「伊藤詩織さんの闘い 性暴力に無関心な日本で、その被害にあって」Le Monde紙

彼女は、レイプ被害を受けた後の自身の闘いについて語る著書を執筆した。彼女が告訴したにもかかわらず、加害者とされる男性は不起訴となった。

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TEXT by Philippe Mesmer  2017.10.30

ハラスメントや性暴力の問題の広がりに対する理解を世間の人たちに与えるよう、被害者の女性たちを励ますために、アメリカの女優、アリッサ・ミラノさんによって考案された、ハッシュタグMeToo。この#MeTooが、日本に訪れるときはやってくるのだろうか?

何人かの女性たちが、このハッシュタグを日本でも用いた。しかしこの運動は、ハーヴェイ・ワインスタイン事件に対する日本のメディアの報道とまったく同じように、日本では限定的なものにとどまっている。困難な性暴力の告発に取り組むイタリア人女優、アーシア・アルジェントさんと同様に、ワインスタインの事件がきっかけとなって、ミラノさんはこのハッシュタグと、その他のアイディアを打ち出した。  しかし、日本も自身の悲劇をまったく免れていない。そして、被害者が声を上げることはほとんどない。フリージャーナリストの伊藤詩織さんは、声を上げることを選んだ。特に、「性暴力の被害者たちに対して機能していない法システムと、社会システム」とが変化するよう呼びかけるためにである。彼女自身も被害者であって、彼女は性暴力を受けた後の自身の闘いに言及した著書、『BlackBox』(文藝春秋社)を書くことにした。 

あなたのキャリアを傷つけることになる 

2017年10月24日、彼女は東京の外国人特派員記者クラブ(FCCJ)で記者会見を開いた。そこで彼女は、2015年4月3日の悲劇的な夜の出来事について語った。彼女はその夜、TBSの元記者で、同局の元ワシントン支局長でもあり、そして安倍晋三首相の側近で伝記作家の山口敬之から、お酒の入った夕食の後、シェラトン都ホテルで意識を失った状態でレイプされたという。彼女は告訴することにしたが、警察はためらい、彼女に告訴を思いとどまらせようとした。警察官たちは彼女に、「このような出来事はよくあることで、捜査をするのは難しい」と言ったといい、またさらに、「告訴をすれば、あなたのキャリアが傷つくことになる」と言ったという。  彼女は態度を変えず、最終的に捜査は行われた。防犯カメラの録画映像、証言や採取されたDNAといった証拠が集まり、逮捕状が発行された。しかし、山口氏の逮捕当日に指示が下り、逮捕は取りやめとなった。「週刊新潮」によると、この指示は当時の刑事部長の中村格が下したものだという。彼は菅官房長官の元秘書を務めた権力者で、安倍首相に近い人物として知られる。彼は「新潮」の取材に対し、逮捕を行わないよう要求したことは認めたが、政治権力の介入に関してはまったく否定している。 

告訴する被害者の割合は、わずか4% 

伊藤詩織さんは訴えたが、結果はむなしく終わった。彼女の訴えは、9月に(検察審査会で)否決された。山口氏は、自分が「決して法を侵して」いなかったことと、中村氏と知り合いではなかったことを断言した。山口氏は、自身の名誉が「いくつかのメディアからのこの事件の扱いによって大きく傷つけられた」として、今後法的処置をとることを検討している。  「レイプの被害者となって、社会の中で被害者が声をあげるのがどれほど難しいことか、気づかされました」  伊藤詩織さんはそう打ち明けた。他方で彼女は、もし自分がジャーナリストでなかったら、おそらく諦めていただろうことを認めている。公の場で声を上げるという彼女の選択が、日本での性暴力の扱いの問題を再燃させた。日本で性暴力事件を通報することは、大きく非難される行いで、告訴をする被害者の割合はわずか4%だと、『性犯罪・児童虐待捜査ハンドブック』の著者、田中嘉寿子検察官は残念がる。法務省が2012年に算出した数字によると、この5年間に起こった性的暴行事件で、通報されたのはわずかに18,5%であったという。そして加害者が逮捕された場合でも、そのうち53%の事件を検察は不起訴にしてしまうという。  今年(2017年)3月、2011年に同僚たちから飲み物に薬を混ぜられたレイプの被害者が勝訴した。しかし彼女は、民事での訴訟を起こさなければならなかった。というのも、刑事捜査のための彼女の最初の訴えは、検察から不起訴とされてしまっていたからだ。 

小さな勝利 

伊藤詩織さんは小さな勝利を得た。5月末に、初めて公の場で自身の被害について話した彼女だが、これを受けて、@ouenshiori というツイッターのアカウントが開設されたのだ。このことは、伊藤さんに向けられた攻撃への幾分かの穴埋めとなり、立法期間の終わりにあたる6月18日の、レイプに関する刑法の改正を、間接的に加速させた。新しい法律の文面では、捜査を開始してもらうために、被害者自身が告訴をする義務はなくなった。この文面は、様々な団体や個人から支持された。13歳のときに父親から性的暴行をうけた山本潤さんも、この文面を支持している。新しい法律では、第三者が捜査の開始を申し出ることができる。そして、レイプ犯に対する刑期は、以前は懲役3年だったが、今後は懲役5年の刑が課される。不幸なことに、被害者は脅迫や抑圧、あるいは抗拒不能であった証拠を常に示さなければならない。伊藤さんはこのことを残念がる。そして彼女は次のことを指摘する。  「問題なのは、スウェーデンで行われた調査によると、レイプ被害者の70%近くが擬死状態に陥ってしまうということです」  これは、危険に直面した際に身体が完全に硬直してしまう、防衛上の行動である。またその上、新しい法律は、犯人たちに対するいかなる治療プログラムも想定していない。伊藤詩織さんは次のように望んでいる。  「もし私たちが、この問題に対する、より幅広い知識を持つことができるなら、私たちは新たに110年間待つことなく、法律を変えることができるでしょう」(了) 

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