「ドラッグ、あるいはデイト・レイプ・ドラッグを使ったレイプ犯罪:薬物の影響下での服従状態、あまり知られることのない災禍」TV5MONDE

 

f:id:StephenDedalus:20220122163702p:plain

©️Lydia Menez


TEXT by Terriennes, Lydia Menez 2019.12.31(2021.12.24再掲)

GHB(ガンマヒドロキシ酪酸)、精神安定剤睡眠薬…。これらの物質は、被害者の気づかないうちにグラスに混ぜられ、記憶の取り違えや欠落を引き起こす。これらの物質は、飲み会のあいだに容器からグラスに移され、加害者たちが被害者たちを性的に暴行することを可能にし、他方、被害者たちにはいかなる記憶も残らない。これは、社会からその存在を知られながらも、被害の規模を数量化して表すことのできない災禍である。以下は、この犯罪に関する証言である。
「それは、わたしの通う学校で週末に開かれる新入生歓迎会のときのことでした。この集まりは、新入生同士の親睦を深めるために定期的に開催されていました。最初の飲み会が土曜の夜に開かれました。わたしは、お酒を一、二杯飲んだことを覚えていますが、そこから翌朝までの記憶が完全に欠落しています。真夜中以降、何が起こったのか、まったく覚えていません。当時、わたしは19歳でした」
エマさん(仮名)は、この話を誰にもしなかった。精神科医にも、親しい人たちにもである。だが、ラヴァル大学の女子学生たちが最近証言してくれたように、似たような体験をした女性は大勢いる。エマさんはこう続ける。
「わたしは森の中で半裸でいるところをクラスメイトたちに発見されました。彼らは救急車を呼びました。わたしは病院で目覚めました。そして検査を受けた結果、性暴力の被害にあったこと、それもおそらく、ドラッグを飲まされていたことが分かったのです」
パリのフェルナン・ヴィダル病院薬物依存症評価・情報センターを指揮するSamira Djezzr医師は、エマさんの受けた被害を、「薬物の影響下での服従状態(soumission chimique)」で起ったレイプだと説明する。それは、「被害者の気づかないうちに犯罪目的で薬物を投与する」ことである。薬や麻薬を誰かのグラスにそっと混ぜて暴行する行為を指すもので、イヴェントの場などで多く犯行が行われる。
「薬の効果はお酒やドラッグのせいで倍加し、加害者は容易に被害者を暴行することができます」と、Samira Djezzr医師は説明する。

GHB神話
このような手口は、メディアや一般文化のなかで、一般に「デイト・レイプ・ドラッグ」と呼ばれる、GHBと結びつけて語られる。このGHBはもともと、外科手術の麻酔薬として使われていたが、2000年からは違法麻薬に分類されている。
法医学中毒分析研究所主任のMarc Deveaux医師は、次のように指摘する。
「GHBはとくにアメリカで広まったものです。アメリカのテレビドラマでは、GHBを使ったレイプ犯罪を描いた場面がしばしば登場します。そしてフランスの刑事ドラマでもこの題材が意味もなく繰り返し使われ、結果的にフランスのテレビプロデューサーたちは、GHBによる犯行手口を国内に伝播しているのです。アメリカとフランスが、異なる社会であるのにも関わらず」

f:id:StephenDedalus:20220122163842p:plain

「フランスで、薬物を使って誰かを服従状態にさせたければ、薬品棚を開いて精神安定剤を手に取りさえすればいいのです」パリ、フェルナン・ヴィダル病院薬物依存病院・情報センター長、Samira Djezzr医師



2017年、医薬品・保健製品安全庁(ANSM)は、フランス国内で462件の同様の犯行を記録している。そしてこのうち、GHBによる被害はわづか3件のみだ。
「フランスで、薬物を使って誰かを服従状態にさせたければ、薬品棚を開いて精神安定剤を手に取りさえすればいいのです」と、Samira Djezzr医師は説明する。簡単に処方箋の手に入る同様の薬物として、たとえば、アルプロゾラム(商品名「ザナックス」)、ブロマゼパル(商品名「レキソミル」)、ジアゼパムバリウム)、ゾルピデム(商品名「スティルノクス」)などが挙げられ、これらの薬物は、被害者にGHBと同様の症状をもたらす。
「これらの薬物には、抗不安性の、そして催眠性の効果があり、なかには記憶障害を引き起こすものもあります」と、Marc Deveaux医師は語る。医薬品・保健製品安全庁によると、2017年に起った薬物による同様の犯罪事件のうち、前述のアルプロゾラムなどの薬物が使われた事件の割合は、41%にのぼるという。

検出されにくい物質
エマさんは、自分が薬を盛られたと疑っているが、証拠がまったくない。病院で受けた検査では、何も検出されなかった。
精神安定剤は尿の中に10日間は残留しますが、GHBは10時間か12時間で体外に排出されてしまいます」と、Marc Deveaux医師は指摘する。その時限が過ぎてしまった場合には、別の検査方法が用いられる。つまり、毛髪の逐次解析だ。薬物の摂取から6〜8週間後に髪の毛を二、三本採取し、検査するのである。だが、Marc Deveaux医師は次のように警告する。
「注意してください。この種の非常に特別な検査に適していない研究所で実施された検査の結果は、絶対に除外してください」

f:id:StephenDedalus:20220122164010p:plain

「周囲の人たちからは、告訴しないように勧められた。性行為に同意していなかった証拠がなく、告訴をすれば、何年も続くうまくいく保証のない闘いに身を投じることになるからというのだ」エマ



これらの薬物検査に適した法医学研究所施設にアクセスするためには、やはり告訴をしなければならない。だが、誰もエマさんをそのように導いてくれなかった。
「周囲の人たちからは、告訴しないように勧められました。性行為に同意していなかった証拠がなく、告訴をすれば、何年も続くうまくいくかどうか保証のない闘いに身を投じることになるからというのです。わたしはこの体験を隠し、忘れようとしました。わたしは強い孤独感と罪悪感を持ちました」

重くのしかかる罪悪感
精神科医でロレーヌ大学教授のEvelyne Josse教授は、性暴力被害者たちはつねに罪悪感を抱えており、この罪悪感は「薬物による被害の場合には倍加します。なぜなら被害者たちは自分が薬物を飲んだり摂取したことを知っており、それを自分の過ちだと思ってしまうからです。被害当時の記憶がないため、自分が同意の意思を示したかどうかの確証を持つことができないのです。被害者たちは自分が薬を盛られたと疑っています。しかし、証拠がありません。この記憶喪失のせいで、被害者たちは大きな罪悪感を抱えています。記憶喪失が、苦しみを増大させているのです」と説明する。

f:id:StephenDedalus:20220122164109p:plain

「その学年の終わりまで、わたしは飲み過ぎて行儀の悪い売春婦扱いされ、わたしのせいで新入生歓迎会が廃止になったと後ろ指をさされた」エマ



エマさんは、この自責の念を味わった。「実のところ、自分がこんな目に遭うのは当然で、自分がきっと男の子たちに色目を使ったに違いないと思っていました。自分のことが許せませんでした」自分のことが許せるようになったのは、罪悪感を持つのは自分の方ではないことに気づいてからだ。
「その学年の終わりまで、わたしは飲み過ぎて行儀の悪い売春婦扱いされ、わたしのせいで新入生歓迎会が廃止になったと後ろ指をさされました。校長の女性は、わたしを支えるふりをしていました。わたしが学校側を訴えることのないようにです」エマさんは、自分の受けた被害を「レイプ」と形容できるまで何年もかかったことを説明してくれた。被害の状況が、混沌としているためだ。

不足する防止措置
医薬品・保健製品安全庁の調査の結果、2016年から2017年にかけて、薬物を使った同種の犯罪は36%増加していることが示されている。
「この問題に関する防止措置が大きく不足し、知識も不足しています」と、Evelyne Josse教授は残念そうに語る。Marc Deveaux 医師も同じ意見だ。
「救急医療関係者も、一般医も、婦人科医も、薬剤師も、この問題に関してほとんど知識がありません。これは医学・薬学分野での教育の問題です」
政府による防止キャンペーンが行われることもまれである。

f:id:StephenDedalus:20220122164210p:plain

伊藤詩織さんは著書『Black Box』のなかでデイト・レイプ・ドラッグによる自身のレイプ被害を語り、日本で#MeTooムーヴメントを起した。©️AP Photo/Mari Yamaguchi



エマさんの話を聴いて、われわれは伊藤詩織さんの話を想起せずにはいられない。日本人ジャーナリストである彼女は、自身が2015年に日本のテレビ局の局長から受けたレイプ被害を著書のなかで語った。ある夜、その局長の男性は就職話を口実に伊藤さんを夕食に誘い、彼女のグラスにドラッグをそっと混ぜる。数時間後、彼女が目を覚ますと、そこはホテルの一室で、男も一緒だった。彼女の証言がきっかけとなり、被害者がまれにしか事件を報告しない日本でも、#MeTooが出現した。そして事件から4年たった2019年12月18日のこの日、東京地裁は、27,500ユーロにあたる彼女の損害賠償請求を認める判決を下した。これは、伊藤詩織さん自身がそう形容するように、日本人女性にとって告訴することが「社会的自殺」である日本で、初めての勝利である。
フランスでは、2019年夏に起こったエルファスト音楽祭での事件が大きく報じられた。若い女性が薬を盛られ、レイプされたのだ。彼女の証言は、SNSで瞬く間に拡散された。
「わたしは二杯目のビールに口をつけたところまで覚えており、意識もはっきりしていました。(中略)しかし、すぐに気分が悪くなり、動悸がし、吐き気がして冷や汗が吹き出しました。実際、汗が滴るようでした」と、彼女はフェイスブックのメッセージのなかで書いている。それから彼女は、フェスティバル参加者の男性にをテントの中に連れて行かれ、暴行されたと語っている。彼女は加害者の人相書をフェイスブックに投稿し、加害者を特定するための証言の呼びかけをしている。フェスティバルの主催者側は、この現象と闘うための措置をとると返答した。だが、加害者の足跡はつかめないままだ。

身を守るための道具
飲み物への薬の混入を防ぐために、二人のニューヨーカーの女性が、「My Cup Condom」を発明した。これはラテックス製のフィルムで、グラスの飲み口を完全に覆ってしまうものだ。

www.facebook.com

このほかに、「undercover Colors 」というマニキュアがある。このマニキュアは四人の女子学生によって発明されたもので、グラスに浸すと、薬物に反応して色が変わる。

f:id:StephenDedalus:20220122164306p:plain

©️Undercover Colors



専門家たちの助言はシンプルだが、救いになるものだ。飲み会などのイヴェントではグループで行動し、一人にはならないこと。グループのなかで、お酒を飲まず、車を運転し、メンバーを家まで送ってくれる人間を一人決めておくこと。アルコールと大麻を混ぜるのは避けること。グラスから目を離さないこと。知らない人からのお酒は断ること。そして最も大切なこと、それは、この問題についてオープンに話すことのできる環境をつくるために、被害について話すことだ。(了)

information.tv5monde.com

「日本での#MeToo: 伊藤詩織さんにとっての忘却に対する勝利 」TV5MONDE

TEXT by Terriennes, Isabelle Mourgere+AFP 2019.12.18(2021.12.24 再掲)

東京地裁は、伊藤詩織さんの損害賠償請求を認める判決を下した。賠償額はおよそ27,500ユーロにあたる。伊藤さんは2015年に山口敬之からレイプの被害に遭ったとし、山口氏に対して賠償請求をしていた。
2017年、伊藤詩織さんは、自身の経験を語ることで沈黙を破った。彼女は日本のテレビ局の局長から飲み物に薬を混ぜられレイプされたとして、その男性を告発した。彼女は自身の体験を綴った著書『Black Box』を出版した。そして事件から4年後のこの日、東京地裁は彼女の損害賠償請求を認める判決を下した。これは、日本での#MeTooの中心的人物となった彼女にとっての、最初の勝利である。
「わたしたちは勝訴し、相手方の訴えは棄却されました。これは一つの重要な節目です」
裁判所の出口で、支援者たちに見守られるなか、伊藤詩織さんはテレビカメラの前でそう語った。
「わたしたちはいくつかの証言を提出することができ、それらの証言は民事法廷で聞き入れられました」と彼女は喜び、漢字で「勝訴」と書かれたのぼりを掲げた。そして彼女は、「正直なところ、まだ実感が湧きません」と付け加えた。彼女は今回の判決が、レイプの被害に遭った女性たちの置かれている、社会的にも法的にも「時代遅れな」現状を変化させる一助となることを願っている。

f:id:StephenDedalus:20220122165332p:plain

2019年12月18日、東京地裁前で「勝訴」と書かれたのぼりを掲げる伊藤詩織さん©️AP Photo/Mari Yamaguchi



裁判長は加害者とされる男性に対して、伊藤さんの請求額のおよそ3分の1にあたる、330万円(27,500ユーロ)の賠償金を支払う命令を下した。その一部は、彼女の弁護士費用を賄うのに当てられる。
告発された男性、山口敬之は記者会見の際に反論し、すぐに控訴すると発表した。
「国内外のメディアがもっぱら伊藤詩織さんの言い分のみを報じたことが、裁判に影響を与えて可能性がある」と彼は述べた。判決文の中では、伊藤さんが「意識を失い、身を守ることのできない状態で性的関係を持つことを強いられた」ことがはっきりと示されている。しかし、それにもかかわらず、山口氏は刑事訴追されていない。

伊藤詩織さん、日本の#MeTooの先駆者
世界中で#MeTooが広がり始めたころ、日本で今では「詩織さん」とファーストネームで呼ばれる彼女は、2015年に東京のホテルの一室で山口敬之からレイプの被害を受けたと主張し、日本社会を揺るがした。

f:id:StephenDedalus:20220122165629p:plain

©️Édition Philippe Picquier



山口氏は日本の民放テレビ局のベテラン記者で、伊藤さんに自身の働くアメリカでの仕事のポストをちらつかせていた。伊藤詩織さんの説明するところによると、二人でレストランで食事をした際に、加害者とされる男性がおそらく彼女のグラスにドラッグを混ぜ、ホテルの一室で彼女を暴行したのだという。
現在30歳の詩織さんは、メディアの前で話し、『Black Box』と題した著書のなかで語ることで、自身の体験を公にした。
「警察署に告訴しに行ったとき、捜査員からは「このようなことはよくあること、捜査をすることはできない」と言われた」と、彼女はこの冷ややかで綿密な、そして資料に裏付けられた著書のなかで語っている。さらに彼女は「「日本で働くことはできなくなるかもしれませんよ?」これが捜査員が当初からわたしに繰り返し言っていたことだ。そしてわたしもそう思い込み始めていた。何も変わっていないかのように振舞って彼と同じ敷地内で働くのはあまりにも不安極まりないことだった。わたしたちが警察に行ったことに対して、彼はいつでも復讐することができた。彼がわたしを監視し、圧力をかけてくることをわたしは恐れていた。彼に対する逮捕状が取り消されるのに、上からの一言で十分だったのだ」と、この体制に対する闘いの告白の書の中で語っている。それから彼女はこう付け加える。「おそらく、わたしを黙らせるためのあらゆる手段が存在したに違いない。わたしの想像の範囲を超えた、あらゆる手段が。わたしは次第に追いつめられたように感じていた」。

f:id:StephenDedalus:20220122170228p:plain

伊藤詩織さんの支援者たちの掲げる横断幕には「ブラックボックスを開け」と書かれている。これは、伊藤さんの著書の題名から取られたものだ。12月18日、東京©AP Photo/Jae C. Hong



共謀と上層部...
刑事裁判を得るための彼女の働きかけには、山口敬之の逮捕の直前にストップがかかってしまう。これは、彼女の説明するところによると、山口氏と(政治の)上層部とのつながりが理由なのだという。山口氏はとりわけ、安倍晋三首相の伝記作家でもあるのだ。山口敬之はレイプの非難に反論し、名誉を毀損されたとして、彼女を反訴した。しかし、彼は敗訴した。彼の言い分によると、伊藤さんは完全に酔っ払っており、夕食のあと一人で帰ることのできない状態であったため、自身の滞在するホテルに彼女を連れて行き、そこで彼女の求めに応じたのだという。したがって、彼は性的関係を持ったことは認めたが、伊藤さんが性行為に同意していたとみなしている。

f:id:StephenDedalus:20220122170335p:plain

東京地裁前に集まった伊藤詩織さんの支援者たち©AP Photo/Tae C.Hong

レイプと日本の文化
伊藤詩織さんの力強い率先行動にもかかわらず、100年以上前に制定されたレイプに関する法律が最近改正されたにすぎない日本で、#MeTooは大きな広がりを見せていなかった。
また、伊藤詩織さんは、組織や機構のあり方がどれほど不適合なものであるかを強調している。たとえばそれは、レイプの被害に遭った女性たちの病院での受け入れ体制や、警察での被害者への配慮の欠如といった問題である。
性暴力に反対する人たちが、数ヶ月前から定期的にデモを開催している。これは、実の娘を数年間にわたりレイプし続けていた男性が、9月に有罪となりながらも、「時代遅れな」法律のせいで何の処罰も受けていないことに憤激させられてのことだ。裁判所は、男が娘を13歳から19歳のころにかけてレイプしており、娘が抵抗した際に暴力を振るっていたことを明確にした。そして、「すべての性的関係」は娘の「意思に反して」持たれており、娘は男からの繰り返しの暴力により、心理的支配下に置かれていたことが、判決により結論付けられた。しかし、それにもかかわらず、加害者であるこの父親に対して、いかなる実刑も下されていない。というのも、日本では法的に、激しい暴行や脅迫があったことが証明されるか、被害者がまったく抵抗できない状態であったことが証明されることが求められるからだ。したがってこの場合、被害者の抵抗を上回る暴力があったにもかかわらず、レイプ被害から逃れるために全力で抵抗したことを証明しなければならないのは、被害者である娘のほうなのである。この事件がきっかけとなって、フラワーデモは生れた。
世界経済フォーラムの最新の「男女格差指数」で、日本は149カ国中、110位に位置している。日本は、その司法システムの問題の多さから、非難を浴びている。裁判には非常に多くの時間がかかり、ときには数十年かかることもある。そして原告側に、裁判費用が返ってくるわけでもない。このような状況が、多くの人たちに、闘いを始めることを思いとどまらせている。そして、この非常な家父長制の国において、女性たちは暴力の被害に遭った際に、沈黙してしまう。しかし、このような状況も、伊藤詩織さんのおかげで少しづつ変化しているのかもしれない。(了)

information.tv5monde.com

#MeToo: 伊藤詩織さんを、そしてすべての被害者を支援するための運動が始まる JapanFM

TEXT by Yuuki.K. 2019.4.12

 

2019年4月10日、伊藤詩織さんの民事裁判を支援するための集会が、本人出席のもと、東京都内で開かれた。またその際、すべての性暴力被害者を支援するための運動も始動した。

 

会見が開かれたのは、東京の文京区役所の入る、文京シビックセンターである。会見は当初、100名の予約参加者を予定していたが、最終的に、会場にはわれわれJapanFMを含む複数の記者や大勢の女性たち、そしていくらかの男性たちといった、合わせて150名の参加者が、会のメンバーたちの話を聴くために集まった。また参加者たちは、何人もの女性たちの証言を聞くこともできた。何名かは匿名で、そしてその他は実名で、彼女たちはハラスメントと性暴力に関する状況が変化するために証言したのだった。証言したのはとくに、性暴力被害に遭った女性たちを支援するための団体のリーダーたちであった。そして、「Women In Media Network Japan」代表の林美子さんも同様に証言をした。このネットワークには100名以上の女性記者が加わっているが、彼女たちは匿名に留まっている。伊藤詩織さんや林さんのような女性たちは素性を明かすことをためらわなかったが、それは、状況が変わることを期待して、他の女性たちを代弁して話すためであった。

 

なぜなら、決死の覚悟で加害者を告発し、正義を求める日本人女性たちにとって、仕事やあらゆる社会生活を失う危険性が、あまりに大きな問題としてのしかかるからだ。「WIMN Japan」代表の林美子さんは、この会合に出席した記者たちに対して、日本人のメンタリティが変化するよう、ハラスメント事件や性暴力事件について話すことを、これ以上ためらわないよう促した。

伊藤詩織さんの場合、日本の司法は事件を2017年9月に不起訴相当とすることで、刑事訴訟を拒んだ。そのため、加害者を刑事事件で有罪とさせることはできなくなったが、彼女には民事で裁判を起す可能性が残されている。だが、伊藤さんが1,100万円の賠償金を請求しているのに対し、山口敬之は反訴をし、伊藤さんの請求額の10倍に当る、1億3千万円の賠償金を請求したのである!伊藤詩織さんを金銭的に、そして精神的に支援するための運動、「Fight Together With Shiori」が始動したのは、そのためである。この運動は、たとえば#MeTooや#WithYou、そして#WeTooのようなハッシュタグを使ったことのある人たちの結束を促すものである。これは、伊藤詩織さんが民事裁判の資金を得ることの助けとなるための、そして裁判が開かれ、いくつもの口頭弁論が行われる際に伊藤さんを支えるための直接支援の運動なのである。

また同日、すべての性暴力被害者たちに向けられた運動、「Open the Black Box 」が始動した。これは、伊藤詩織さんの著書の題名から採られたもので、カメラもなく、目撃者もいない密室で起った性暴力の証拠を得ることの難しさを指す用語だ。そしてまた、この用語は、被害者たちが性犯罪事件の捜査にアクセスすることの難しさや、またそれだけでなく、裁判にアクセスすることの難しさを意味するものでもある。この「ブラック・ボックス」的状況に直面するすべての女性たちを支えるために、この運動もまた、始められたのであった。

 

 

 

原註(2019.4.12):正確を期すために記しておくと、伊藤詩織さんを支援するこの運動は当初、「Fight Together With Shiori」と呼ばれていた。しかし、4月10日のこの集会の際に、運動の名前は「Open the Black Box 」に改められることになった。これは、伊藤詩織さんにだけに支援が向けられるのではなく、性暴力被害に遭ったすべての女性たちが支援の対象に含まれるようにするためだ。彼女の刑事事件での訴えは退けられた。それゆえ、日本人のメンタリティを変化させるために闘いを続けること、また、他の被害者たちが話すことのできるようにすること、そして、彼女たちが「ブラック・ボックスを開く」ことの手助けをすることが重要なのである。(了)

 

tokyoatparis.com

「伊藤詩織さん 日本でのレイプのタブーを打ち破ったジャーナリスト」 France Inter フランス語ラジオ番組翻訳(抄訳)

 

f:id:StephenDedalus:20211031175800p:plain

伊藤詩織さん© AFP / Thomas Samson

2019.4018

Sonia Devillersさん: 伊藤詩織さんにお越しいただきました。彼女はまだ29歳でとても若い。彼女はどんな対価を払ってでもジャーナリストになりたいと思っていました。彼女は著書の中でずっと、それが払うべき代償なのか自問しています。彼女は奨学金を得るために格闘し、旅をし、勉強をし、特にアメリカで勉強をしました。伊藤詩織さんは、彼女にワシントンでの仕事のポストをちらつかせていたTBSの高い地位にある男性から、飲み物にドラッグを混ぜられ、レイプをされました。その夜の記憶は欠落しています。しかし目覚めたとき彼女が目にしたのは、悪夢のような光景でした。伊藤詩織さんは勇敢にも被害について話しました。彼女はレイプ被害を勇敢にも話した唯一の女性たちのうちの一人です。なぜ被害について話したかというと、警察も司法もまたメディアも彼女を見捨てたからです。彼女は自身で事件を捜査しました。その著書『Black Box』は冷ややかで資料に裏付けられた物語で、非常に厳密なものです。

 

質問1:伊藤詩織さん、ようこそパリへ。2015年、26歳の時に起こった事件について、あなたは次のように書いていますね。下腹部の激しい痛みで目が覚め、気付くと裸の状態で見知らぬホテルの一室にいた。加害者とされる男性があなたの上におい被さっていて、避妊具を付けない性器が目に入った。「痛い」と何度も言ったが、彼は行為をやめなかった。ようやく解放され、鏡を見ると体はあざだらけで出血していた。その夜のことを何も覚えていない。これはあなたが本の中で語っている、目覚めときに起こったことですが、彼は無理矢理あなたをベッドに押し倒し、再び犯そうとした。あなたは必死に脚を閉じた。彼はあなたにキスしようとした…。目覚めたときに起きたこのようなこと、それだけでもすでにレイプ未遂だったということですね?

質問2:ともかくレイプ未遂だったということですね。あなたが部屋を出るとき、彼はあなたにこう言います。「よし、君は合格だよ。下着ぐらいおみやげにさせてよ」と…。彼自身のレイプの思い出にですね。あなたは(寿司屋からホテルに行くまでのことを)一切何も覚えていませんが、著書の中で警察署と病院で受けた対応を、あなたは非常に正確に描写しています。まず病院での話から始めましょう。あなたはこう言っていますね。「婦人科医は私を見ることさえしなかった」と。

質問3:次に警察署での話に移ります。本の中で改めて指摘されていますが、日本の女性警察官の割合はわずか8%なのですね。

質問4:あなたの行なった捜査についてです。これは自身の事件についてのジャーナリスティックな捜査であり、そして日本の司法のメカニズムの中に没入するような綿密なものでもあります。日本人にこの司法システムについて理解してもらうため、そして日本人が司法システムに対して受け身になるのではなく、システムを問題にし、検討してくれるようにするために、あなたは自身の捜査を本に綴ったのですね?

質問5:おっしゃる通りです。それで、加害者とされる山口敬之という男ですが、彼は逮捕されるはずだったのが、その逮捕が最後の瞬間に取り止めになります。この男は安倍首相の伝記作家であるのですが、はっきりとさせておかなければならないのは、日本の政治権力の側からのこの事件についての言及はあったのかどうかということです。

質問6:そしてあなたは裁判の手続きを続け、訴訟は進行中です。証言をし、告発に乗り出す女性ジャーナリストはほとんどいません。それでも多くの女性ジャーナリストたちがあなたと連帯しています。しかし大部分が匿名で連帯を示す行動をとっています。告発することにはどのようなリスクがあるのですか?

質問7:それでも、2017年にあなたが被害を明かしたのに続いて、レイプに関する法律が改正されました。先程おっしゃいましたが、改正前の法律は100年以上前に制定されたものでした。これはまったく、法律に関して錯誤的なことです。改正を受けて、レイプの定義が広がりました。改正前の法律では、女性器に対する男性器の挿入のみがレイプとされていました。それが現在の法律では、男性もレイプの被害者として認められるようになったのです。そしてまた、口淫性交と肛門性交も重犯罪や軽犯罪と見なされるようになり、刑期も在来の3年から、5年に延長されました。しかし、法律では大きな問題について触れられていません。つまり性同意の問題と、レイプ事件は顔見知りの人物から、閉ざされた場所で起こっているという事実です。このような状況での性同意の問題にもう一度触れておきましょう。伊藤詩織さん、レイプ事件の大半が実際にこのような状況下で起こっているのでしょうか?

質問8:あなたは本の中で、ホテルの一室で目覚めたときに自分の体がどのような状態になっていたかを描写しています。そして体に傷やあざが出来、出血していたと語っていますね。このことは病院では記録されたのでしょうか。そしてまた、このことはあなたがおそらく抵抗したことの、そしてともかく暴力を受けたことの証拠となる情報として、調査書類に記録されたのでしょうか?

質問9:最後の質問です、伊藤詩織さん。もしこの質問をあまりに個人的すぎると思われたなら、答えていただかなくてもけっこうです。あまり覚えていないこと、つまり記憶の欠落を抱えてどのように日常を生きていくのでしょうか?そして最後に、ドラッグによって消え去ってしまった記憶を遡るために、自分自身と闘うものなのでしょうか?

Sonia Devillersさん: 伊藤詩織さん、ありがとうございました。これでこの非常に感動的なインタビューは終わります。あなたの勇気に感謝します。そして勇気を出して事件について話し、著書『Black Box』を書いて下さったことに感謝します。この著書はフランスでPicquier社から出版されています。またフランスに来てこの話をして下さり、ありがとうございます。

 

www.franceinter.fr

「#MeTooを奪われた日本の女性たち」ELLE フランス語記事翻訳

2018.4.27

ハッシュタグ#MeTooは、世界中いたるところで拡散された。沈黙の掟を破る女性たちが、脅迫や社会からの追放を受ける恐れのある日本を除いて。

彼女は名前を隠すことも、顔を隠すことも望まない

「ええ、怖いです。しかし、現実と向き合わなければなりません。昨年(2017年)12月に#MeTooを表明してから、私の俳優としてのキャリアは台無しになってしまいました」
31歳の石川優実さんは、勇敢にもこのハッシュタグを使った、日本で数少ない女性のひとりだ。しかし、自分が味わったことと同じ苦しみを、ほかの大勢の女性たちも味わっていると彼女は言う。
「マネージャーは私を、二人の監督と一人のプロデューサーにあてがいました。映画界には、「役を得るために寝なければならない。特にデビューしたての女性俳優たちは」という暗黙の了解があります。私も女性として、そうするのは普通のことだと思っていました。問題を自覚したのは、ハッシュタグ#MeTooに出合ってからに過ぎません」
優実さんはこのハッシュタグを使ってから解放された気持ちを味わったが、すぐにそれは恥辱に変わった。「みっともない」「売女」「こんな話題に言及するなんて、日本人女性として恥ずかしい」などといった、批判や罵りを浴びたからだ。

f:id:StephenDedalus:20211031171610p:plain

俳優の石川優実さんは、「#MeToo」と投稿することをためらわなかった。以来、彼女の「キャリアは台無しになった」という。©︎Xavier Tera 

 

日本ではレイプは激しく非難される。だがとりわけ、レイプ被害を語る女性たちは強く批判される。優実さんは、想像もつかないようなタブーを打ち破ったのである。
「私たちの文化は、苦痛や疑い、そして否定的な感情を内に隠すこと私たちに命じます」
フェミニスト大阪国際大学法学部准教授の谷口真由美さんはそう説明する。日本では街なかで、地下鉄で、そして隣人たちのあいだで性差別的な言葉が飛び交うことはない。人々の交流は礼儀正しいままで、日常生活は快適そのものだ。谷口教授はこう続ける。
「人前では「空気」、つまり雰囲気を読み、軋轢(あつれき)を避けなければならないと言われます。そして、声高にものを言ったり、自己主張して自分を尊大に見せることのないよう、子どものころに教育されます」
つまり、社会の調和を守らなければならず、そして無秩序を生み出す者を支持してはならない。そうすることで、自分自身が拒絶される恐れがあるからだ。同意的な態度を取り入れた若い女性たちが期待され、若い女の子は「可愛く」「ほほ笑んで」、男性を裏切ることのできない存在でなければならない。#MeTooはその急進性によって、意見の一致と家父長制のドクサ(思い込み)をおびやかす。
折り込み広告にも、テレビのスタジオセットにも、完璧な母親や、ハイパーセクシーな女性といったステレオタイプが次々と現る。
「私たちは未だ、男性たちによって指揮され、男性たちにのみ向けられた社会に生きています」と、谷口准教授は要約する。世界第3位の経済大国である日本は、女性議員や女性幹部の割合が10%未満であることから、世界で最も保守的で差別的な国のひとつに数えられる。第一子の出産後、母親となった女性の大部分が家庭にとどまる。昨年(2017年)発表された世界経済フォーラムの男女格差指数で、日本は144カ国中、114位に位置している。

「自分の国で危険を感じる」

伊藤詩織さんは、日本の#MeTooムーヴメントの創始者となり得たであろう女性だ。昨年出版された著書『Black Box』のなかで、彼女は安倍晋三首相に近い人物である男性から受けたレイプ被害を告発している。3年前、事件が起こったとき、警察は彼女に告訴を思いとどまらせようとした。加害者とされる男性は訴追されず、伊藤さんは祖国を離れて外国に移り住まなくてはならなかった。一時滞在中の東京で、彼女は自身が脅迫の的となっていることを説明してくれた。
「私は自分の国で身の危険を感じます。本を出版してから、大量のヘイトメッセージを受け取りました。男性からだけでなく、女性からもです。そして、昼も夜も、脅迫の電話がかかってきました。「死ねばいい」という内容のものです。私は当初、友人の女性の家に2ヶ月半のあいだ非難していました。それから、女性の権利のために闘うNGO団体の代表の女性から、ロンドンに来るよう勧められました。最悪なこと、それは、私のせいで妹が今も仕事を見つけられないでいることです。私は家族との関係を絶ってしまいました」

f:id:StephenDedalus:20211031171728p:plain

自身のレイプ被害について著書の中で証言してから、ジャーナリストの伊藤詩織さんは日本を離れなければならなかった。©︎Xavier Tera 


勝見貴弘さん、45歳。練達の翻訳家で1万6千人のツイッターのフォロワーを持つ彼は、ひとつの世代の解放の意志を伝えるために闘っている。
「伊藤詩織さんは、女性で、美しく知的で、権力に近い男性に立ち向かうという、日本の女性蔑視的社会が憎む事柄のすべてを表象しています。彼女の受けたバッシングは、日本の女性たちに証言する勇気を失わせるはずです」
日本のメディアのなかで、「エル・ジャパン」のように被害者の声を取り上げたメディアは、ごくわずかである。
国営テレビ局NHKの匿名希望の女性記者は、次のように断言する。
「今日、話題がセンシティブなものであった場合、メディアは自己検閲をします。私は毎日、私の小さな胸をからかう部長の性差別的な冗談に愛想笑いしなければなりません。このような中から、セクハラに関する話題が放送されると思いますか?あたかも日本はセクハラの問題を免れているかのように扱われるのです」

「苦しみを口にするのは、利己主義的なことです。しかし、私にとって#MeTooは最後の手段でした」

フリーランスの記者で、ウェブサイトで記事を書いている小川たまかさんは、次のような壁にぶつかる。
「編集長を務めている女性たちでさえ、問題を過小評価してしまいます。みな拒否したり、無関心なままです。他人のなかに悪を見たくないからといって、沈黙のうちに苦しむのは非常によくあることです」
それでも、37歳のこの活動家はあきらめない。ちょっとした性的攻撃の被害者である彼女は、3年前にブログで自身の経験を共有することで、勇敢にもタブーを打ち破った。
「電車を利用する10代の子たちのほとんどが痴漢に遭っていると思います。初めて痴漢に遭ったのは10歳のときでした。高校生のときには、少なくとも週に一度は被害に遭っていました。ある日、男性から性器に指を入れられたこともあります」
フランスの法律ではそれはレイプに当たると言うと、彼女は「本当ですか?」と、その大きな黒い目を見開いた。
「友人同士でその話をしたものです。大人たちを信頼できるかわかりませんでした。相談しても母親たちは「気を付けないと!」と答えただけでしょう。両親は私の受けた被害を知りません。それは見えない傷として残っています」
メディアで、学校で、そして家庭で、性的虐待の被害者たちは、多くの場合沈黙しなければならない。日本は盗難やレイプといった犯罪の発生率の低さから、世界で最も安全な国のひとつとして紹介される。しかし、性的攻撃の被害者で告訴する人の割合は4%未満(原註:フランスでは11%)で、被害者の4分の3が被害について誰にも、近親者にさえも話さない。

26歳の俳優、清水めいりさんはこう証言する。
「自分の苦しみを口にするのは身勝手なことです。半年前、飲み会のあと、私は劇団のプロデューサーから一晩に二度レイプされました。警察は防犯カメラの映像を確認しました。そこには、廊下をよろめいて、加害者と互いに手を組んで歩く私の姿が映っていました。その映像から警察は私が性行為に同意していたと結論付け、そのせいで私は告訴することができませんでした」

f:id:StephenDedalus:20211031171829p:plain

俳優の清水めいりさんは、性行為に同意していたとみなされ、そのせいでレイプ事件を告訴することができなかった。©︎Xavier Tera 


「被害者は身体的外傷でもって、レイプ行為があったことを証明しなければならない」

日本では、女性が男性と酒を飲みに行くことを受け入れた場合、暴行を受けたとしても、その責任は女性の側にあるという考え方が残っている。女性は身を守る術を知らなければならないというのだ。110年前に作られた性暴力に関する法律も、同じ考えに基づいている。望月晶子弁護士は、こう激しく抗議する。
「被害者は身体的外傷でもって、レイプ行為があったことを証明しなければならないのです!また、世間の人たちは未だに、被害者は夜、どこからともなく現れた知らない男性から襲われているのだと想像しています!」
彼女は日本では珍しい、レイプ被害者たちのための支援機関「TSUBOMI」を東京で設立した。彼女はそこで、およそ1500人の被害者を援助している。彼女は伊藤詩織さんの闘いに敬意を表する。その闘いによって、昨年10月に法律が改正され、レイプの最低量刑が在来の3年から5年に延長され、男性もレイプの被害者とみなされるようになったからだ。しかし、望月さんにとって、闘いは初めから負けが決まっている。レイプ加害者の99%が無罪となるからだ。
「私自身、依頼人に告訴しないよう勧めます。彼女たちにさらにトラウマを与えるようなことをしても、何にもならないからです。そうです、加害者たちは被害者の沈黙をお金で買うのです。私たちは、財力のある加害者たちと、平均4万ユーロという高額で示談交渉します。このような状況では、日本で#MeTooは理解されないのかもしれません」
彼女にとって、さらにより深刻なのは、同意の問題が法律でも学校でも言及されないことだ。

「私たちは一度もこの問題について議論したことがありませんし、高校生たちに性教育を施すことも拒まれます。寝た子を起こすことになるだろうからというのです」
京都在住で、ジェンダー史が専門の社会学者である牟田和恵さんはそう残念がる。その結果、ポルノが性行為の最初の入り口となっているのだ。
若い女性たちが「いや、やめて」—「イエス」と受け取る人もいますが—と叫びながら、地下鉄の中でレイプされる内容のビデオが、ワンクリックで何十本も視聴可能になっており、ポルノ中のレイプは、まるでゲームのように描かれているのです!このような状況で、日本人がどのように同意の意味するところを知ることができるでしょうか?」
和枝さんのような一握りのフェミニストたちが会議を開くなどして#MeTooにまつわる議論を活性化させようとしている。

谷口真由美准教授は、山積する課題を次のように要約する。
「問題は構造的なものです。どこから手をつければいいのでしょうか?教育?政治?経済?メディア?司法?それとも家庭ですか?」

京都の同志社大学の岡野八代教授がさらにより憂慮するのは、政治的状況が沈黙と中傷的言説を強めることだ。
「匿名の人たちだけではなく、超保守的な政治家たちまでもがSNSを使って私たちにネガティヴキャンペーンを仕掛けてきます。バッシングは10年前と比較して、より目に見える形になり、よりありふれたものになっていす。私たちは男性と日本の敵なのでしょう!」

伊藤詩織さんは希望を失っていない。彼女はたくさんの支持を受けているからだ。…ただし、ひそかに。
「たくさんの男性たちと女性たちがプライベートなメッセージで、私に感謝を示してくれました。彼らは公にそうすることを恐れていました。しかし、連帯はここにあります。隠された形で。ですから、私は続けなくては!」

チカン禍

「チカン」の問題は、1990年代に国によって考慮に入れられた。地下鉄で、ピンクの車両が女性専用となっている。しかし、男はしょせん男であり潜在的な脅威であるという考え方が残っている。斉藤章佳医師はこの2年間、自身のクリニックで、弁護士や家族によって送られてきた1,200人の痴漢加害者たちを診察してきた。
「男性を敬い女性を蔑視する「男尊女卑」の通念が未だに強く存在します。チカンの加害者たちは女性をモノとして見ています。しかし、男性は捕食者ではありません!それが、私が患者さんたちに最初に説明することです。彼らは治療を受け、リハビリを受けることができるのです。しかし、残念なことに世間の人たちは「好色な変質者から身を守る術を知らない被害者」といったステレオタイプの中にとどまることを選ぶのです」

斉藤医師によると、彼のもとを訪れる患者の典型は、サラリーマンで、既婚で、職場で上司にいじめられている男性だという。
「電車は家と職場のあいだでこのような男性たちが自分たちの激しい支配の欲求を満たすことのできる唯一の場所なのです」
斉藤医師によると、毎年10万人の日本人女性がチカンの被害に遭っているという。

彼女(たち)は行動を起こす

「エル・ジャパン」は、ジャーナリスト伊藤詩織さんの肖像を掲載した。彼女は、安倍晋三首相に近い人物である男性からレイプの被害に遭ったとして、男性を告発した。彼女の闘いは多くの外国メディアによって報じられたが、日本国内ではまったく、あるいはほとんど報じられなかった。
「エル・ジャパン」編集長のイヴ・ブゴン(Yves Bougon)は、こう説明する。
「われわれはリスクを取らなければなりませんでした。レイプや政治は大きなタブーです。読者の大部分がショックを受けたのは確かです。しかし、この話に世界的な意味を持たせなければならなかったのです」
記事の執筆者であるミエ・コヒヤマさんは、多くの支持を受けた。
「記事は大きく共有されました。特に俳優のアーシア・アルジェントさんによって。また、日本の女性たちが連絡をしてきてくれました。#MeTooムーヴメントは日本でも密かに進展しているのです」
未成年者への性犯罪の公訴時効撤廃と心的外傷性健忘(amnésie traumatique)のために闘う活動家であるミエさんは、現在、国際諸団体の支援による、性暴力に関する討論会を企画中だ。

団体「トラウマ性記憶と被害者学」代表のミュリエル・サルモナ(Muriel Salmona)医師は、女性弁護士と医師たちからなる日本の代表団をパリで出迎えた。彼女は感激した様子でこう語る。
「非常に活発な意見交換がなされました。彼女たちは、日本で先駆的なレイプ被害者受け入れセンターを、北海道に設立しました。彼女たちは情報と、支援を求めていました。私たちは双方のあいだでの共同研究を考えています」(了)

www.elle.fr

「いくつかの声があがったものの、日本は#MeTooムーヴメントに耳を貸さないままだ」L'Express

日本では、性暴力やハラスメントを告発することは、未だタブーなままだ。

f:id:StephenDedalus:20211030175351p:plain

タクシー運転手のサイトウ・カズヨさん。彼女は暴行被害を避けるため、現在は夜間勤務をやめている。2017年11月17日、東京で撮影。©afp.com/Behrouz MEHR

TEXT by AFP 2018.4.1

被害を受けてから20年、音楽業界から離れて久しい彼女は、#MeTooムーヴメントにより被害者たちがオープンに話し始めたことに励まされ、自身の苦しみと向き合うことを決意した。この#MeTooムーヴメントは世界中の多くの国々に波及したが、性暴力の被害者たちがむしろ沈黙するように励まされる日本では、いくつかの証言が現れただけで、その影響は限定的なものだった。ナカジリ・リンコさんは、17歳のときにプロデューサーの男性からレイプの被害にあった。この男性は彼女に、CDのレコーディング契約を約束していた。彼女は自身の仕事の夢が断たれてしまうことを恐れ、一度も被害を打ち明けなかった。

ナカジリさんは語る。「日本で被害について話すのはほとんど不可能です。レイプに関して恐ろしいタブーがあり、世間の人たちはそれを秘密のままにしておくことを選ぶからです」

現在二児の母である彼女は、「夜更けのスタジオで」レイプされ、「その後も同じことが何度も繰り返された」と語る。そして、「抵抗したり、そのことを話したりしたら、自分のキャリアが終わってしまうのではないかと恐れていました」と説明する。

ハリウッドのプロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイの事件は、日本のメディアによっても報じられた。しかし、国内にも潜在的に存在する同様の状況に強い関心を寄せるメディアはほとんどなく、声をあげる藝能人女性もほぼまったくいなかった。

「脅迫」

ライターでブロガーのはあちゅうさんは、その中での例外の一人だ。彼女は(2017年)12月に、電通グループの責任者、岸勇希から職場で受けていたハラスメントについて詳しく語った。彼女の証言はいくつものメディアによって報じられ、岸勇希は公に謝罪した。電通を退職後、彼は自分の会社を設立していたが、告発を受けて辞任することにした。「大きな責任を感じています。社内に不安を引き起こしたことに対してです」

社会がある種の家父長制に染まったままの日本で、この類の暴力を告発することは、重大な行為である。伊藤詩織さんは昨年、自身の経験を語ったことで大きな代償を払った。この28歳のジャーナリストは、2015年にテレビ業界の男性から仕事の話をするために夕食に誘われ、そしてドラッグを飲まされてレイプされたとして、男性を告発した。

「私のことを「あばずれ」だとか「売春婦」呼ばわりするメッセージを受け取りました」

自身の経験を公にし、そしてそれを特に著書『Black Box』のなかで語ったことで、彼女はネット上で大量の攻撃を受けた。

「私のことを「あばずれ」だとか「売春婦」呼ばわりするメッセージを受け取りました」と、先日ニューヨークの国連本部で会見をした彼女は思い起こす。そして、「脅迫も受け、家族の生活が心配でした」と、彼女は打ち明ける。

彼女はまた、被害後に受診した婦人科での診察が、まるで「取調べ」のようになってしまったことを残念に思った。そして、等身大の人形を使って事件の再現をするよう彼女に求めた警官たちの態度を彼女は告発している。

100年以上改正されていない法律

「#MeTooムーヴメントが言葉を解き放ち、被害者たちがオープンに話し始めたことは間違いありません」と、中島幸子さんは強調する。中島さん自身も配偶者暴力の被害者であり、彼女はNGO団体「レジリアンス」を設立して、今では被害者たちを支援する側に立っている。

しかし、伊藤詩織さんの話は「社会の大きな変化を生むことはありませんでした。彼女の事件でも何も起きず、誰も逮捕されませんでした」と、中島さんは残念がる。警察は捜査を始めるまでに3週間待ち、加害者とされる男性は非難を否定し、彼が警察から追われることはなかった。伊藤詩織さんは、彼に対する民事訴訟を起こした。

中島幸子さんは、100年以上前に制定され、昨年国会で改正されたに過ぎない性犯罪に関する法律を問題にしている。今回の改正では、レイプの概念が拡げられ、刑罰も強化された。

法務省によると、昨年、レイプ事件の訴訟手続きで裁判所に移送されたものはわづか3分の1のみで、裁判にかけられた1678名のうち、3年以上の実刑有罪判決を受けたのは、285名であった。

また、2017年に政府の実施した調査によると、レイプの被害者で、警察に報告したと答えた人の割合は2.8%で、58.9%が被害について誰にも、友人や家族に対してさえ話さなかったことがわかっている。

日本では、「多くの男性が、女性の体を自分の所有物だと考えていますので」と中島さんは指摘する。そして彼女は、この国では「同意の定義がまったく歪められている」と考えている。

「空き巣被害を警察に報告に行ったときに、「なぜそのとき家にいなかったのですか?」と訊かれますか?」

また、(性暴力を告発する女性たちに向かって)「あなたがそれを引き起こしたに違いない」と言うのも、まったく馬鹿げたことだと彼女は憤慨する。(了)

www.lexpress.fr

「日本:#MeTooムーヴメントの中心的人物が、民事裁判に勝訴」AFP News フランス語動画翻訳

2019.12.18

f:id:StephenDedalus:20211030172222p:plain

日本での#MeToo: 日本の#MeTooの中心的人物が裁判で勝訴した。

f:id:StephenDedalus:20211030172303p:plain

東京地裁は伊藤詩織さんの損害賠償請求を認める判決を下した。

f:id:StephenDedalus:20211030172341p:plain

伊藤さんは2015年に著名な男性記者からレイプの被害に遭ったと主張している。

伊藤詩織さん(原告のジャーナリスト): これはひとつのピリオドだと思います。しかし、勝訴したからといって、被害がなかったことになるわけではありません。私はまだ、自分の受けた心の傷と向き合っていかなければなりません。ですから、これが終りというわけでありません。

f:id:StephenDedalus:20211030172410p:plain

この訴訟はレイプの被害者たちが沈黙する日本でのタブーを打ち破った。

f:id:StephenDedalus:20211030172441p:plain

加害者とされる男性への刑事捜査は不起訴となっていた。(了)

 

(動画)

Japon: une figure de proue du mouvement #Metoo gagne un procès civil | AFP News - YouTube