「#MeTooを奪われた日本の女性たち」ELLE フランス語記事翻訳

2018.4.27

ハッシュタグ#MeTooは、世界中いたるところで拡散された。沈黙の掟を破る女性たちが、脅迫や社会からの追放を受ける恐れのある日本を除いて。

彼女は名前を隠すことも、顔を隠すことも望まない

「ええ、怖いです。しかし、現実と向き合わなければなりません。昨年(2017年)12月に#MeTooを表明してから、私の俳優としてのキャリアは台無しになってしまいました」
31歳の石川優実さんは、勇敢にもこのハッシュタグを使った、日本で数少ない女性のひとりだ。しかし、自分が味わったことと同じ苦しみを、ほかの大勢の女性たちも味わっていると彼女は言う。
「マネージャーは私を、二人の監督と一人のプロデューサーにあてがいました。映画界には、「役を得るために寝なければならない。特にデビューしたての女性俳優たちは」という暗黙の了解があります。私も女性として、そうするのは普通のことだと思っていました。問題を自覚したのは、ハッシュタグ#MeTooに出合ってからに過ぎません」
優実さんはこのハッシュタグを使ってから解放された気持ちを味わったが、すぐにそれは恥辱に変わった。「みっともない」「売女」「こんな話題に言及するなんて、日本人女性として恥ずかしい」などといった、批判や罵りを浴びたからだ。

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俳優の石川優実さんは、「#MeToo」と投稿することをためらわなかった。以来、彼女の「キャリアは台無しになった」という。©︎Xavier Tera 

 

日本ではレイプは激しく非難される。だがとりわけ、レイプ被害を語る女性たちは強く批判される。優実さんは、想像もつかないようなタブーを打ち破ったのである。
「私たちの文化は、苦痛や疑い、そして否定的な感情を内に隠すこと私たちに命じます」
フェミニスト大阪国際大学法学部准教授の谷口真由美さんはそう説明する。日本では街なかで、地下鉄で、そして隣人たちのあいだで性差別的な言葉が飛び交うことはない。人々の交流は礼儀正しいままで、日常生活は快適そのものだ。谷口教授はこう続ける。
「人前では「空気」、つまり雰囲気を読み、軋轢(あつれき)を避けなければならないと言われます。そして、声高にものを言ったり、自己主張して自分を尊大に見せることのないよう、子どものころに教育されます」
つまり、社会の調和を守らなければならず、そして無秩序を生み出す者を支持してはならない。そうすることで、自分自身が拒絶される恐れがあるからだ。同意的な態度を取り入れた若い女性たちが期待され、若い女の子は「可愛く」「ほほ笑んで」、男性を裏切ることのできない存在でなければならない。#MeTooはその急進性によって、意見の一致と家父長制のドクサ(思い込み)をおびやかす。
折り込み広告にも、テレビのスタジオセットにも、完璧な母親や、ハイパーセクシーな女性といったステレオタイプが次々と現る。
「私たちは未だ、男性たちによって指揮され、男性たちにのみ向けられた社会に生きています」と、谷口准教授は要約する。世界第3位の経済大国である日本は、女性議員や女性幹部の割合が10%未満であることから、世界で最も保守的で差別的な国のひとつに数えられる。第一子の出産後、母親となった女性の大部分が家庭にとどまる。昨年(2017年)発表された世界経済フォーラムの男女格差指数で、日本は144カ国中、114位に位置している。

「自分の国で危険を感じる」

伊藤詩織さんは、日本の#MeTooムーヴメントの創始者となり得たであろう女性だ。昨年出版された著書『Black Box』のなかで、彼女は安倍晋三首相に近い人物である男性から受けたレイプ被害を告発している。3年前、事件が起こったとき、警察は彼女に告訴を思いとどまらせようとした。加害者とされる男性は訴追されず、伊藤さんは祖国を離れて外国に移り住まなくてはならなかった。一時滞在中の東京で、彼女は自身が脅迫の的となっていることを説明してくれた。
「私は自分の国で身の危険を感じます。本を出版してから、大量のヘイトメッセージを受け取りました。男性からだけでなく、女性からもです。そして、昼も夜も、脅迫の電話がかかってきました。「死ねばいい」という内容のものです。私は当初、友人の女性の家に2ヶ月半のあいだ非難していました。それから、女性の権利のために闘うNGO団体の代表の女性から、ロンドンに来るよう勧められました。最悪なこと、それは、私のせいで妹が今も仕事を見つけられないでいることです。私は家族との関係を絶ってしまいました」

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自身のレイプ被害について著書の中で証言してから、ジャーナリストの伊藤詩織さんは日本を離れなければならなかった。©︎Xavier Tera 


勝見貴弘さん、45歳。練達の翻訳家で1万6千人のツイッターのフォロワーを持つ彼は、ひとつの世代の解放の意志を伝えるために闘っている。
「伊藤詩織さんは、女性で、美しく知的で、権力に近い男性に立ち向かうという、日本の女性蔑視的社会が憎む事柄のすべてを表象しています。彼女の受けたバッシングは、日本の女性たちに証言する勇気を失わせるはずです」
日本のメディアのなかで、「エル・ジャパン」のように被害者の声を取り上げたメディアは、ごくわずかである。
国営テレビ局NHKの匿名希望の女性記者は、次のように断言する。
「今日、話題がセンシティブなものであった場合、メディアは自己検閲をします。私は毎日、私の小さな胸をからかう部長の性差別的な冗談に愛想笑いしなければなりません。このような中から、セクハラに関する話題が放送されると思いますか?あたかも日本はセクハラの問題を免れているかのように扱われるのです」

「苦しみを口にするのは、利己主義的なことです。しかし、私にとって#MeTooは最後の手段でした」

フリーランスの記者で、ウェブサイトで記事を書いている小川たまかさんは、次のような壁にぶつかる。
「編集長を務めている女性たちでさえ、問題を過小評価してしまいます。みな拒否したり、無関心なままです。他人のなかに悪を見たくないからといって、沈黙のうちに苦しむのは非常によくあることです」
それでも、37歳のこの活動家はあきらめない。ちょっとした性的攻撃の被害者である彼女は、3年前にブログで自身の経験を共有することで、勇敢にもタブーを打ち破った。
「電車を利用する10代の子たちのほとんどが痴漢に遭っていると思います。初めて痴漢に遭ったのは10歳のときでした。高校生のときには、少なくとも週に一度は被害に遭っていました。ある日、男性から性器に指を入れられたこともあります」
フランスの法律ではそれはレイプに当たると言うと、彼女は「本当ですか?」と、その大きな黒い目を見開いた。
「友人同士でその話をしたものです。大人たちを信頼できるかわかりませんでした。相談しても母親たちは「気を付けないと!」と答えただけでしょう。両親は私の受けた被害を知りません。それは見えない傷として残っています」
メディアで、学校で、そして家庭で、性的虐待の被害者たちは、多くの場合沈黙しなければならない。日本は盗難やレイプといった犯罪の発生率の低さから、世界で最も安全な国のひとつとして紹介される。しかし、性的攻撃の被害者で告訴する人の割合は4%未満(原註:フランスでは11%)で、被害者の4分の3が被害について誰にも、近親者にさえも話さない。

26歳の俳優、清水めいりさんはこう証言する。
「自分の苦しみを口にするのは身勝手なことです。半年前、飲み会のあと、私は劇団のプロデューサーから一晩に二度レイプされました。警察は防犯カメラの映像を確認しました。そこには、廊下をよろめいて、加害者と互いに手を組んで歩く私の姿が映っていました。その映像から警察は私が性行為に同意していたと結論付け、そのせいで私は告訴することができませんでした」

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俳優の清水めいりさんは、性行為に同意していたとみなされ、そのせいでレイプ事件を告訴することができなかった。©︎Xavier Tera 


「被害者は身体的外傷でもって、レイプ行為があったことを証明しなければならない」

日本では、女性が男性と酒を飲みに行くことを受け入れた場合、暴行を受けたとしても、その責任は女性の側にあるという考え方が残っている。女性は身を守る術を知らなければならないというのだ。110年前に作られた性暴力に関する法律も、同じ考えに基づいている。望月晶子弁護士は、こう激しく抗議する。
「被害者は身体的外傷でもって、レイプ行為があったことを証明しなければならないのです!また、世間の人たちは未だに、被害者は夜、どこからともなく現れた知らない男性から襲われているのだと想像しています!」
彼女は日本では珍しい、レイプ被害者たちのための支援機関「TSUBOMI」を東京で設立した。彼女はそこで、およそ1500人の被害者を援助している。彼女は伊藤詩織さんの闘いに敬意を表する。その闘いによって、昨年10月に法律が改正され、レイプの最低量刑が在来の3年から5年に延長され、男性もレイプの被害者とみなされるようになったからだ。しかし、望月さんにとって、闘いは初めから負けが決まっている。レイプ加害者の99%が無罪となるからだ。
「私自身、依頼人に告訴しないよう勧めます。彼女たちにさらにトラウマを与えるようなことをしても、何にもならないからです。そうです、加害者たちは被害者の沈黙をお金で買うのです。私たちは、財力のある加害者たちと、平均4万ユーロという高額で示談交渉します。このような状況では、日本で#MeTooは理解されないのかもしれません」
彼女にとって、さらにより深刻なのは、同意の問題が法律でも学校でも言及されないことだ。

「私たちは一度もこの問題について議論したことがありませんし、高校生たちに性教育を施すことも拒まれます。寝た子を起こすことになるだろうからというのです」
京都在住で、ジェンダー史が専門の社会学者である牟田和恵さんはそう残念がる。その結果、ポルノが性行為の最初の入り口となっているのだ。
若い女性たちが「いや、やめて」—「イエス」と受け取る人もいますが—と叫びながら、地下鉄の中でレイプされる内容のビデオが、ワンクリックで何十本も視聴可能になっており、ポルノ中のレイプは、まるでゲームのように描かれているのです!このような状況で、日本人がどのように同意の意味するところを知ることができるでしょうか?」
和枝さんのような一握りのフェミニストたちが会議を開くなどして#MeTooにまつわる議論を活性化させようとしている。

谷口真由美准教授は、山積する課題を次のように要約する。
「問題は構造的なものです。どこから手をつければいいのでしょうか?教育?政治?経済?メディア?司法?それとも家庭ですか?」

京都の同志社大学の岡野八代教授がさらにより憂慮するのは、政治的状況が沈黙と中傷的言説を強めることだ。
「匿名の人たちだけではなく、超保守的な政治家たちまでもがSNSを使って私たちにネガティヴキャンペーンを仕掛けてきます。バッシングは10年前と比較して、より目に見える形になり、よりありふれたものになっていす。私たちは男性と日本の敵なのでしょう!」

伊藤詩織さんは希望を失っていない。彼女はたくさんの支持を受けているからだ。…ただし、ひそかに。
「たくさんの男性たちと女性たちがプライベートなメッセージで、私に感謝を示してくれました。彼らは公にそうすることを恐れていました。しかし、連帯はここにあります。隠された形で。ですから、私は続けなくては!」

チカン禍

「チカン」の問題は、1990年代に国によって考慮に入れられた。地下鉄で、ピンクの車両が女性専用となっている。しかし、男はしょせん男であり潜在的な脅威であるという考え方が残っている。斉藤章佳医師はこの2年間、自身のクリニックで、弁護士や家族によって送られてきた1,200人の痴漢加害者たちを診察してきた。
「男性を敬い女性を蔑視する「男尊女卑」の通念が未だに強く存在します。チカンの加害者たちは女性をモノとして見ています。しかし、男性は捕食者ではありません!それが、私が患者さんたちに最初に説明することです。彼らは治療を受け、リハビリを受けることができるのです。しかし、残念なことに世間の人たちは「好色な変質者から身を守る術を知らない被害者」といったステレオタイプの中にとどまることを選ぶのです」

斉藤医師によると、彼のもとを訪れる患者の典型は、サラリーマンで、既婚で、職場で上司にいじめられている男性だという。
「電車は家と職場のあいだでこのような男性たちが自分たちの激しい支配の欲求を満たすことのできる唯一の場所なのです」
斉藤医師によると、毎年10万人の日本人女性がチカンの被害に遭っているという。

彼女(たち)は行動を起こす

「エル・ジャパン」は、ジャーナリスト伊藤詩織さんの肖像を掲載した。彼女は、安倍晋三首相に近い人物である男性からレイプの被害に遭ったとして、男性を告発した。彼女の闘いは多くの外国メディアによって報じられたが、日本国内ではまったく、あるいはほとんど報じられなかった。
「エル・ジャパン」編集長のイヴ・ブゴン(Yves Bougon)は、こう説明する。
「われわれはリスクを取らなければなりませんでした。レイプや政治は大きなタブーです。読者の大部分がショックを受けたのは確かです。しかし、この話に世界的な意味を持たせなければならなかったのです」
記事の執筆者であるミエ・コヒヤマさんは、多くの支持を受けた。
「記事は大きく共有されました。特に俳優のアーシア・アルジェントさんによって。また、日本の女性たちが連絡をしてきてくれました。#MeTooムーヴメントは日本でも密かに進展しているのです」
未成年者への性犯罪の公訴時効撤廃と心的外傷性健忘(amnésie traumatique)のために闘う活動家であるミエさんは、現在、国際諸団体の支援による、性暴力に関する討論会を企画中だ。

団体「トラウマ性記憶と被害者学」代表のミュリエル・サルモナ(Muriel Salmona)医師は、女性弁護士と医師たちからなる日本の代表団をパリで出迎えた。彼女は感激した様子でこう語る。
「非常に活発な意見交換がなされました。彼女たちは、日本で先駆的なレイプ被害者受け入れセンターを、北海道に設立しました。彼女たちは情報と、支援を求めていました。私たちは双方のあいだでの共同研究を考えています」(了)

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