日本でレイプについて話すことの難しさ Le Monde紙

TEXT by Philippe Mesmer 2019.4.25

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書評―そのことについて話すか話すまいか。長いためらいと家族との話し合いの末、日本人ジャーナリストの伊藤詩織さんは、自身のレイプ被害について話すことを選んだ。彼女は『Black Box』と題した著書の中で話すことをした。彼女はそうすることを、「状況を前進させる唯一の手段」だと考えていた。なぜなら、「沈黙は平穏をもたらさない」からだ。
彼女は著書の中で、2015年4月3日に経験した、その「破壊の一瞬」について詳しく語った。元TBSの記者で、安部信三首相に近い人物でもあり、安倍の伝記も書いている山口敬之が、彼女に「デイト・レイプ・ドラッグ」を飲ませ、シェラトン都ホテルの一室で弄んだという。
告訴を望む伊藤詩織さんは、彼女に告訴を思いとどまらせようとする警察のためらいにぶつかることになる。捜査員からは、「このような話はよくあることで、捜査をするのは難しい」と言われた」
司法がもっぱら加害者の自白に頼る国で、性暴力犯罪を裁くのは特に難しい。
「密室で起こった出来事は第三者には知りえないと繰り返し聞かされた。検察官はこの状況を「ブラック・ボックス」と形容した。
そして、伊藤詩織さんは2014年の統計を引き合いに出して、日本で「警察に事件を報告する被害者はわづか4.3%である」ことと、また、半数以上の訴えが不起訴となっていることを指摘している。

屈辱的な質問

訴訟手続きそれ自体が、精神的につらいものである。彼女は繰り返される聴取の中で受けた、たとえば彼女が処女であったかを問うような屈辱的な質問に傷つき、そしてさらに傷つく体験だったのが、警察署の最上階で、「男性ばかり」のの捜査員たちの前で事件の「再現」をさせられたことであった。
しかし、その苦しみや、加害者が著名な人物で、彼の逮捕が警視庁の幹部で安倍政権に近い人物でもある中村格の介入によって妨げられるという出来事にもかかわらず、伊藤詩織さんは捜査を辛抱強く進めた。
彼女はスエーデンを手始めとして、「被害者たちが告訴をするためにいかなる困難にも出合わないよう、あらゆることがなされている」諸外国と日本の状況とを比較し、1907年に制定された性暴力に関する法律が2017年に一部修正されたにせよ、日本での性暴力の扱いが相変わらず時代遅れなものであることを残念に思っている。そして彼女は、日本の裁判で問われるのが、「被害者が心の中で同意していたか否かではなく、拒否の意思が明確に表現され、加害者にはっきりと伝わったかどうか」である点を指摘している。被害者の70%が身が固まってしまい、「擬死(immobilité tonique)」と呼ばれる遊離状態に陥ってしまうにもかかわらず、そのような状況が長く続いている。

感動的な、そして詳細で正確な証言である本書『Black Box』は、「レイプについてオープンに話すことをタブー視する人たちがいる」日本でもう働けなくなるかもしれないことを知りながらも、最後まで戦い抜こうとする伊藤詩織さんの意志を物語る著作である。(了)

http://www.editions-picquier.com/wp-content/uploads/2020/11/LE-MONDE-avril-2019.pdf