「G7の自国開催を前に、LGBTコミュニティの権利軽視を指弾される日本」レ・ゼコー紙

TEXT by Yann Rousseau 2023.2.17

G7で諸外国のリーダーたちをまさに受け入れようとしているこのとき、日本の保守的政府の岸田文雄首相は、同性愛者に対する反差別法の採択に反対し、同性婚合法化についての議論を拒むその姿勢を非難されている。

岸田文雄首相は同性愛者に対する差別発言をした秘書官を更迭した©SAUL LOEB/AFP

 

それは余計な言葉だった。
「同性愛カップルの隣には住みたくない。…見るのもイヤ。…同性婚を認めたら国を捨てる人もたくさん出てくる」
このように長々と語ったのは、岸田首相の側近の一人、荒井勝喜だ。今月初め、記者たちの取材にオフレコで応じたときのことだった。首相秘書官でスピーチライターでもある荒井のこのような発言は、保守的な行政部のLGBTコミュニティに対する姿勢を如実に表しているように思われる。
荒井の発言の後に巻き起こった論争に驚いた岸田首相は、ためらった末に彼を更迭することを決断した。だが、この処罰によっても、同性愛者の権利に関する議論を開始することを拒む与党の姿勢を非難する声が日増しに高まっている日本で、議論を沈静化することはできなかった。
「多くの国際組織やLGBTコミュニティ擁護団体が、日本の状況を非常に不安視しています。LGBT当事者を守る法律が日本には存在しないからです」とヒューマン・ライツ・ウォッチ東京ディレクターの土井香苗さんは説明する。
国際機構の抱く不安
「西洋の普遍的な価値観を共有する」と、国際会議のたびに繰り返すことの好きな日本政府だが、彼らは同性婚に反対し、同性愛者に対する差別を禁止する法律の採択をも拒んでいる。 
OECD(経済協力開発機構)諸国のうち、LGBTに関する法的整備の状況を比較すると、日本は35ヵ国中34位に位置しています」と前出の土井さんは語る。
OECDは、他の80カ国以上の国々が性的指向に基づく差別を禁止する措置をすでに取っているにもかかわらず、日本がいまだにこの種の措置をとっていないことを指摘している。
5月中頃の広島でのG7開催を控えるなか、この問題の出現によって窮地に立たされた岸田首相は、ここ数日、火消しに追われた。2月17日、岸田首相はLGBTなど性的マイノリティーの人たちを支援する団体の代表者たちと面会し、森まさこ内閣総理大臣補佐官LGBT理解増進担当に任命したことを発表した。しかし首相はいつものように具体的な約束を拒んだ。また、「同性婚は家族観や価値観、社会が変わってしまう課題」だと、超保守的な与党の方向を変える意志のない首相は釈明した。

LGBT理解増進法
行政部は、LGBT理解増進法というあいまいな内容の法案の準備を約束したが、この法案はLGBT当事者に対する差別を明確に禁止するものではない。
公益社団法人Marriage For All Japan 」共同代表の寺原真希子さんは、「この法案は、当局がこの法律を作ることによって、差別禁止法など本当に必要な法律に着手せず、「政府はこの問題に取り組んだ」というアリバイ作りに利用されるのではないか」と懸念する。
「この法案は、国内でのLGBT当事者たちの置かれた状況を少しも改善するものではなく、差別に関する国際的指標にひとつも該当しないものです。また日本には今も、同性愛者への転向治療を勧める政治家たちが存在するのです」とLGBT法連合会の神谷悠一事務局長はいらだちを顕にする。
代表者たちは、彼らのいう、この問題について輿論を二分する溝について、数年後には政界の人たちが自覚してくれることを信じたいと思っている。
輿論は変わりました。わたしたちはそのことを多くの企業のなかで目の当たりにしています」とプライドハウス東京代表の松中権さんは断言する。日本にはLGBT当事者である従業員に異性婚家庭と同額の家族手当を支給する会社が数多く存在するのだ。
総じて日本人はこの議論に関して無関心ではある。だが、共同通信が今週実施した電話調査によると、回答者の64%が同性婚は認められるべきだと答えている。(了)

 

(フランス語記事)

Avant son G7, le Japon montré du doigt pour son mépris des droits de la communauté LGBT | Les Echos