「孤立したいくつかの声があがったものの、日本は#MeTooとほとんど関わりを持っていない」AFP通信 フランス語動画翻訳

2018.4.2

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(字幕)#MeToo: 日本で性暴力を告発することは重大な行為である。

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(字幕)伊藤詩織さんは自身の経験を公にしたことで、大きな犠牲を払った。彼女は特に、著書を書くことによって自身の経験を公にした。その著書のなかで彼女は、2015年にテレビ記者の男性からドラッグを飲まされ、レイプされたとして、その男性を告発している。

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伊藤詩織さん(ジャーナリスト): 私はたくさんの脅迫を受けました。そして私は世間の人たちが私の顔を知っていることに気づきました。ネット上に家族の写真が晒されていました。そして私は友人や家族と一緒に外出すれば、彼らを危険にさらしてしまうことに気づきました。そのせいで日本で普通に暮らしていくことが難しくなりました。

捜査のなかで私に起こった最悪のこと、それは等身大の人形を使って、事件の再現をしなければならなかったことです。それは私にとって、セカンドレイプのようなものでした。私は床に寝そべらなければなりませんでした。捜査員たちは私の上に人形を置き、絶えず人形を動かしていました。そして、「こんな風でしたか?」「それともこうでしたか?」と私に尋ねました。捜査員たちはその様子を写真に撮り始めました。(了)

 

(動画)Malgré quelques voix isolées, le Japon peu concerné par "Me Too" - YouTube

「レイプの被害者であり、裁判所で侮辱される: シャネル・ミラーさんが証言する」Brut. フランス語動画翻訳

2021.10.21

彼女は報道で自分がレイプされたことを知った。加害者と裁判所で対面し、その場で侮辱された彼女は、アメリカでの象徴となった。シャネル・ミラーさんが証言する。

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(法廷で読み上げた声明文を読んで)あなたは私のことを知らない。でもあなたは私の中にいた。私たちが今ここにいるのはそのためだ。

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(字幕)これが、シャネル・ミラーさんが自分をレイプした男性…ブロック・ターナーに対して法廷で語りかけた中身である。そして、その場で加害者に対し有罪判決が下ったが、量刑は懲役6ヶ月でしかなかった。というのも、投獄の結果彼に及ぶ「重大な影響」を裁判官が心配したからだ。

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シャネル・ミラーさん: あなたは私の下着をはぎ取り、キャンディの包みを捨てるように投げ捨てた。そして、私の体内に指を入れた。これが、あなたの犯した過ちだ。

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(字幕)彼女はわれわれに、その夜起こった出来事を語ってくれた。

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シャネル・ミラーさん: スタンフォード大のパーティーに行きました。妹を連れて。妹は学生でした。私はすでに卒業していたので、おもしろいだろうと思いました。みんなで庭に出たのを覚えています。そこでものすごく不味いビールを飲みました。それが最後の記憶です。

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(字幕)彼女は翌朝、病院で目を覚ます。

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シャネル・ミラーさん: 照明のまぶしい部屋で目覚めました。両手には乾いた血が付いていました。刑事が近づいてきて、「われわれには、あなたが性的暴行を受けたと信じる理由がある」と言いました。私は、「人違いではないですか?私は化粧室に行かなくては」と答えました。そして私は化粧室に行き、気づきました。髪の毛に松葉がいくつも絡まっていて、それから自分が下着を身につけていないことに。

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(字幕)彼女は自身の被害の詳細を、報道で知ることになる。

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シャネル・ミラーさん:私はこのように思っていました。何かがうまくいっていないのに、誰も質問をしない。なぜなら誰も本当には知りたがっていないからという風に。そして、何か問題があれば、誰かが私にそのことを話してくれるだろうと思っていました。しかし10日後、朝の職場で自分の事件に関する記事を読み、そこでネクタイを締めてほほ笑む加害者の顔を目にしたのです。記事が説明するところによると、加害者はゴミ収集車の後ろで、半裸で意識を失った女性と一緒に寝そべっているところを発見されたそうです。二人のスエーデン人学生が自転車で通りかかり、事件を目撃し自転車を止めました。加害者は逃げようとしましたが、二人は加害者を追い、タックルをし、加害者を取り押さえました。そして警察が到着し、私は病院に運ばれました。

しばらくのあいだ私はただ、「酔っ払って意識を失った女性」としてだけ世間に知られていました。一方加害者は、「アメリカ代表」のアスリートとして描写されていました。マスコミは加害者の高校の元水泳コーチの男性に質問をしました。元コーチの男性は、加害者がいかに才能に恵まれていたか説明し、彼のことを褒めちぎっていました。

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(字幕)1年半のあいだ、事件は裁判で争われることとなった。公判中、彼女はエミリー・ドーの仮名で呼ばれた。

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シャネル・ミラーさん:裁判のあいだ、彼らからは普段からパーティーによく参加していたのか、どんな男性と付き合ってきたのか、今まで何回酔って記憶をなくしたことがあったかと訊かれました。彼らは私がこう言われることを望んでいたのだと思いました。「過去にもお酒を飲みすぎたことが何度もあったんですね」と。そして「いけませんね!」と私が指弾されることを。実際、彼らは私の過去についていくつも質問できたでしょう。しかし、私の返答のなかで、加害者側がその夜起こった出来事を正当化できるものは一つもありませんでした。また、私にはわかっています。もし私がその夜外出せず、読書するために自宅に留まっていたら、加害者は他の女性を襲っていただろうことを。

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(字幕)裁判のあいだ、被害について何度も繰り返し思い出さされることは、彼女の心に傷を与えた…

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シャネル・ミラーさん:眠ることができなくなりました。そして自分の身体を耐えがたく感じました。とめどなく涙が流れました。金属製のスプーンを冷蔵庫で冷やしておき、そして、冷やしたスプーンを泣き腫れたまぶたの上に置き、翌朝仕事に行けるように腫れを引かせなければなりませんでした。

裁判所では彼は当然、家族もチームもいる人として見られ、あたかも彼の裕福で刺激的な生活が裁判によって奪われているかのようでした。裁判の目的は、彼を日常生活の中にできるだけ早くもどすことでした。一方彼らにとって、私には生活などなく、単にその夜現れた肉体でしかない存在、単なるモノでしかなかったのです。彼らは病院で撮られた私の裸の写真を見ていました。そして無関心な様子で、写真について話していました。私が目の前にいるにもかかわらず。私は自分の尊厳を守るために闘わなければなりませんでした。

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(字幕)弁護士は彼女に、裁判所での判決の際に読むための声明文を書くよう勧めた。

以下は、加害者に向けて彼女が実際に読み上げた声明文である。

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シャネル・ミラーさん:あなたの受けた損害は具体的なもの。あなたはタイトルを、卒業証書を、そして大学での地位を失った。私の受けた損害は内的なもの、目に見えないもの。私はそれらの損害を、自分の中に抱えている。あなたは私から奪った。価値を、プライヴァシーを、エネルギーを、時間を、安全を、内面を、自信を、そして声を。

声明文を読み終わると、裁判官がこう告げました。「すばらしい、みなさんお越しいただきありがとうございます。判決は6ヶ月の刑になるでしょう」

この瞬間のために私たちは1年半ものあいだ闘ってきたのに…、これで一件落着とされてしまったのです。判決を聞いてすぐ、自分が強く侮辱されたと感じました。

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(字幕)懲役6年が求刑されていたが、ブロック・ターナーは懲役6ヶ月、保護観察3年の判決を受けた。しかし、彼は結局3ヶ月の刑に服しただけで釈放され、輿論の怒りが再燃した。

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シャネル・ミラーさん:言葉が解き放たれ、オープンに話されるようになりました。しかしそれは私たちを部分的にしか守ってくれません。システムに関していうと、私たちのことは聞き入れてもらえませんし、ケアーもしてもらえません。

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(字幕)2019年、彼女は自伝的な著書『私には名前がある』の中で素性を明かした。

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シャネル・ミラーさん: 私は当初、自分がこの事件の当事者であることを誰かに気づかれてしまったら、私のキャリアは終わるだろうと考えていました。私は子供たちのための本を書きたかったのですが、この事件のせいで至る所で自分のことを拒否されるだろうと思っていました。でもそれから、一般の人たちから手紙や、彼らの子どもや娘たちの写真が届くようになりました。「この子があなたのように育ちますように」と言って。そして私は、自分がただこの事件の被害者として見られているのではなく、勇気、復元する力、率直に話すことといったいくつもの特性を具現化する存在として見られていることに気づいたのです。そのようにして私は気づいたのです。事件によって決して私のアイデンティティが奪われるわけではないだろうと。それはすべてのサバイバーたちにとっても同じことです。私たちは、他人からの暴力というたった一つの出来事だけにとどまるには、あまりにも多くのもの、物語、特性を持ちすぎているのです。(了)

 

(動画)

www.brut.media

伊藤詩織さんロングインタヴュー「出る杭」TEMPURA MAGAZINE Vol.4 2020年冬号 フランス語記事翻訳

聞き手 Emil Pacha Valencia

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©Kentaro Takahashi

「一時間だけなら!」

伊藤詩織さんは多忙だ。#MeToo ムーヴメントの中心的人物となった彼女だが、なにしろ彼女は、メディアでの発言や進行中の複数の訴訟、そしてドキュメンタリー映像作家としての仕事を同時にこなしているのだから。2015年に彼女が受けたレイプ被害は、結局2019年に司法によって認められたが、その事件の余波が今も存在する。しかし、彼女はもう隠れないことにした。
彼女は私たちに一時間だけ時間を割いてくれることになった。セクシャリティについて、有害な男らしさについて、来るべき社会の変化について、そして今後さらに為されるべき仕事について語るために。

「でもインタヴューはキックボクシングの練習の後でお願いします」

言ったように、彼女は多忙だ。
               *

 

-伊藤さんは2017年に被害を公表されましたが、それは偶然にもヨーロッパやアメリカで#MeTooが起こった時期と一致していました。そしてあなたの告発は、日本の女性たちの置かれている状況に、新しい光を投げかけるものでした。この3年間で、状況は変わったのでしょうか?

状況は変化したと思います。特にメディアの中では。私は#MeTooが世界中で広がり始める数ヶ月前に声を上げました。日本では当時、状況は進展しておらず、新聞も性暴力事件や差別の問題を、まったく取り上げていませんでした…。しかし、現在では次第に記者たちもこれらの問題を大きく取り上げようとし、この問題についての議論を生み出そうとしています。
特に昨年(2019年)以来、女性たちが沈黙を破り始め、フラワーデモを始めた女性たちもいます。これは今まで想像もしなかったものです。これまで日本にはこのようなデモは存在しなかったのですから。また、日本の女性たちが自分たちの受けた性暴力について話すために街頭で声を上げるということも、日本ではこれまでなかったことです。この集まりのことを、みな「デモ」と呼んでいますが、私はこの集まりを、デモというよりはむしろ、一種のグループセラピーのようなものだと思っています。なぜなら私たちにはこの話を共有する場所がなく、自分たちの話を聴いてくれる人を見つけるのは、とても難しいことだからです。ですからそうですね、人々は声を上げ始め、メディアもその声を聴き始めたといえます。しかし、これは最初の一歩でしかありません。

-次の一歩は法律制定に関するものですか?

日本のレイプに関する法律は1907年に遡り、これは日本が極めて家父長制的な国で、女性たちに発言権のない時代に制定されたものです。それから110年後の2017年にこの法律は改正されましたが、それは不十分なものでした。今では男性のレイプ被害も認められるようになりました。それまでは、男性がレイプの被害に遭うことは想定されていませんでした。今回の改正ではその点が改められました。 しかし、これは非常に重要な問題なのですが、同意の問題については(改正された法律でも)言及されていませんでした。そして実際においては、いくつもの(不当な)判決により、法律を変えるための運動が引き起こされました。その最初のものは、父親が19歳の実の娘を小学生の頃からレイプしていた事件に関するものです。裁判官たちは、被害者が十分に抵抗しなかったとみなしたのです…。想像できますか?この事件では一審で父親に無罪判決が下り、特にSNS上で憤りの波が起こりました。結局、高裁は父親の有罪性を認めました。そして、この判決は判例となるはずです。フラワーデモと#MeToo、そして日々活動を続けるこれらすべてのグループの影響で、立法者は同意の問題の見直しを検討しています。そして初めて、法改正検討会のメンバーに女性たちが選ばれたのです。ですからそうです、状況は変化しています。そして問題がより目に見える形となった今、私たちはもうそれを、見て見ぬふりすることはできません。

-つまり、どちらかといえば大衆や活動家たちの側から変化はもたらされているようなのですね。しかし、彼らは政治的、制度的なレヴェルで支援を受けることができているのでしょうか?

残念なことに、与党からの支援はありません。どちらかというと与党は保守的ですから。また残念なのは、レイプや性差別の問題は政治的な問題ではないとみなされることです。これは、左派あるいは右派の協議事項についての話ではありません。これは人間の尊厳の問題なのです。つまり誰もが暴力を受けたくないと思っており、政治方針など問題ではないのです。この問題を党派を超えて、より水平的な仕方で議論してもらえたらと思います。しかし、問題は構造的なものです。日本はまだ非常に家父長制的な、そしてタテ社会の国のままです。麻痺しているのはピラミッドの頂点ではなく、むしろその全体なのです。そしてこの家父長制は、学校、メディア、そして家族といったあらゆる場所に根を張っています…。ですから、単に法律を変えたり、新しい国会議員を選んだりすればいいということではありません。つまり、この構造を打ち破るために、教育に関してなされるべき大きな仕事が残されているということです。

-それはつまり、主に学校で行われる教育的な仕事ということですね。

一つ例を挙げます。日本の教育指導要領には、教師が出産について教える際には、受精についての段階から教えなければならないことが、はっきりと書かれています…。そして、その出産についての教育は、10歳以前にはなされません。つまりそれは、受精の前に何が起こるかについては話されず、また、性や妊娠の問題には一度も言及されず、そしてそのせいで多くの子供たちが、性教育についての大きな知識の如を抱えたまま中学生になることを意味しています。この中学生の年齢というのが、まさに彼らが自分たちの性を発見し始める年頃であるにもかかわらずです。もちろん、この年頃の性的行動は賢く、よく考えられた仕方で導かれなければならないものです。しかし反対に、この問題にふたをし、タブー視してしまうことは、解決にはなりません。性行為について話さないで、どうして例えば、同意や性欲の概念について理解することができるでしょうか?また全く単純に、性病による危険性についてや、性病を防ぐためにコンドームの正しい使い方を知るといった概念を理解できるでしょうか?というのも、性教育とは単に性行為についてだけではなく、男女間の関係、尊敬、共感、そしてお互いの違いを理解することを学ぶものだからです。要するに、それは私たちの人間性の本質に当たるものなのです。私たちが子供の頃には、単に「気をつける」ように言われるだけでした。それはまるで少し、性的行動が何か危険をもたらすかのような言い方でした。また、学校で性教育を受ける際に、男子と女子とで別々の部屋に分けられたのを覚えています…。このような条件下で、性が相互補足的な、そして対立のない形で構築されることを、どうして理解することができるでしょうか?日本ではこの点に関して、いくつもの大きな欠陥があります。そして、違うことを試みる教師たちは指弾されます。

-戦線を動かすために、行動を起こす団体はあるのですか?

ええ、いくつかの団体が、自分たちの声を聞いてもらうことを始めています。特に、学校に性教育ジェンダーに関する本を贈ることによってです。また最近、一人の大学生が、イラスト入りの性教育教材を印刷したトイレットペーパーの製作の提案をする、スタートアップを開始しました。これらの小さな率先行動は必要なものですが、残念ながら十分ではありません。本当の変化が起きるためには、共同体や家族が性について教え、性教育をタブーにしないという気持ちを持たなければなりません。しかし、日本はまだそのような段階にはありません。

-先ほどあなたは、これらの性教育の面での欠如が、特に性的同意の認識に関しての重大な結果をもたらす可能性があるとおっしゃいましたね。

私は、この適切な性教育を受けていない世代に属しています。2015年にレイプの被害に遭ったとき、私はそのことにどう対処したらいいかわかりませんでした。私はその頃、作家の松野青子さんについての記事を執筆していました。特に家父長制と、日本で「おじさん」と呼ばれるものを扱った彼女の本についての記事です。この「おじさん」というのは、訳すのが難しい用語です。というのも、これは特に、年齢区分に必然的に関わりのあるものではなく、むしろメンタリティや文化に関わりのあるものだからです。この青野さんの本は、とても読むのがつらいものです。なぜなら、もしあなたが日本で生活する女性だったら、あなたが日本で生き延びるためには、この性差別的で家父長制的な文化から逃れようと試みるしかないことを、この本はあなたに気付かせるからです。レイプの被害に遭う以前にも、私は電車内やプールで性的攻撃の被害に遭っていました。しかしその当時は、誰も私たちに被害届を出しに行くべきだなどとは言ってくれませんでした。なぜなら、被害届を出すためには学校を休まなければならないし、それからどうせ、警察も何もしてくれないだろうと…。そのようなメンタリティは、日常の中に根を下ろしているもの、「普通」のものでした。そして私たちはトラウマを抱えながらも、笑顔で前に進まなければなりませんでした。したがって私はこの「沈黙は普通のこと」というメンタリティをすっかり取り込んでおり、そのメンタリティは、レイプの被害に遭ったときにも、私の中に奥深く根付いていました。そのためレイプの被害に遭ったあと、「しょせんこの業界なんてこんなものか。でも、これからどうしたらいいの?」と自分の中で考えてしまっている部分もあったほどでした。最終的に私は沈黙しないことを選び、今度は性暴力を見逃さないことにしました。しかし、多くの女性たちがそのことを感じたのは確かです。

-伊藤さんは沈黙を守ることよりも、むしろ行動することを選ばれたのですが、何があなたをそうさせたのですか?

海外での経験が、自分の国を違う視点で見つめさせてくれたのだと思います。そしてその海外での経験のおかげで、他の可能性があることに気づくことができたのだと思います。しかし、子供の頃から日本だけで暮らしていたら、このシステムの中で身動きが取れず、そのためまったく単純に、沈黙するのは普通のことだと結論付けてしまっていたと思います。私は他の人よりも強くなどありません。ただ私は、運良く他のコンテクストに直面することができただけです。そのコンテクストとは、地下鉄内で何も言わず無抵抗で痴漢に遭うのは当然のことではないこと、そしてもちろん、少女がビキニを着ているからといって、公共プールで男性から体を撫で回されるのは当然のことというわけではないというコンテクストです。

-あなたが声を上げた後、たくさんの女性たちが、今度は自分たちが声を上げる番だという力を与えられています。メディアではあなたは常に#MeTooムーヴメントと結びつけて語られ、最近ではタイム誌の世界で最も影響力のある100人に選ばれました。そこで今日、一種の責任のようなものを感じていらっしゃいますか?

私は#MeTooのラベルを貼られましたが、実は私自身は一度もこの言葉を使っていません。私の名前に、たくさんのラベルが貼られました…。しかし、人によってそれぞれ事情は異なると思います。私がこのような行動を取ったからといって、必ずしも私と同じように行動しなければならないとは限りませんし、このような闘いを始めなければならないとは限りません。また私は、自分のように行動することを勧めたくないとさえ思っています。それはとてもつらく、暴力的なことだったからです。最も大切なのは、行動指針を決めることではなく、それよりもむしろ、各人が自分の生き延びる方法を見つけることだと思います。ある人にとって、その方法とは悲しみに暮れることかもしれませんし、またある人にとっては闘うことかもしれません。裁判の後、その判例が将来のケースに影響を持つかもしれません。ですからそうですね、私は気をつけなければなりません。それは一種の責任のようなものです。たとえ、時にはただ叫びたくなったり、胸につかえているものを表現したいと思うことがあるとしても。

-声を上げるのはとてもつらいことだったとおっしゃいますが、あなたはそのことを後悔されているのですか?

そうは思いません。それが私の生き延びる方法でした。しかし、周囲の人たちからのたくさんの圧力を感じていました。特に訴訟を始めたときには。長い間、私は自分の言葉や発言の一つ一つをコントロールしなければなりませんでした。そして何か発言をする度に、脅迫や侮辱の言葉を受け取っていました…。そのせいで、帽子とサングラスなしで外出することさえ怖くなりました。しかしある時、私は単純に以前のように自分らしく生活し、もう変装はやめようと決めました。そしてもしかすると、単純に自分らしく生きることが、もう自分にどんなラベルも貼られないことにつながるのかもしれないと思っています。

-ときにはあなたは朝鮮人だと言われたことさえありました…。

それは侮辱としてまったくナンセンスです!私は今ちょうど川崎から戻ってきたところです。川崎では在日朝鮮人に対するヘイトデモが行われています。2020年のこの時代にもまだこのようなデモが組織されていることが、私には理解できません。それは教育が欠けている結果だと私には思えます。ドイツと違って、私たちは世界大戦後の歴史教育が徹底されていません。そして、日本で増大するネット右翼の数が、そのことを証拠立てています。嘘が大きく拡散されれば、ー私に関する事実でない情報も数多くありましたがー 最後には疑念が生み出されます。そして疑念の蓄積は、代替的事実を生み出します。それがフェイクニュースの作用の仕方です。私たちは情報が操作されうる時代、そして事実が簡単に矛盾してしまう時代に生きています。これは恐ろしいことです。

-最近、杉田水脈議員(原注 自民党の議員)が、レイプの問題に関連して、「女性はいくらでもウソをつくことができる」と発言しました。伊藤さんは女性たちから、声を上げたことに対して多くの批判を受けたのでしょうか?

私が本を出したとき、それは#MeTooムーヴメントの真っ只中のことでしたが、最初に受け取ったのが、ある女性からのEメイルでした。それは、私の働きかけを批判する内容のものでした。ショックでした。また私は、今もまだ同じようなメッセージを受け取っています。BBC放送のインタヴューで、杉田水脈さんは、女性として男性社会の中で苦労を味わったことを語っています。質問に答える前に、彼女は長い間を取りました…。それは、見るのがとてもつらい瞬間でした。なぜなら私は知っているからです。彼女が経験したこと、そして彼女が感じたことを。しかし彼女は、違う生き延びる方法を選択しました。そして、彼女は自分自身が作り上げた、そのような人物になったのです。ですから私は、ある意味では理解できます。家父長制的構造はとても強固で、女性たちは、その構造を自分たちの中に取り入れています。そしてそうすることが、彼女たちの生き延びる方法なのです。また、妹が高校を卒業するときにこう言ったのを覚えています。「なんてこと、これで私は女子高校生の純真さを失ってしまうんだ」と。妹が、自分の最良の時代が自分の後ろにあると考えていることに、私はショックを受けました!女らしさはこの少しかわいく無邪気な青春時代によって定義されることや、女らしさは20歳を過ぎれば必然的に失われてしまうという考えを彼女たちは吹き込まれています。そして、そのような考えを彼女たちに吹き込んでいるのは、メディアなのです。そのことは、数え切れないほど多くの女性誌が「モテ」という用語を使っているのを見ればわかります。この用語は「魅力的な、気を引く」と訳すことができるのですが、私はこの用語を見ると、鳥肌が立ってしまいます。「モテファッション」、「モテメイク」というものまであります…。そしてこれらの雑誌は、若い女性たちがモテるためにはどのように振る舞い、オシャレをし、化粧をすればいいかを、彼女たちに教えているつもりでいます。そしてこれらの雑誌が、私たち女性の体に賞味期限を付すことによって、私たちの体の価値を決めているのです。最近ある有名雑誌が、今後はこの「モテ」という言葉を使わない立場を取りました。これは一つの進歩です。

-この永遠の青春、処女性、無邪気さといったものも、たとえばAKB48のようなアイドルグループが褒め称えているものではないのですか?

もちろんです!しかし誰がこのようなアイドルグループを生み出したのでしょうか?私にはわからないので、ここでは男性たちだということしかできません。プロデューサーの秋元康さんが、グループの歌詞のほとんどを作詞しています。62歳の彼はそのようにして、処女性をどう生きるか、女の子たちが攻撃を受けながらもどのように前進するかといったことを説明しています。AKB48と同じような人気グループが若い女の子たちの世代に対して持つ影響力に、彼は気づいているのでしょうか?彼が最初にプロデュースした1980年代のグループ、おニャン子クラブに、「セーラー服を脱がさないで」というヒット曲があります。歌詞は女子高校生たちの処女性にまつわるもので、処女をどうあっても守ることと、年をとりすぎる前に処女を捧げたいという思いとの間の、いわゆる葛藤を描いたもので、聴いていて怖くなるような歌です。ところでつい最近、AKB48が、元おニャン子クラブのメンバーと共演し、一緒にこの歌を歌ったのです。歌詞よりもさらにショックだったのは、「こんな歌を歌ってはいけないでしょう」と声をあげる人が誰もいなかったことです。こうしてお話ししている今もなお、この信じられない曲が、日本中のラジオから流れているのです。

-家父長制的構造の変化は、日本での「男らしさ」の変化を前提としているように思われますが、伊藤さんはこの変化が若い世代の男性たちによってもたらされるとお考えですか?

状況は少しづつ変化しています。しかし、ある構造について話をしましょう。先日私は、大学生たちの前で講演をしました。そしてそのうちの多くの学生がどれほど保守的であるかを目の当りにして、ショックを受けました。しかし、この構造の中にきっと組み込まれるに違いないのは、そのように保守的な学生たちなのです!あなたが会社で働いていると仮定しましょう。あなたはその会社の中でなんとか振る舞うことを期待され、ある種の考えを共有し、そしてある種の振る舞いを自分のものとして取り入れることを期待されます…。そして生き延びるために、あなたは最後には、システムにとって不可欠なパーツの一つとなってしまうのです。さもなければ、あなたはシステムによって排除されてしまいます。あなたはこの有害な男らしさを取り入れなければなりません。そうしてあなたは、このシステムの再生産に加わることになるのです。要するに、男性たちにとって好都合な、このシステムの再生産にです。ですから、構造を打破するには一世代だけでは不十分だと思います。

-セクシャリティの問題に戻りたいのですが、あなたが声を上げたときに、性について、つまりプライヴェートなもので、タブーである性についてあなたが話したことに、多くの人たちが衝撃を受けました。このことは、性産業が同じく重要で目に見える形で存在する日本で、逆説的な現象に思われるのですが。

なぜなら性産業は男性たちの視点から作り上げられているからです!それは決して女性たちの視点からは作られていません。女性たちの視点は常に無視されていたのです。しかしそれは、今に始まったことではありません。二十世紀初めの女性作家で、日本で初めての女性による文藝誌を創刊した、平塚らいてうという作家がいます。彼女は妊娠中絶や女性の権利、そして男女不平等についての文章を、数多く書いています。しかし悲しいことに、その当時から現在もあまり状況が変わっていないのを認めざるを得ません。つまり、女性たちは自分のセクシャリティを恥じ、そして男性たちに服従しているものとみなされているのです。つまり、同意の下に行われる性行為の際に女性が「やめて」と言うのは普通のことであり、珍しくもなく、さらには同意のある性行為の際に「いや」と言うことが、女性には期待されてもいるのです。そしてそれは日本のポルノが前面に押し出していることであり、多くの若い子たちが、適切な性教育を受けていないために、ポルノによってセックスを学んでいるのです。私はつきあった男性には自分の性生活や生理について、そして体の変化について話します。もっとも、ときにはそのことで相手がショックを受けることもありますし、私が相手の無知や性差別に気付いた時には、そのことでケンカになることもあります。それでも私は、このようにお互い教えあうべきだと思います。私の友人にも、彼らが既得権と取り違えているこの家父長制システムというとりもちに捉えられ、身動きが取れなくなってしまっている男性たちがいます。そして、そのことに気づくたびに私はいつも驚いています。

-性暴力被害者たちへの支援に関して、法律や行政のレヴェルで、何か改善された点はありますか?

どちらとも言えません。告訴を望みながらも、警察から追い返される女性たちの話をいまだに耳にします。それでも、以前はレイプは親告罪でしたが、2017年からはそうではなくなりました。またついに、すべての都道府県に性暴力の受け入れセンターが作られました。以前は、すべての都道府県にこのようなセンターがあるわけではありませんでした。モーニングアフターピルに関しても、ピルを薬局で自由に手に入れられるようにするための大きな動きが、ネット上で起りました。というのも、現状では、モーニングアフターピルを手に入れるためには医師の処方箋が必要で、個人情報や、ピルを必要とする理由を提示しなければならないからです。その上、価格も非常に高く、このようなことすべてが、多くの若い女性たちの前に大きな壁として立ちはだかっているのです。ところで、ご存知ですか?日本医師会が-医師会はほぼ男性のみで構成されているのですが-モーニングアフターピルの自由化に反対したことを。信じられますか?中絶の苦しみも、望まない妊娠の苦しみも決して味わうことのない男性たちが反対しているのです。それはさらに、女性の体についてのコントロールを残す方法でもあります。

-チカンの問題が時折ニュースになります。加害者は性的な幻想よりも、相手を支配するため、主張するため、さらに先ほどの話にあったように、女性の体をコントロールするために犯行に及ぶのだとあなたはおっしゃいます。

チカンの加害者たちに、どのようにその標的を選んでいるかを尋ねる、匿名でのアンケートが実施されました。そこでは彼らが、「純情そうな」、「弱々しい様子の」、「自信のなさそうに歩いている」女の子を犯行の対象に選んでいることがわかっています…。最近私は、痴漢行為をする人たちの治療に当たっている男性精神科医を取材しました。そしてその時に、痴漢行為をする人たちは、特に自分たちが会社などで、ある種の克服しがたい支配関係に直面した日に痴漢行為をしているという説明を受けました。もっとも、具体的にどのような支配関係に直面したのか、その男性たちは答えることができませんでしたが。例えばそれは、雇い主や同僚からの支配だったのか…。

-それはつまり、支配の連鎖ということですか?

そう思います。しかし結局、話は性教育の問題に戻ります。自分がどのような人間かを知り、その自分を受け入れるという問題にです。

-もしそれでも今、あなたにラベルを付さなければならないとしたら、それは「活動家」ですか?それとも「ジャーナリスト」ですか?

今朝、私はカフェで仕事をしていました。そこで目の前を通り過ぎていく人たちがみなグレーや黒の同じようなスーツを着ているのを見て、気が滅入りました…。日本語には「出る杭は打たれる」という言い回しがあります。私たちは集団に従い、命令を聞き、世間に波風を立てないようしなければならないと教育され、そして自分を定義するために、必ず自分を型枠にはめ込まなければなりません。しかし、私にはこの概念が受け入れられません。私は伊藤詩織です。私は物語の語り手です。ところで、私はこう思うんです。私は多くの批判を受けましたし、多くの嫌悪を引き起こしましたが、それは、私が誰も話さないだろうことを敢えて話し、自分の個性を発揮することで、型枠にはめ込まれないことを決めたからなのだと。しかし、幸運なことに、私はこのムーヴメントの中で一人ではありません。私はこのムーヴメントに火をつけた、他にも数多く存在する火花のうちの、ひとつにすぎないのです。(了)

「伊藤詩織さんはレイプの被害に遭った女性たちのために声を上げた」Pen international

TEXT by Clémence Leleu 2020.10.20

一人称で書かれた『Black Box』のなかで、ジャーナリストである彼女は、日本での性暴力被害者たちの扱いを問い質している。

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©Philippe Picquier

物語は明快で正確なもので、ほとんど外科的といってもいいほどだ。ここに書かれているのは、忘れてしまわないため、そして特に他の人たちが自分と同じ目にあわないために、 著作の中で思い出され、一つにつなぎ合わされ、記録されたいくつもの事実である。

2015年4月3日、ジャーナリストの伊藤詩織さんはホテルの一室で意識を取り戻す。日本のテレビ局TBSの局長、山口敬之から暴行を加えられている最中だった。彼女はその数時間前に、安倍晋三首相の伝記作家でもある山口氏と、ニューヨークでの仕事のポストの取得の方法について話し合うために、レストランで落ち合ったのだった。

2年後、当時28歳の伊藤詩織さんは、著書『Black Box』を出版する。この著作はPicquier社より、フランス語訳が刊行されている。この話は3ヶ月で書き上げられ、この本を書くことは、著者の伊藤詩織さんにとってカタルシス(同種療法)となるもので、著作の中では状況がてきぱきと示された後、レイプ被害に至るまでの一連の出来事が語られている。そしてこの話は、日本での性暴力被害者たちの扱われ方についての、総合的な熟考を示している。

ほかの女性たちのための道を開くこと

伊藤詩織さんは、著書の冒頭で予めこう告げている。
「起こってしまったことは、この本の主題ではない。私が話したいのは未来について、これ以上ほかの被害者が出ないよう取るべき措置について、そして、性暴力の被害者たちが助けを得ることができるように取るべき方法についてだ。私が過去について話すとしたら、それは単に未来について考えるためにすぎない」
というのも伊藤詩織さんは、レイプの被害に遭ったあと、無関心や、さらに支援センター、警察、病院、そしてメディアからの不誠実な対応に直面することになるからだ…。そしてその各所で出会った誰もから、告訴をすれば彼女のキャリアが台無しになると何度も繰り返し言われた。このようなことが彼女を、一人きりで事件の証拠収集に身を投じる状況へと追いやった。
「密室で起こった出来事は第三者には知りようがないと繰り返し聞かされた。検察官はこの状況をブラックボックスと形容した」

変化の兆し

数ヶ月にわたる猛烈な仕事の末、伊藤詩織さんは山口敬之に対する逮捕状を得る。山口氏は滞在中のニューヨークから日本に帰国した際に逮捕されることになっていた。しかし、上層部からの指示で、逮捕は中断されてしまう。
逮捕状が取り消されたあと、この事件は刑事事件では不起訴となったが、伊藤詩織さんは民事での訴訟を起こした。そして2019年12月、東京地裁は山口敬之に対して、330万円の賠償金の支払いを命じる判決を下した。現在ロンドンに住み、その地でドキュメンタリー制作会社を設立した伊藤詩織さんは、レイプの被害に遭った日本の女性たちの、社会でのよりよい受け入れのために闘いを続けている。イギリスのBBC放送は、彼女の話をもとにしたドキュメンタリー番組『暴かれた日本の恥部』を制作し、この番組は2018年に放送された。

伊藤詩織さんの『Black Box』フランス語版(2019年)は、Picquier社より出版されている。(了)

pen-online.com

ミニスカート姿の女子高校生たち 日本の女性尊重の不正確な象徴 Le Monde紙

フェイスブックへのある投稿記事が大きく拡散され、そのことが、あたかも日本が女子高校生たちにとっての自由のモデル国であるかのような錯覚を引き起こしている。この服装が、あらゆる性産業を肥え太らせているというのに。
TEXT by William Audureau 2020.10.13

9月の新学期の始まりに起こった、「クロップ・トップ(へそ出しシャツ)」の問題(訳注: 2020年9月初め、フランス南西部の町の二つの高等学校が、へそ出しシャツやミニスカートを禁止するかのようなポスターを貼りだした。これに反対して、9月14日には多くの女子高校生たちがクロップ・トップやミニスカートを身に着けて登校した)。
幾人かの学校長たちから下品であると判断された、この女性用トップスについての問題をからかうために、ある男性インターネット利用者が、ミニスカート姿の女子高校生の写真を投稿した。日本では若い女性たちが、誘惑的すぎるとみなされるだろう服装をしていても、彼女たちはまったく安全であることを示すために。その男性は、写真に次のようなコメントを付けて投稿した。(参照1)「これが日本の女子高校生たちの制服。日本はこの若い女性たちのレイプをそそのかすような馬鹿な国なのだろうか?俺はそうは思わない。なぜなら全く単純に、日本では短いスカートはレイプの理由となる服装ではないからで、日本人は女性を敬っているからだ」

この投稿は大きな成功を収め、何千ものコメントを集め、何千回もシェアされた。しかし残念なことに、日本についてこの投稿によって指摘されたと思い込まれている事柄は、実際には現実と一致していない。

なぜこれが不正確な反例なのか?

事実、日本はこの投稿文が暗示するような、女性の立場尊重の聖地ではない。

いくつかのサイトで流布した一枚の写真

最初の問題、それは非常に皮肉なものだ。つまりこの写真は、何年も前からいくつかの偏向的なサイトで流布していたのである。本紙は、その足跡を遡ることができる。この写真は、2014年に日本の代替従業員のブログに掲載された。このブログでは、卑猥な写真の中に、テレビゲームの画像から、女子高校生たちの写真のコレクションまでが含まれていた。したがって、日本では制服のスカートに性的な意味を付与することが存在しないわけでは、まったくない。
リヨン第3大学日本学科のJulien Bouvard准教授は、こう言い切る。
「「スカートは性欲を起こさせない中性的な制服で、男性たちの視線に何も思い浮かばせない。なぜならスカートはユニフォームだろうから」というのは、まったくの嘘です。日本にも変質者たちがいますし、ポルノもあります。そしてポルノでは、女子高校生たちの制服が頻繁に扱われています」

日本の、女子高校生たちを性欲の対象化する伝統

ミニスカート姿の女子高校生たちをフェティシシズムの対象化することは、1970年代以来、ポルノグラフィの目録の中で、非常に古典的でありきたりなものでさえある。そしてこの幻想は、制服姿の女子高校生の売春を意味する、「JKビジネス」という産業を生み出した。Nippon.com(参照1)に引用された、東京都の警察の調査によると、2016年には174人の周旋屋が、制服姿の未成年者との料金制デートを客に勧めていたという。
この現象は大きく広がっており、そこで、女子高校生たちを守るための、いくつもの注意喚起キャンペーンが展開された。
「彼女たちが、欲望や極端な性的意味の付与の対象、そして痴漢の的となっていることに皆が気づいています」とJulien Bouvard准教授は強調する。

投稿写真に写っているのとは反対に、女子高校生たちのスカートの丈はもっと長く、多くの場合、脚の下の方まで覆われている。さらに盗撮に対抗するため、日本のスマートフォンは、シャッターを押すときに非常に目立つ音が出るように作られている。マナーモードのときでさえである。
日本文化の専門家であるBouvard准教授は、語気を和らげながらも、最近の“Male gaze”(男性の女性へのまなざし)の後退を指摘する。この、男性の好色な視線は、数多くの文化的創作物に彩りを与えているものだ。
「およそ10年前には、マンガの中では、若い女性たち、若いといっても10代の女性たちですが、そのような女性たちに寄りかかったあけすけな表現が、非常に多く見られたものでした。しかし、現在ではそのような表現はもうできません」

大きな慎重さを持って扱うべき、レイプに関する統計

このフェイスブックへの投稿は、日本では特に女性たちは安全であるだろうことをほのめかしている。特に、性暴力に関しては。日本の公式な数字が、日本が先進国の中で性暴力の発生件数がもっとも少ない国の一つであることを表しているのは確かだ。国連薬物犯罪事務所の調査によると、2016年の人口10万人当たりのレイプの発生件数は、日本が5.6件。フランスが64.1件。そしてスエーデンが190.6件であった。
しかし、日本のこの統計は、明らかに現実を過小評価したものだ。
なぜならまず、日本ではフランスと比べてレイプの定義がより大きく制限されているからだ。例えば、最近まで性器への指や物の挿入はレイプの定義から除外されていた。被害者が驚いて抵抗できない状態や、被害者の無意識状態に付け込んで行われる性的行為が除外されていたのとまったく同じようにである。そして2017年の「ニューズウィーク日本版」の記事(参照2)によると、この日本の公的統計には、20倍の暗数があるだろうという。日本にはタブーの重圧が強く残っている。それだけに「日本では、#MeTooの後にフランスで起こったような、レイプの訴えの急激な増加はなかったのです」とJulien Bouvard準教授は付け加える。
もう一つの理由として、レイプの告訴に当たる警察システムの、構造的抵抗があげられる。プライベートな環境で起こるあらゆる暴力に対して、または証人がいない場合の事件に対して、自白に頼るしかない司法システム。このようなことが、司法の行き詰まりを際立たせている。

著書『Black Box』のなかで、自身のレイプ被害と、日本の司法システムの時代遅れな引っかかりを語った伊藤詩織さん。その伊藤詩織さんによると、警察に助けを求める被害者の割合はわづか4.3%で、被害の訴えの2件に1件しか捜査は行われないという。(了)

(参照1)

(参照2)

(参照3)

日本 亡霊のような家庭内暴力のパンデミックが起こるなか増加する「コロナ離婚」Amnesty International

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TEXT by Suki Chung, East Asia Campaigner at Amnesty International 2020.8.17 

このパンデミックは、すでに困難な状況にあった私の友人の結婚生活にとって、死の口づけとなった。暴力的で独裁的な彼女の夫が、コロナによる緊急事態宣言の出た4月と5月に在宅で働かなくてはならなかった際、彼女は神奈川県の住いで、夫と長い時間を過ごさなければならなかった。

「もういや」と彼女は泣きながら私に言った。彼女は家計の節約について夫と言い争いになった際、夫から脚と背中を蹴られたのだった。彼女は二人の関係を終わらせるための十分な勇気を持ち合わせてはいないが、次第に進む外出緩和措置が、社会と自分の家庭を再び普通の状態に戻してくれるだろうと考えていると語ってくれた。

しかし、普通とは一体何だろうか?

コロナ禍が起る以前、日本の家庭内暴力の被害者たちのための支援機関の数は、16年連続で増加していた。そしてその数は、2019年には最多に達していた。この数ヶ月間のパンデミックがあり、人々は自宅に閉じ込められ、より沢山の女性たちがこれらの支援機関に助けを求めて電話をした。

(日本では)2020年4月だけで、1万3千人以上の女性たちが、家庭内暴力の被害を通報した。この数は、前年の同時期の1.3倍に当る。しかし、家庭内暴力に関するあらゆる統計と同様に、おそらくこの数字は、実際に起こっている事件の数よりも、非常に少なく見積もられていることだろう。なぜなら日本の社会において、特に「家庭の問題」に対して助けを求めることは、常にタブーであるからだ。

日本の有名な男性俳優、坂本真が、家庭内暴力を振るった疑いで、2020年4月に拘留された。彼は、都内の自宅で妻とその母親を暴行したのだという。5月にはテレビで活躍するマーシャル・アーツの専門家、ボビー・オロゴンが、自宅で妻の顔を殴り、拘置所に入れられたことが、新聞各紙の一面で報じられた。暴行は、彼らの三人の子供たちの目の前で行われたようだ。
国連女性機関の行政ディレクターの女性は、この「幽霊パンデミック」のような、隔離による女性への家庭内暴力の、世界的な突然の増加を非難した。

今年に入って、世界中の数百万の女性たちが、家庭内暴力事件を通報している。アメリカで、そして日本や香港、韓国といったアジア地域で、ジェンダーの問題や、女性たちが直面している社会経済的な不平等と結びついた暴力が増加しており、この問題はコロナによってもたらされた重大な結果の中で、最も悲劇的なものの一つに数えられる。
私は香港に住んでいるが、女性のための地元の緊急コールにかけられた家庭内暴力に関する電話の数は、パンデミックが起こった当初(2020年1月から3月)と比べて、2倍に増加している。相談の70%以上が身体的暴力に関するもので、その他は主に、精神的暴力と言葉による暴力とが組み合わさった暴力に関するものだ。

4月に日本のソーシャル・ワーカーの男性が、ネット上で署名を公表した。そして3万人以上の人たちが、東京都知事に対して、住まいのない人たちや、コロナ禍で家庭内暴力から逃れてきた人たちのための緊急避難所の設置を求めた。

「コロナ離婚」という新しい用語が生まれた。この用語は現在、日本のSNS上で隔離中の離婚とカップル間の訴訟のピークについての話をするために、普通に使われている。
しかし、これらの離婚をコロナのせいだけにすることは出来ない。つまりパンデミックによって、私たちの社会での男女不平等の根本的な問題に光が当てられたのである。その問題とは、賃金格差、女性たちが政治的、社会経済的に弱い立場に置かれていること、そして、女性に対する有害な、文化的、社会的な型にはまった物の見方などである。たとえば女性や少女たちは、アメリカでの失業者の数がそのことを示しているように、今回の公衆衛生上の危機に最も関わりのある存在である。アメリカでは数百万人の女性たちが仕事を失っており、女性たちは男性たちよりも高い割合で失業している。
ここ数年東アジアでは、世界的ムーヴメントである#MeTooにより、女性の権利の擁護が再強化された。東アジアでのこのような動きは、自身の性暴力被害を、事件がメディアで報じられた際に公然と証言した韓国のソ・ジヒョンさんや、日本の伊藤詩織さんのような勇気ある女性たちとともに起こった。さらに地域での変化や、性差別や女性に対する暴力についてのより一層の会話を推進する、他の女性たちの例もある。
このような積極的な変化にもかかわらず、現在のコロナによる危機は、達成されるべき目標が山のように残っていることを、私たちに思い起こさせる。

多くの女性たちや少女たちが、指導し、助け合い、人々をより広い意味で支えるために手を取り合っているこのとき、各国の政府には、この不平等なシステムが最終的に取り替えられるように、女性たちを決定のためのプロセスの中心に置くための、より一層の措置を取る義務がある。

まだ新型コロナウィルスに対して有効なワクチンは見つかっていない。しかし、この「幽霊パンデミック」に対する解決策は明白だ。それはつまり、男女の平等は、私たち女性男性各人にとってより安全な未来という観念の、中心に据えられなければならないものだということだ。(了)

www.amnesty.org

「韓国でのポスト#MeTooのフェミニスムの闘い」Slateフランス版 東アジアの#MeToo特集その3

TEXT by Salomé Grouard 2020.7.28

耐え難いものとなった政治的停滞に対するフェミニストたちのデモが、ここ5年間で数多く見られるようになった。そのうちのひとつのデモは、7万人の女性たちを集めた。

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© Jung Yeon-je / AFP


2018年夏、韓国は、史上最大規模の女性たちの集会が開かれる事態に見舞われた。何万人もの女性たちが、隠しカメラの設置者たちに対する処罰が不十分である事を告発するため、4ヶ月に渡って集結した。この、「モルカ(モレ・カメラ(韓国語で「隠しカメラ」)の略語)」は、極小の隠しカメラで、公衆便所やホテル、そして試着室や更衣室、あるいは個人のアパートメントにも設置されていた。これは完全な違法行為であることに加え、撮影された内容は、有料(あるいは無料)のコミュニティーサイトで閲覧できるよう、ネットに流されていた。(2018年)8月、7万人近い女性たちが、「あたしの生活はあんたのポルノじゃない」のスローガンの下に集結した。

市民社会はこれまでも韓国において重要な位置を占めており、この隠しカメラ反対運動は、セクシャルハラスメントに関する最初の試みというわけではない。耐え難いものとなった社会的停滞に対するフェミニスムのデモが、ここ5年間で数多く見られるようになった。韓国女性国体連合(KWAU)の活動家、 Kyungjin Ohさんは、このようなデモは国のDNAの一部をなしていると説明する。
「韓国は日本による統治以来、社会運動の常連となっています。自分たちの基本的権利を得るために、指導者たちと戦わなければならないことを、私たちは知っているのです。フェミニスムとて例外ではありません」

2019年、韓国は世界経済フォーラムジェンダーギャップ指数において、153か国中108位に位置している。韓国はこのリストの最優等生というわけではまったくないが、それでも、2017年から10ほど順位を上げた。そして、これはおそらく、これらのフェミニスム運動の有効性の証なのである。韓国では「モルカ」に反対するデモに倣って、多くのデモが起こっている。しかし、ネット上でこのような運動が見出されることは、これらの女性たちにとってより衝撃的で、安心感を与えられることのようだ。若いフェミニストたちは、どのようにネット上で「性差別をひっくり返すか」を正確に知っていると、Kyungjin Ohさんは説明する。
その好例のひとつに、「Megalian.com」があげられる。このネットコミュニティーは、2015年に、男性同士の集団討議で発せられた、女性蔑視の侮蔑的な言葉にうんざりした女性たちの一団によって作られた。その目的は、自分たちの発した言葉がどれだけ暴力的なものなのかということを男性たちに示すために、彼らにそれと同じ類の性差別的な言葉を課すことである。全く驚くことではないが、「Megalian.com」はすぐに「急進的」とみなされ、コミュニティーのサイトは、13万筆以上を集めた署名運動が原因となって、2017年に閉鎖された。

次第に大きくなっていく運動

しかしそのことは、元「メガリアン」たちがネット上で活動を続けることの妨げとはならなかった。彼女たちはすぐに結果を得た。ソウル在住の25歳の女性、Eunseo Songさんはこう証言する。
「フェミニスムの問題は、Seo Ji-hyun(ソ・ジヒョン)さんが自身の性暴力被害を公然と告発した際の、公の議論の中に、全く立ち戻るのだということに気づきました」
MeTooムーヴメントが世界中で広がっていたころ、Seo Ji-hyun検事は、性暴力サバイバーたちの証言に、自身の証言をつけ加えた。彼女は、元法務大臣原文ママ 正しくは「元検事長」)のAhn Tae-geun(アン・テグン)を告発している。韓国では多くの女性たちが、彼女に一体化した。韓国では、性暴力被害を報告する女性の割合は22%で、その少なさにもかかわらず、国内で報告される性暴力事件の件数は、一時間当たり3.4件にのぼる。Seo Ji-hyunさんの勇気にもかかわらず、Ahn Tae-geun(アン・テグン)は職権乱用で有罪となっただけで、性的暴行では罪に問われていない。彼は1年間服役しただけで、保釈金を払い、釈放された。そして現在、訴訟を起こそうとしている。Seo Ji-hyunさんにとって闘いは続くが、彼女のおかげで沢山の法的、社会的変化が起こった。そして、彼女の行動がきっかけとなって生まれた諸法律により、多くの女性たちが、体制側を恐れることなく声を上げることが可能となった。

解放は進む

2019年には、数多くのフェミニスム運動が、その規模を広げた。「4B」と命名された、メガリアンたちの妹分のコミュニティーの場合がそうだ。このコミュニティーには、「Four No's」というコミュニティーも含まれている。この「Four No's」は、デートもセックスもしない、そして結婚せず、男性との間に子供も持たないという女性たちの集まりだ。このコミュニティーの賛同者の一人が、彼女のフラストレーションを説明してくれた。
「今日、女性にとって最も重要視されるのは、夫と嫁ぎ先の家族の世話をする能力のように思われます。私たちの経験、そして仕事や生活は重要視されないのです」
彼女はそうはっきり述べ、次のように付け加えた。
「結婚をするのに、女性である場合、より多くの不利があるのだといつも感じていました」
ハッシュタグ #escapethecorset (あるいは #탈코르셋)もまた、韓国を揺るがした。その目的は、韓国の美の基準から女性たちが解放される手助けをすることだ。SNS上でたくさんの女性たちが、デモのしるしとして、髪を短く切った写真や、破壊した化粧品の写真を投稿した。
この国では、容姿が重要性を持っている。その証拠として、韓国は人口一人当たりの形成外科の数が、世界で最も多い国に数えられる。そして、年間100万件以上の美容整形手術が行われており、19歳から29歳までの女性の3人に1人が整形手術を受けている。2020年には、国内では初となるフェミニスム政党ができるなど、これらの前進によって、多くの女性たちが苦痛から解放されているが、沢山の者たちがこれらの新しい躍動にたいして、強く反発している。

男女間戦争の恐れ

Eunseo Songさんは、韓国社会は、一部の人たちから急進的だとみなされている、「Megalian.com」や「4B」のような運動との釣り合いを見つけることが、なかなかできないでいると言う。
「もし私がフェミニストであることを告げたら、親友たちの反応は喜ばしいものではないでしょう…。韓国のフェミニスムは、「他の」国々の同種の運動よりも急進的とみなされます。そしてそれは、男女間の分裂を生み出す傾向があるのです」
近年、反フェミニスムの運動や党が発展した。「フェミニスムはテロリスムと同等に有害だ」とわめいて。そして、フェミニスムは男女平等の問題ではなく、男性たちに対する憎悪に満ちた暴力的な差別の一形態だとわめいて。リアルメーターの調査によると、20代の韓国人男性の76%、そして30代の韓国人男性の66%が、フェミニスムに反対しているという。
Kyungjin Ohさんは、男性たちがなぜこのような際立った反応を示すのかを知っていると考えている。それはつまり、この国の競争力と、増大する若者の失業率に関連している。
「高校生の70%が大学に進学します。一方では、優秀であることで差別を受け、うんざりしている女性たちがいて、他方では、女性たちを真剣なライヴァルとして見たことが一度もなく、今では女性たちを、就職市場で「自分たちの場所」を奪う存在としてみる男性たちがいます」
それでも彼女は自信を失っていない。目標に到達するには時間がかかるだろうが、彼女は知っているのだ、物事が正しい方向に進んでいることを。(了)

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