、ヨーロッパや北アメリカの映画の撮影現場で、インティマシー・コーディネーターの存在は、次第に増えてきている。しかし日本では、水原希子が「週刊文春」のインタヴューでそう語っているように、インティマシー・コーディネーターは、まだ珍しい存在である。
「今こそ、わたしたちの業界の現実を理解し、必要な変化をもたらすべきときです」
日本で最初のインティマシー・コーディネーターで、アメリカでトレーニングを受けた西村もも子さんと浅田友穂さんは、自分たちの存在がスタジオのなかで「ありふれたもの」となるよう、「毎日新聞」の記事のなかで呼びかけた。
コロナ禍の後、世界中の映画業界が回復の兆しを見せたかに思われる今、前述の暴力事件と性暴力事件は、日本の映画界を一変させた。
「今こそ膿を出し切るべきときです」と、ミニシアター副支配人である坪井篤史さんは、「中日新聞」のインタヴューのなかで語った。
変化への道はきっと長く、困難なものであろう…。世界経済フォーラムが2022年2月に発表した「男女格差指数」で、日本は153カ国中、120位に位置している。
日本での状況は、理想とはほど遠く、勇気を出して被害について語る被害者の数は、それほど多くない。2021年に「日経新聞」が実施した調査によると、質問を受けた女性の42.5%が職場でセクハラに遭っており、そのうち65%が、復讐を恐れて被害を誰にも知らせなかったという。(了)

Au Japon, #MeToo débarque dans l'industrie du cinéma avec du retard - Madmoizelle

「伊藤詩織さん、日本の#MeTooムーヴメントの中心的人物」 ActuaLitté.com 

 

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©Philippe Picquier

若い日本人ジャーナリストで、レイプ被害当事者である彼女は、性犯罪を報告する被害者の割合がわづか4.3%でしかない日本で正義を得ることの難しさを、著書の中で描写している。メディアでの発言を通しての、そして法的な長い闘いの末、彼女は最終的に、安倍晋三元首相に近い人物である加害者が処罰されるという結果を得た。ただし…刑事罰ではなく、民事での賠償金支払いというかたちで。
TEXT by Émilie Guyonnet 2022.3.21
レイプの被害に遭い、その後、行政当局からの不誠実で熱意のない対応とメディアの沈黙に直面した伊藤詩織さんは、脅しにも屈せず、世間の人たちに耳を傾けさせるために著書を執筆した。著書の執筆当時、刑事での彼女の訴えは退けられた(訳註:正確には事件は2016年7月22日付で不起訴処分となり、その後、2017年9月22日、検察審査会において「不起訴相当」の議決が出された)。そして結局、加害者が処罰されたのは民事裁判においてであった。ただし、賠償金支払いというかたちで。
著書のなかで伊藤詩織さんは、加害者である男性と知り合った経緯を語っている。この男性はTBSの元記者で、同局の元ワシントン支局長であり、また彼は安倍晋三元首相に近い人物で、安倍の伝記作家でもある。彼女はそれだけでなく、自身が通り抜けてきた困難と、正義を得るための奔走を著書のなかで語っている。
読者は彼女の証言を通して、レイプの被害者たちが日本で支援を得ることが非常に困難であることに気づかされる。医師たちは彼女の言葉にほとんど耳を傾けず、結局、彼女を最も大きく助けたのは、性犯罪を専門とする二人の女性弁護士であった。
また本書の読者は、一般的な思い込みとは反対に、性暴力の被害者たちは、知り合いから被害に遭っていることに気づくことになる。
さらに、著者の伊藤詩織さんは、政府の統計によると、日本で知らない人から性暴力の被害に遭った人の割合は、11.1%でしかないことを強調している。
著書のなかで、日本の#MeTooの中心的人物である伊藤詩織さんは、単に自身の経験を語るだけにとどまらず、被害者支援に関して世界で最も先進的な国であるスウェーデンの取り組みを例に挙げ、日本での被害者に対する受け入れ体制を改善するための提言をしている。
正確に書かれ、資料に裏付けられ、そしてたゆまぬ決意に支えられた本書は、その主題の厳しさにも関わらず、非常に興味深く、読者を熱中させる著作であることを示している。
『Black Box』フランス語版(ポケット版) 伊藤詩織著 Jean-Christophe Helary, Aline Koza 共訳 Philippe Picquier 社 2021年1月7日 282頁 8,50€

 Ito Shiori, figure de proue du mouvement #metoo au Japon (actualitte.com) 

「日本で、性暴力に反対するデモが広がる」La Croix

性暴力に反対する運動の象徴で、月に一度開催されるフラワーデモが、この二年間で日本のすべての都道府県に拡大した。性暴力に関するタブーをなくすこと、そして被害者たちが沈黙から抜け出すことを可能にするのを願って。

TEXT by Yuta Yagishita 2021.4.18

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2019年に東京で開催されたデモにて撮影 ©️ISSEI KATO/REUTERS

 

4月のこの日、東京駅前の広場では、寒さとコロナ禍にもかかわらず、およそ50名の参加者たちが、石田郁子さんのスピーチに注意深く耳を傾けた。石田さんは札幌市内の中学校に通っていたときに、男性教師から学校で性暴力の被害に遭った。事件から20年以上たった2019年、石田さんは男性教師と市を相手取って訴訟を起こした。彼女の訴えは退けられたが、「わたしが性暴力の被害に遭っていた事実は認められ、加害者は免職されました」。石田さんがそう告げると、デモの参加者たちは励ましの声の混じった大きな拍手で応えた。

各地で毎月開催される集会
この、「フラワーデモ」と名付けられた性暴力に反対するデモは、#MeToo以後の日本のフェミニスト運動の象徴である。2019年4月の開催以来、この毎月開催される集会は、全国47都道府県に拡大し、延べ1万3千人が参加した。これは、デモに参加する人はわずかで、長年にわたって性暴力がタブーとみなされていた日本では異例なことだ。
「裁判のあいだ、とても孤独に感じることもありました。でもここではみなさんが優しい言葉でわたしのことを励ましてくれます。それがわたしの心を和らげてくれます」
フラワーデモにほぼ毎回参加する石田さんは、スピーチのなかでそう語ってくれた。
このデモの驚異的な成功を理解するために、われわれは2019年3月へと時計の針を戻さなければならない。2019年3月、4件のレイプ事件に対して無罪判決が下った。そのうち2件は近親姦レイプであった。このような判決が下る原因は、日本の刑法では性的同意が考慮に入れられていないこと、また、被害者の抵抗を無力化する強制または脅迫がなければレイプとはみなされないことなどである。

性被害当事者たちが言葉を発する
憤慨させられた500名以上の女性たちが、2019年4月11日、東京駅前に集結した。会場では予定されたスピーチが終っても、誰も帰ろうとはしなかった。その光景はまるで、あたかもタブーが吹き飛んでしまったかのようであった。そして何名もの参加者たちが、自分たちのこれまで受けてきた性的攻撃やレイプ被害の体験を共有するために発言をした。その様子を見た主催者たちは、翌月も同様の集会を開くことを決めた。これが、フラワーデモ誕生の経緯である。
編集者でフラワーデモ呼びかけ人のひとりである松尾亜紀子さんはこう断言する。
「これまで社会は性被害当事者たちの声を一度も聞いてきませんでした。わたしたちは、当事者たちが話すことのできる場所を作りました。ここでは、たくさんの参加者たちが、これまで一度も話す勇気のもてなかったことを話してくれます。フラワーデモは、性暴力の生の現実を示すことを可能にしたのです」

性的同意の闘い
目白大学心理学部専任講師の齋藤梓さんは、このデモが日本人のメンタリティを変えることに貢献したとして、次のように語る。
「メディアの仕事を通じて、自分が性暴力の被害に遭っていたことに気づく人の数が、次第に増えてきています。同時に、自分も声を上げることができることに気づく当事者たちの数も増加しています」
だが、フェミニストたちの闘いがこれで終ったわけではない。彼女たちは、日本の刑法に同意の概念が銘記されるよう、闘っている。この問題は、現在、法務省の「性犯罪に関する刑事法検討会」で討議されている。しかし検討会のなかには、同意の概念を刑法に盛り込むことに反対するメンバーもいる。フラワーデモに定期的に参加する山本潤さんは、ため息まじりに次のように語った。山本さんは団体「Spring」代表で、法改正検討会のメンバーでもあり、性被害当事者たちのために闘っている。
「同意のない性行為が犯罪とされるかどうか、はっきりしたことはいえない状況です」(了)

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