「日本での#MeToo: 伊藤詩織さんにとっての忘却に対する勝利 」TV5MONDE

TEXT by Terriennes, Isabelle Mourgere+AFP 2019.12.18(2021.12.24 再掲)

東京地裁は、伊藤詩織さんの損害賠償請求を認める判決を下した。賠償額はおよそ27,500ユーロにあたる。伊藤さんは2015年に山口敬之からレイプの被害に遭ったとし、山口氏に対して賠償請求をしていた。
2017年、伊藤詩織さんは、自身の経験を語ることで沈黙を破った。彼女は日本のテレビ局の局長から飲み物に薬を混ぜられレイプされたとして、その男性を告発した。彼女は自身の体験を綴った著書『Black Box』を出版した。そして事件から4年後のこの日、東京地裁は彼女の損害賠償請求を認める判決を下した。これは、日本での#MeTooの中心的人物となった彼女にとっての、最初の勝利である。
「わたしたちは勝訴し、相手方の訴えは棄却されました。これは一つの重要な節目です」
裁判所の出口で、支援者たちに見守られるなか、伊藤詩織さんはテレビカメラの前でそう語った。
「わたしたちはいくつかの証言を提出することができ、それらの証言は民事法廷で聞き入れられました」と彼女は喜び、漢字で「勝訴」と書かれたのぼりを掲げた。そして彼女は、「正直なところ、まだ実感が湧きません」と付け加えた。彼女は今回の判決が、レイプの被害に遭った女性たちの置かれている、社会的にも法的にも「時代遅れな」現状を変化させる一助となることを願っている。

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2019年12月18日、東京地裁前で「勝訴」と書かれたのぼりを掲げる伊藤詩織さん©️AP Photo/Mari Yamaguchi



裁判長は加害者とされる男性に対して、伊藤さんの請求額のおよそ3分の1にあたる、330万円(27,500ユーロ)の賠償金を支払う命令を下した。その一部は、彼女の弁護士費用を賄うのに当てられる。
告発された男性、山口敬之は記者会見の際に反論し、すぐに控訴すると発表した。
「国内外のメディアがもっぱら伊藤詩織さんの言い分のみを報じたことが、裁判に影響を与えて可能性がある」と彼は述べた。判決文の中では、伊藤さんが「意識を失い、身を守ることのできない状態で性的関係を持つことを強いられた」ことがはっきりと示されている。しかし、それにもかかわらず、山口氏は刑事訴追されていない。

伊藤詩織さん、日本の#MeTooの先駆者
世界中で#MeTooが広がり始めたころ、日本で今では「詩織さん」とファーストネームで呼ばれる彼女は、2015年に東京のホテルの一室で山口敬之からレイプの被害を受けたと主張し、日本社会を揺るがした。

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©️Édition Philippe Picquier



山口氏は日本の民放テレビ局のベテラン記者で、伊藤さんに自身の働くアメリカでの仕事のポストをちらつかせていた。伊藤詩織さんの説明するところによると、二人でレストランで食事をした際に、加害者とされる男性がおそらく彼女のグラスにドラッグを混ぜ、ホテルの一室で彼女を暴行したのだという。
現在30歳の詩織さんは、メディアの前で話し、『Black Box』と題した著書のなかで語ることで、自身の体験を公にした。
「警察署に告訴しに行ったとき、捜査員からは「このようなことはよくあること、捜査をすることはできない」と言われた」と、彼女はこの冷ややかで綿密な、そして資料に裏付けられた著書のなかで語っている。さらに彼女は「「日本で働くことはできなくなるかもしれませんよ?」これが捜査員が当初からわたしに繰り返し言っていたことだ。そしてわたしもそう思い込み始めていた。何も変わっていないかのように振舞って彼と同じ敷地内で働くのはあまりにも不安極まりないことだった。わたしたちが警察に行ったことに対して、彼はいつでも復讐することができた。彼がわたしを監視し、圧力をかけてくることをわたしは恐れていた。彼に対する逮捕状が取り消されるのに、上からの一言で十分だったのだ」と、この体制に対する闘いの告白の書の中で語っている。それから彼女はこう付け加える。「おそらく、わたしを黙らせるためのあらゆる手段が存在したに違いない。わたしの想像の範囲を超えた、あらゆる手段が。わたしは次第に追いつめられたように感じていた」。

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伊藤詩織さんの支援者たちの掲げる横断幕には「ブラックボックスを開け」と書かれている。これは、伊藤さんの著書の題名から取られたものだ。12月18日、東京©AP Photo/Jae C. Hong



共謀と上層部...
刑事裁判を得るための彼女の働きかけには、山口敬之の逮捕の直前にストップがかかってしまう。これは、彼女の説明するところによると、山口氏と(政治の)上層部とのつながりが理由なのだという。山口氏はとりわけ、安倍晋三首相の伝記作家でもあるのだ。山口敬之はレイプの非難に反論し、名誉を毀損されたとして、彼女を反訴した。しかし、彼は敗訴した。彼の言い分によると、伊藤さんは完全に酔っ払っており、夕食のあと一人で帰ることのできない状態であったため、自身の滞在するホテルに彼女を連れて行き、そこで彼女の求めに応じたのだという。したがって、彼は性的関係を持ったことは認めたが、伊藤さんが性行為に同意していたとみなしている。

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東京地裁前に集まった伊藤詩織さんの支援者たち©AP Photo/Tae C.Hong

レイプと日本の文化
伊藤詩織さんの力強い率先行動にもかかわらず、100年以上前に制定されたレイプに関する法律が最近改正されたにすぎない日本で、#MeTooは大きな広がりを見せていなかった。
また、伊藤詩織さんは、組織や機構のあり方がどれほど不適合なものであるかを強調している。たとえばそれは、レイプの被害に遭った女性たちの病院での受け入れ体制や、警察での被害者への配慮の欠如といった問題である。
性暴力に反対する人たちが、数ヶ月前から定期的にデモを開催している。これは、実の娘を数年間にわたりレイプし続けていた男性が、9月に有罪となりながらも、「時代遅れな」法律のせいで何の処罰も受けていないことに憤激させられてのことだ。裁判所は、男が娘を13歳から19歳のころにかけてレイプしており、娘が抵抗した際に暴力を振るっていたことを明確にした。そして、「すべての性的関係」は娘の「意思に反して」持たれており、娘は男からの繰り返しの暴力により、心理的支配下に置かれていたことが、判決により結論付けられた。しかし、それにもかかわらず、加害者であるこの父親に対して、いかなる実刑も下されていない。というのも、日本では法的に、激しい暴行や脅迫があったことが証明されるか、被害者がまったく抵抗できない状態であったことが証明されることが求められるからだ。したがってこの場合、被害者の抵抗を上回る暴力があったにもかかわらず、レイプ被害から逃れるために全力で抵抗したことを証明しなければならないのは、被害者である娘のほうなのである。この事件がきっかけとなって、フラワーデモは生れた。
世界経済フォーラムの最新の「男女格差指数」で、日本は149カ国中、110位に位置している。日本は、その司法システムの問題の多さから、非難を浴びている。裁判には非常に多くの時間がかかり、ときには数十年かかることもある。そして原告側に、裁判費用が返ってくるわけでもない。このような状況が、多くの人たちに、闘いを始めることを思いとどまらせている。そして、この非常な家父長制の国において、女性たちは暴力の被害に遭った際に、沈黙してしまう。しかし、このような状況も、伊藤詩織さんのおかげで少しづつ変化しているのかもしれない。(了)

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