「伊藤詩織さん 日本でのレイプに関する沈黙を打ち破ったジャーナリスト」 Grazia

TEXT by Anna TOPALOFF 2019.5.5

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© PHOTO : GEOFF PUGH/SHUTTERSTOCK/SIP

ジャーナリストの伊藤詩織さんは、4年前に受けたレイプ被害を勇敢にも告発した。この問題についての日本での拒絶反応や、停滞した状況に狙いを定めた彼女の著書が、先日フランスで出版された。「日本では贈り物を受け取ったとき、「いいえ(結構です)」と言わなければなりません。それは伝統なのです。つまり、人が「いいえ」というとき、誰もがその言葉が「はい」という意味であることを知っているのです。このような状況で、女性が性関係を持つことに対して「ノー」と言ったとき、その拒絶がまったく価値を持たないことは、驚くことではありません」彼女はこのことについて、いくらか知るところがある。2015年、26歳のとき、彼女は日本の大手テレビ局の支局長から、乱暴にレイプをされた。彼女が何度も「やめて」と叫んだにもかかわらず、首相に近い人物である加害者の山口敬之は、彼女が性行為に同意していたと主張し続けている。そして、裁判所は彼女の訴えを証拠不十分で不起訴とした。しかし、伊藤詩織さんは屈服しないことを選んだ。

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自身で事件の捜査をし、防犯カメラの映像のおかげで、加害者が彼女をホテルの部屋に連れ込んだとき、彼女は知らない間に薬を盛られ、意識を失った状態だったことを証明することができた。意識を取り戻したとき、彼女は裸の状態で、ベッドの上で加害者にレイプされていた。彼女はそのすべてを、フランスで出版されたばかりの衝撃の書、『Black Box』の中で語っている。この本は、日本では2年前に出版され、激しい議論を引き起こした。その力強い言葉とは対照的な、穏やかで落ち着いた声で彼女はこう語った。
「日本では、レイプの被害者は落ち込んで家に閉じこもり、恥ずかしさで沈黙させられているものとみなされます。私はそのすべてに耐えて生き延びることができるよう、闘う必要があったのです」
「被害者らしく」振る舞わなかったため、彼女はメディアやネット上で、激しい攻撃を執拗に受けた。彼女はこう語る。
「もっとも強く印象に残っているのは、私が自身のレイプ被害を公表したことに、世間の人たちがそれ以上に驚いたことです。よくこう言われました。「だけど、どうしてそんなことをしたの?」と。まるで、悪いことをしたのは私であったかのようにです!」

ハーヴェイ・ワインスタインの事件と#MeTooムーブメントの起こった2017年秋、伊藤詩織さんは、ネット上で非難され、同業者たちからブラックリストに入れられ、家族からは拒絶され、ほとんど鬱状態だった。
「メディアで被害を公表してから、性暴力の被害に遭われた女性たちからの証言を、毎日受け取っていました。私が話す勇気を持ち、沈黙の掟を破ったことに感謝する内容のものです。私は集団的な行動を起こす時が来たのだと思いました」
しかし、勇気を出して公然と発言する女性はいなかった。それはもちろん、そのように自身の体験をさらすことによってもたらされる結果を恐れてのことである。しかし、それだけではない。
「日本では、自身の個別性を主張するのは、良くないこととみなされます。みな、自分を主張することを避けて、遠回しな言い方をするのに慣れてしまっています。ですから、誰も#MeTooと言うことを望んでいなかったのです。このことから、特に日本の女性たちのために#WeTooムーブメントを創り出す着想を得たのです」
すぐにこのハッシュタグは成功を収めた。例えば、この国で初めて、メディアが性暴力に関する調査をせざるを得なくなったことである。「日本経済新聞」の調査によると、日本では女性の2人に1人が職場でセクハラにあっており、上司に被害を報告する割合はわずか35%にとどまる。前述のメディアによる調査は、そのような社会での小さな革命である。
「そして、「レイプ」という言葉がメディアで初めて使われたのです!」伊藤詩織さんはこう喜ぶ。
だからといって、彼女はこれらの変化に満足していない。彼女の見方によると、日本のレイプに関する法律は、性同意の概念を含んでいないからだ。
「被害者が「ノー」と言った事実が、暴行を特徴付ける要素とはならないのです。加害者に対して、言葉だけではなく、体で抵抗したことを証明しなければなりません。ところが、被害者は暴力を受けて身動きができなくなる可能性があるのです。また、私のように、報告する勇気を持った時にはすでに体のあざや他の傷跡が消えてしまっていて、手遅れだったという場合もあります…」

この闘いをリードするために、伊藤詩織さんは、脅迫や執拗な攻撃から逃れるために離れなければならなかった日本に、戻らなければならないだろう。彼女はプロダクション会社を設立したばかりのロンドンと、性暴力に関するドキュメンタリーを撮影しているシエラレオネとを行き来する生活のなかで生きる意欲を取り戻してはいるが、それでもすぐに日本に戻るつもりだ。
「私に決して戻ってきてほしくないと思っている人が沢山いることは知っています。しかしそれは私の国です!私には日本で暮らす権利があるでしょう。だって、私は何も悪いことをしていないのですから」
そして彼女はその言葉を繰り返した。まるで、東京に戻る際に彼女を待ち受ける事柄に対して、覚悟を決めるかのように。というのも、加害者から名誉毀損で反訴された件で、7月に裁判が開かれるからだ。そして、加害者は彼女に100万ドルを請求している。(了)

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