「日本は性暴力についてオープンに話すことの出来る社会の最初の段階にある」Paris Match誌

2019.4.22

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©Hanna Aqvilin

著書『Black Box』を発表したジャーナリストの伊藤詩織さん。この本は自身のレイプ被害を語り、性暴力とそれに関する廃れた法律を告発するもので、またそれだけでなく日本でのMeTooムーブメントの影響を語る力強い証言である。

Kahina Sekkaiさん: どのように本を書く決心をしたのですか?

伊藤詩織さん : 2年前、私が自身の体験を公に話したときのことです。私は編集者の女性から手紙を受け取りました。長い手紙で、私に本を書くことを促す内容のものでした。彼女は私を励まして、(性暴力に関する)法律改正の直前だったその時期に、なぜ私たちがこの性暴力についてはなさなければならないのかということを言うために、自分の言葉を使って本を書くことを促しました。私が自身の体験を語ったとき、世間の人たちはこの事件をスキャンダラスなものとして見ました。編集者の女性は、「あなたは扉を開いたのです」「あなたは話さなければならないでしょう」と言って、私を勇気づけてくれました。しかし事件について思い出すことは未だ心に傷を与えるようなつらいことで、私は本を書くことのできる状態にはありませんでした。私は彼女に3年か4年待ってほしいと言いました。自分に起こったことを全て理解し、自分のものにするための時間としてです。しかし彼女は人々が私の声に耳を傾けている限り、出来るだけ早く本を書くようにさせました。私は彼女のアドバイスに従いました。当時私は自宅に戻ることが全く出来ず、友人たちの家に身を隠していました。東京で生活を続けることはとても難しく、以前住んでいた辺りはもう安全ではないと感じていました。幸いにも私はロンドンで働く機会を得て、そこで本の執筆をしました。私は3ヶ月間、昼夜のべつなく書き続けました。でも今は本を書いたことに満足しています。

Kahina Sekkaiさん : 本を書くことは、あなたにとってカタルシスを感じるような体験だったのですか?

伊藤詩織さん : 書き始めてすぐの頃には、全くそうではありませんでした。ときには自分の書いた原稿を2、3週間も見ることができないこともありました。しかし最終的にはそうだったといえます。本を書くことによって全ての事実、全ての詳細、全ての記憶を整理することができたのです。そして本を書くことは、自分の記憶により多くの自信を与えてくれました。つまり全てが本当であって、全てが真実であることが、事実によって確認されたのです。

Kahina Sekkaiさん: あなたの著書は単なる個人的な証言以上のもので、これは日本の法律の変化と理屈の変化を擁護する弁論と言えるものです。

伊藤詩織さん : もし法律システムや社会からの精神的支援が十分に強固であったなら、私はおそらくこの本を書くことはなかったでしょう。私が本を書いたのは、自分が今まで一体どんな社会に生きていたのかということに気付き、驚いたからです。これは言及したり、書いたりシェアすることの非常に難しい話題でした。日本に戻ってくると、私はいつも困難を覚えています。

Kahina Sekkaiさん: 結果はどうでしたか?また、どのような影響がありましたか?

伊藤詩織さん: だんだんと良くなっています。しかしこの話を耳にすることを好まない日本人がどれだけいるのか、その割合を推定することは難しいです。私はネット上で沢山の否定的なメッセージを受け取り、ときには自分や家族の身の安全が脅かされるように感じることもありました。家族は私に本当に公表して欲しくなかったのです。まして私が本を書くことなど望んではいませんでした。しかし私は自分の言葉を使うことが、自分の身を守る唯一の方法だということを知っていました。もし私が全てを話せば、いっそう安全だと考えられるのです。なぜならそうしておけば、もし私や家族の身に何か起こっても、世間の人たちは私や家族の身に何が起こったかを理解してくれるかもしれないからです。

Kahina Sekkaiさん: #MeTooムーブメントが起こってから一年以上になります。このことについてどう思われますか?

伊藤詩織さん: #MeToo が起こったのは、私が被害を公表してからおよそ半年後のことでした。それはちょうど私の本が日本で出版されたのと同じ時期でした。その頃私は、自分は一人だと感じていて、みんなが話すのを決心したことに驚きました。家族も私が一人ではないのを見て、安心してくれました。#MeTooは、性暴力被害についてオープンに話すことのできたサバイバーたちにとって、有益なものでした。しかし日本では、まだそれはとても難しいのです。メディアの関心は変わり、メディアの中でも性暴力やセクハラについて話されはじめました。日本で私たちは、性暴力についてオープンに話すことのできる社会の、最初の段階にあります。しかし私たちには他の国々と同じように、そのような社会の実現までの長い道のりが残されているのです。

Kahina Sekkaiさん: あなたは著書の中で多くのページを割いて、日本の法律と諸外国の法律との違いについて説明しています。日本は特殊な国だとお考えですか?

伊藤詩織さん: 法律の面ではそうです。レイプに関する法律は110年間改正されないままでした。教育や法律の面で、変えるべきことがたくさん残っているのです…。しかし私は、肝要な問題は普遍的なものだと考えています。私は今、アフリカの女性器切除と性暴力の問題を仕事で取り上げています。もちろん、日本とアフリカでは問題は全く異なります。しかし、伝統やメンタリティといった面ではよく似ています。日本人として、女性に関連した問題について私たちがどれほど遅れていたか気付かされます…。日本の遅れている面に光を当てることは、居心地の悪い思いをさせるものでした。なぜならそれは日本人が聞きたくないと思っている問題だからです。しかしそれは事実です。そして、そのようにして変化は始まるのです。

Kahina Sekkaiさん: 執筆後、あなたの訴訟に進展はありましたか?

伊藤詩織さん:いいえ。私の訴えは不起訴になりました。刑事告訴がです。しかし私たちは2017年末に民事訴訟を起こし、係争中です。もうすぐ2人とも裁判所に出頭し、本人尋問が行われる予定です。しかし加害者は反訴をし、莫大な金額を請求してきました。メディアの中の一部には「被害者は笑顔を見せるものではないだろう」といって、私のことを批判する人たちもいました。これは興味深いことです。なぜなら #MeToo が起こって以後の今日でさえ、人々は旧弊な考えを持っているからです。それでも私は民事で争います。なぜなら、一般にもし刑事告訴が不起訴になれば、集められた証拠は不十分とされ、その証拠にアクセスすることはできないからです。そしてメディアは、裁判所が不起訴としたのだから事件は起きなかったのだと考えて、捜査を後押ししないのです。民事裁判では自身の証拠を見える形で並べることができ、一般の人たちはそれらの証拠を目にすることができるのです。それはより開かれたもので、人々は自分たちがどのような司法システムを有しているのかを目にすることでしょう。何が機能不全を起こしているのかを確認するためにです。

Kahina Sekkaiさん: 告訴に至るまでの間に、捜査官たちが、告訴をすることはあなたがジャーナリストとしての仕事を続けていく上で問題になるかもしれないといって、何度もあなたに警告したそうですね。あなたはジャーナリストとしてのキャリアを順調に重ねているのでしょうか?

伊藤詩織さん: 興味深い質問です。警察署に行ったとき、日本ではもう働けなくなるかもしれないと言われました。確かにそれは複雑でした。「就職の話を断るべきだった。なぜならそれは罠だったんだから」と言う人たちもいました。しかし私はメディアに何ができて何ができないのかを間近で見たと考えています。そして私は、どうやって性暴力について話すことができるのかということを学びました。日本のメディア業界で働くことは難しいです。しかしそれは重要なことです。なぜなら、私たちには非常に多くの取り組むべき問題があるからです。私は今、自由です。私は自分のプロダクション会社をロンドンに構えています。ドキュメンタリー作品を制作するためにです。私は着実に前に進んでいます。

Kahina Sekkaiさん: あなたは本の中で、事件がメディアで報道されたことが原因で、妹さんはあなたとの関係を絶ってしまったと説明しています。お二人の関係は改善されたのでしょうか?

伊藤詩織さん: #MeToo が起こってから、性暴力について話すことはそれほど難しいことではなかったことに、妹も気づいたと思います。それまで、妹は起こり得たことに対して恐れを抱いていました。私たちが話をするのに一年かかりました。年の離れた彼女は、もし世間の人たちが彼女が私の妹であることに気づいたら、仕事を見つけることができなくなるかも知れないと恐れていたのだと思います。その後、妹は働き始めましたが、それは家族にとってつらいことでした。私は家族のことが心配でした。私は行動することを決意しましたが、それは家族の選んだことではありませんでした。私は家族を出来る限り守りたいと考えていました。それが今ではより開かれた形になり、家族はより一層私を支え、理解してくれています。性暴力についてオープンに話すこと、つまり多くの人たちが自身の体験を語ったということ、そのような状況は変化し、そしてそれは私を大いに助けてくれました。フランスでこの本が出版されるのは、本当に不思議な気がします。考えてもみませんでしたから。とても興味深いことです。(了)

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