日本 亡霊のような家庭内暴力のパンデミックが起こるなか増加する「コロナ離婚」Amnesty International

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TEXT by Suki Chung, East Asia Campaigner at Amnesty International 2020.8.17 

このパンデミックは、すでに困難な状況にあった私の友人の結婚生活にとって、死の口づけとなった。暴力的で独裁的な彼女の夫が、コロナによる緊急事態宣言の出た4月と5月に在宅で働かなくてはならなかった際、彼女は神奈川県の住いで、夫と長い時間を過ごさなければならなかった。

「もういや」と彼女は泣きながら私に言った。彼女は家計の節約について夫と言い争いになった際、夫から脚と背中を蹴られたのだった。彼女は二人の関係を終わらせるための十分な勇気を持ち合わせてはいないが、次第に進む外出緩和措置が、社会と自分の家庭を再び普通の状態に戻してくれるだろうと考えていると語ってくれた。

しかし、普通とは一体何だろうか?

コロナ禍が起る以前、日本の家庭内暴力の被害者たちのための支援機関の数は、16年連続で増加していた。そしてその数は、2019年には最多に達していた。この数ヶ月間のパンデミックがあり、人々は自宅に閉じ込められ、より沢山の女性たちがこれらの支援機関に助けを求めて電話をした。

(日本では)2020年4月だけで、1万3千人以上の女性たちが、家庭内暴力の被害を通報した。この数は、前年の同時期の1.3倍に当る。しかし、家庭内暴力に関するあらゆる統計と同様に、おそらくこの数字は、実際に起こっている事件の数よりも、非常に少なく見積もられていることだろう。なぜなら日本の社会において、特に「家庭の問題」に対して助けを求めることは、常にタブーであるからだ。

日本の有名な男性俳優、坂本真が、家庭内暴力を振るった疑いで、2020年4月に拘留された。彼は、都内の自宅で妻とその母親を暴行したのだという。5月にはテレビで活躍するマーシャル・アーツの専門家、ボビー・オロゴンが、自宅で妻の顔を殴り、拘置所に入れられたことが、新聞各紙の一面で報じられた。暴行は、彼らの三人の子供たちの目の前で行われたようだ。
国連女性機関の行政ディレクターの女性は、この「幽霊パンデミック」のような、隔離による女性への家庭内暴力の、世界的な突然の増加を非難した。

今年に入って、世界中の数百万の女性たちが、家庭内暴力事件を通報している。アメリカで、そして日本や香港、韓国といったアジア地域で、ジェンダーの問題や、女性たちが直面している社会経済的な不平等と結びついた暴力が増加しており、この問題はコロナによってもたらされた重大な結果の中で、最も悲劇的なものの一つに数えられる。
私は香港に住んでいるが、女性のための地元の緊急コールにかけられた家庭内暴力に関する電話の数は、パンデミックが起こった当初(2020年1月から3月)と比べて、2倍に増加している。相談の70%以上が身体的暴力に関するもので、その他は主に、精神的暴力と言葉による暴力とが組み合わさった暴力に関するものだ。

4月に日本のソーシャル・ワーカーの男性が、ネット上で署名を公表した。そして3万人以上の人たちが、東京都知事に対して、住まいのない人たちや、コロナ禍で家庭内暴力から逃れてきた人たちのための緊急避難所の設置を求めた。

「コロナ離婚」という新しい用語が生まれた。この用語は現在、日本のSNS上で隔離中の離婚とカップル間の訴訟のピークについての話をするために、普通に使われている。
しかし、これらの離婚をコロナのせいだけにすることは出来ない。つまりパンデミックによって、私たちの社会での男女不平等の根本的な問題に光が当てられたのである。その問題とは、賃金格差、女性たちが政治的、社会経済的に弱い立場に置かれていること、そして、女性に対する有害な、文化的、社会的な型にはまった物の見方などである。たとえば女性や少女たちは、アメリカでの失業者の数がそのことを示しているように、今回の公衆衛生上の危機に最も関わりのある存在である。アメリカでは数百万人の女性たちが仕事を失っており、女性たちは男性たちよりも高い割合で失業している。
ここ数年東アジアでは、世界的ムーヴメントである#MeTooにより、女性の権利の擁護が再強化された。東アジアでのこのような動きは、自身の性暴力被害を、事件がメディアで報じられた際に公然と証言した韓国のソ・ジヒョンさんや、日本の伊藤詩織さんのような勇気ある女性たちとともに起こった。さらに地域での変化や、性差別や女性に対する暴力についてのより一層の会話を推進する、他の女性たちの例もある。
このような積極的な変化にもかかわらず、現在のコロナによる危機は、達成されるべき目標が山のように残っていることを、私たちに思い起こさせる。

多くの女性たちや少女たちが、指導し、助け合い、人々をより広い意味で支えるために手を取り合っているこのとき、各国の政府には、この不平等なシステムが最終的に取り替えられるように、女性たちを決定のためのプロセスの中心に置くための、より一層の措置を取る義務がある。

まだ新型コロナウィルスに対して有効なワクチンは見つかっていない。しかし、この「幽霊パンデミック」に対する解決策は明白だ。それはつまり、男女の平等は、私たち女性男性各人にとってより安全な未来という観念の、中心に据えられなければならないものだということだ。(了)

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